猫が居なくなった

母から突然、電話が出来ないかとLINEで連絡があった。
なんだ急にと思いつつOKを出し電話かけると「リン様がいなくなった」と告げられた。

リン様は私が各種SNSで使用しているアイコンの猫である。性別は雌。アイコンとして拝借はしているが母方の親戚の家の猫で自分の家の猫では無い。自分は帰省して遊びに行った時、母は仏壇に線香を上げに行ったときに会えたら会える、みたいな関係でほぼ他人みたいなものだった。
真っ白な長毛、目は綺麗な青、おまけに顔も良いとなにかしらの血統持ちのように見えるが、道端で一匹で震えていたところを拾われてきたのでどういう経緯でそういう見た目になったのかは不明だ。親戚の家は母が子供のころから続く代々のド田舎の猫飼いの家で、リン様の前にも飼われていた子たちがたくさんいたのだが、リン様の前の子と前の前の子が軒並み外で早死にしてしまったのと、飼い主が少しずつスマホからインターネットで情報を集めるようになった結果「基本は田舎の倫理観だが早死にはさせたくないので外には出さない」という中途半端に現代的な感じで飼われていた。

そんなリン様は私の目から見ても歴代の猫様と比べて異質だった。拾ってくるかうっかり生まれてしまった子をそのまま飼うという方針のおかげで歴代の猫たちはみんな短毛の雑種。そして程度はあれどそれなりに人には懐いた。懐かなくても放っておいたら何もしない、餌だけはもらっておくようなのばかりだった。なのにリン様は違った。気性が激しく相手をすれば威嚇してひっかかれて血を見ることになるので放っておくと、それはそれで癪なのか自分から全力でとびかかり飼い主を傷だらけにしたという。私も含めた親戚などの他所の人間が集まると、陰で隠れていればいいのにわざわざ表に出てきて、座布団を一枚独占しその場に居座った。そして知らない親戚が手を出して血まみれになるというのが恒例だったが、リン様は凝りもせずに他所の人間が集まるとそこに寄ってきた。人間が嫌いなのか好きなのかよく分からない、気ままで我儘なお嬢様だった。私と母が「様」付けで呼んでいるのは見た目もあるがこの性格のせいもある。

一度脱走してその際に子供をこさえて帰ってきた以外は、家の中か床下の土間で生活していたおかげか、歴代の飼い猫たちの中では一番長生きだった。歳をとるにつれて綺麗だった白い毛はボサボサになり、飼い主に突然とびかかるような真似もしなくなった。人間の中でも「身内の年寄り」には心を許していたようで、ここ最近はメインで世話をしていた飼い主のそばでつかず離れずボケーっとすることが多かったらしい。

そんな人が嫌いなのか好きなのか分からないリン様が、忽然と姿を消した。
飼い主が言うには、いなくなった日の朝から様子がおかしかったらしい。いつも通り「仕事に行ってくるね」と挨拶をして出かけて、いつも通り帰ってきてから姿が見えず、そのまま1週間以上経ったという。家から出た痕跡は無いので床下の土間にいることしか考えられないのだが、床板を引っぺがして確認するわけにもいかず……ということだった。おそらく人から見えないところに隠れてそのまま逝ってしまったのだろう。

子猫の頃から数えて15年。今の猫飼いの感覚からすると若干短い猫生だが、田舎の倫理観の飼い方で15年なら往生したほうだ。死に方とその対応に対しての是非もあるだろうが、よく言われる「猫は死期を悟ると姿を消す」だと思うとリン様らしいといえばらしいと思うし、私が飼い主だったとしても床板を引っぺがしてまでその死を暴こうという気持ちにはなれない。

noteのアイコンの写真は5歳ぐらいのまだ元気なころの写真だ。一緒に暮らしていたわけでもないのと「もうシニアだしいつかは」という思いは以前からあったおかげかそこまで精神的なダメージは受けていない。悲しくないわけではもちろん無いが、アイコンに写るリン様は元気に人の手をひっかいてくる可愛い我儘お嬢様だ。

せめて、私の記憶の中でだけでも、元気な姿のままでいて欲しい。

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