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10.私の頭の中の私

秋になると思い出す。
ウソのようなホンマの話。

今年もあの季節がやって来た。


どーーーんっ


そう、KOBE豚饅サミットの季節が!!!

忘れもしない数年前。
母が私に提案して来た。

ユーカリちゃん、私豚饅サミットに行きたいわ

母はいつの間に国際派になったのだろう。サミットと言えば、海外の首脳が集まり会議をするあのサミットではないのか。

へ?なんのサミット??

聞くと、神戸元町の中華街で開催される、いろいろなお店が集まり様々な豚饅が販売される集い?なのだという。新聞で情報を知った母が、私に行きたいと伝えて来たのだ。

豚饅のサミット…
面白そうじゃないか!!!

ほな、行こか

関西で豚饅と言えば551なのかもしれないが、神戸に住む我が家にとって豚饅と言えば三宮一貫楼の豚饅の方が馴染みが深い。三宮一貫楼の豚饅は、タネに玉ねぎがふんだんに使用されていて甘みが強く、噛めばタネがホロホロと崩れお口で広がる。皮にもほんのり甘みがあり、お子様からお年寄りにまで愛される逸品だ。

中華街は平日だというのに人でごった返し、母と私は人混みを掻き分けお目当ての豚饅探しに出掛けた。
それぞれの店舗が特色ある変わり種豚饅を用意しており、せいろからは湯気が立ちこめている。
どの店舗の豚饅にするか非常に迷う。

とりあえず最初は三宮一貫楼か。

三宮一貫楼の変わり種豚饅を食べたところで母が

あぁ、美味しかった
お腹いっぱいやわ

え!もう?!

こっんなに種類豊富な豚饅を前にたった1個で終わろとしている。

ここまで来て、ラディ引き下がるワケにはいかぬっ!と

お母さん、晩御飯も豚饅にしよ!
さっき見たあの店の豚饅と、老祥記買って帰ろうな?

老祥記は神戸元町中華街にあるこちらも老舗で、小ぶりの豚饅は三宮一貫楼とは違い甘みは一切ない醤油ベースのタネ。三宮一貫楼で育った私は最初こそ、ん?となったものの食べ出したらクセになる。酢醤油辛子(私は酢辛子派です)にちょんちょんとモチモチ皮を浸して食す。こちらも逸品なのだ。

わかった、そうしよか

母の快諾を得て、私は確か横浜中華街のお店が出す豚饅を買いに。老祥記を母へ任せた。どちらも長蛇の列だった。
並び始めたものの列はなかなか進まない。やっとこさ私の順番が回って来た時

「蒸し上がるまで10分お待ちください」

ガーーーンッ

在庫がなくなり、私はせいろを前に立ち尽くした。

できたてが持ち帰れるならそれも良しか、と気を取り直し、せいろから立ち上がる湯気をボケーーーッと眺めて待った。

無事に購入出来た母娘は家路へつく。

晩御飯も豚饅にして正解だった。できたてから時間は経ったものの、家の方が落ち着いてゆったり食べられるからだ。

私たちはその日心ゆくまで豚饅を堪能し翌朝を迎えた。

ユーカリちゃぁぁぁぁん!!

早朝1階から母の雄叫びが聞こえて来た。2階だった私の部屋まで聞こえるその声に何事かと飛び起きた。

なにーーーーっ?

めんどくさいから2階から返事した。

降りてきてぇぇぇぇぇ

母が大声を張り上げるのは珍しい。
私は急いで下に降りた。

みてみてみてっ!

母が広げた新聞に目をやると、そこには昨日の豚饅サミットの様子が記事になっていた。

あぁ、これ昨日のやつな

まだ寝たかったのに叩き起こされた私は無愛想に答えた。

これこれこれっ
ユーカリちゃんや!!!

え………?


キャプションに注目

その頃お気に入りだった見覚えのあるロイヤルブルーのスカーフ。

私だ………


お顔こそここで出すのは控えさせていただくが…

私の頭の中の豚饅を待つ私は
『せいろから立ち上がる湯気をボケーーーッと眺めて待つ女』
だったが、実際は違った。

『列の先頭で今か今かと期待を膨らませ食べる気満々の表情で密かに笑みを浮かべながら豚饅を待つ女』
そう、紛れもなくそれが私なのだ。

人生初の新聞掲載が、まさか豚饅を待つ写真。キャプションは

豚まん売り場に出来た列

消し去りたい…

世の中の皆様に、豚まん売り場に出来た列の先頭に嬉しそうに並んでいる姿を曝け出したのである。

さらにその頃お気に入りだったロイヤルブルーのスカーフ。
私の頭の中のスカーフを巻く私は

こんな感じでフワッとまとわせているはずだった。
それがどうだろう。
豚饅に気を取られすぎて、首元にほっそく巻き付けられた状態になっているではないか(涙)
これじゃあまるで、仮面ライダーだ………

カラーは違うけどね💙


追い討ちをかけるようにその日の午後学生時代の友人が

新聞載ってない?

と連絡してきた。

私だ………


それにしても新聞掲載とは何のお声掛けも無しにされるものなのですね。
確かに三脚を立てよじ登ったカメラマンとそれを支える助手がいたのは覚えているが、自身が写り込むとは想像もしていなかった。母のおかげで知ることとなったが、知らぬ所で新聞掲載されているということも有り得るのだ。

私の頭の中の私と現実の私に、随分とギャップがあることにも驚いた。
こんな薄ら笑いを浮かべているとは思いもしなかった。だが、これが『素』の私なのだ。
電車の中でそのつもりは無くてもnoteを読んでいる時もひょっとしたらこの顔なのかもしれない。

気をつけよ
電車でnoteを
読む時は

秋になると思い出す、ウソのようなホンマの話。

豚まん売り場に出来た列

今となれば良い思い出ですがね!

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