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ベルクソンと小林秀雄「二源泉」と「本居宣長」への旅

私が書いている「ベルクソンと小林秀雄『二源泉』と『本居宣長』への旅」シリーズをまとめたものです

「本居宣長」第一章 その2 申披六ヶ敷筋(もうしひらきむつかしきすじ)

 前稿で引用した初めの二つの段落に続き、雑誌から「本居宣長」の依頼を受けてしばらく何も書けずにいたが、うららかな晩秋の日にふと松坂に行きたくなってしまい、実際に宣長の住んでいた松坂に行ってお墓参りをしたというふうに続く。当時は両墓制と言って、身内でのお参りのための墓と「他所他国之人」向けの墓がありその「他所他国之人」向けの墓は、「山室の妙楽寺という寺の裏山に在る」と書かれている。  とあり、ここから宣長の遺言状の紹介へと移っていく。 この遺言書については発表当時から様々に

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まえがき

 日本の平均寿命は2022年の厚生労働省の統計によると、男性 81.05歳、女性87.09歳であるそうだ。一方で未婚男性の寿命の中央値が67歳という話があり、今年57歳の私はあと十年ぐらいすれば死んでいてもおかしくはない。  なぜこんなことを言い始めたかというと、小林秀雄は63歳から75歳まで十二年かけて「本居宣長」を執筆した。晩年の小林さんの担当編集者であって私も直接指導も受けた池田雅延氏も小林さんと同じく63歳から十二年かけて「本居宣長」を読もうと準備をしたとある(「小

思想の交差するところ(1)

 以前私は、師とも仰ぐ池田雅延氏に、ベルクソンは「二源泉」の例えば節「圧迫と熱望」において「道徳的活動」は「一つには圧力。一つには牽引」という「深層の力」が存在することを示唆しており、これは本居宣長の山桜への愛着、それはすなわち「もののあはれをしる」ということから始まる宣長の思想、ひいては「本居宣長」で扱われている中江藤樹、伊藤仁斎、契沖、荻生徂徠、本居宣長に至る「独」の系譜の主調低音だけではなく、「本居宣長」全体のテーマの一つではないでしょうか、という趣旨の質問をしたことが

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「本居宣長」第一章 その1 「主調低音」

 小林秀雄さんの「本居宣長」は難解で、その中でも第一章は特に難しいとされている。  第一章を俯瞰すると、民俗学の泰斗折口信夫氏に本居宣長について話を伺いに行くというところから始まる。次に雑誌に連載をすることとなりなんとも言葉になかなかならない想いを抱えながら本居宣長のお墓参りに行ったという話になり、そこから本居宣長の書いた遺言書の引用になる。この遺言書にはいわゆる「申被六ヶ敷筋(もうしひらきむつかしきすじ)」の話があり、おそらく宣長以外には誰にも理解し得ない謎がそこには横たわ

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