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#仲間と作る本 ~やっちゃんのスフレ~

「今度いつ帰ってくる?」

そう言ってくれる人は居なくなってしまった。


福島県いわき市

私が生れ高校まで住んでいた故郷。


私は父、母、妹との4人家族

けれど、父との血縁関係はない。

よくテレビのドキュメントなどで、大切に育てられ

長い間気づかずに、ある日突然伝えられる・・

など観たことがあるが・・

私は父と血縁関係がないことを

小学5年のときに知った。


ただ、伝えられたわけではなく

父の言葉や態度でうすうす察知していた。

けれど、それを母に伝えたら母が傷つく・・

そう思い黙っていた。


父はお酒を飲むと機嫌が悪い時は物に当たった。

私たちに手は挙げなかったけれど

テーブルの上の食事を全て床にばらまいたり

窓ガラスを割ったり・・

床に砂糖を蒔き散らかしたり(塩Ver.もあった)


父が暴れるたび、私は自分のせいなのかな・・

と思っていた。

私がいなければ、こんなに暴れたりしないのかな・・と。


早く大人になりたかった。

家を出て、働いて

自分の力で生きていきたかった。

でも、小学生の私には無理な事だった。


ある日、また父が大暴れをして

母と妹と一緒に家を飛び出した。

父が冷静になるまで、母の実家に身を寄せる途中

私は、思い切って母に伝えた。


「あのね、気づいたんだけど・・ あたしお父さんと血が

繋がってないよね。顔も全然似てないもんね」

何でもないことのように・・

そう伝わるように精一杯笑って言った。


お母さん、傷つかないで・・。


「私がいるからお父さんいつも暴れるの?」

なるべく母を傷つけないように・・

「私おばあちゃんの家に住まわせてもらうように

頼んでみるよ」

笑いながら明るく言ってみた。


上手くできたかは分からなかった。


母は「そんなことない」と手をギュッと握ってくれたけど・・


居場所がなかった。


今回、父の話を書くつもりではないので割愛するが

父は4年前に食道癌で他界した。

母とは離婚していたが、弱っていく父を一人にはしたくない

という思いから、父を福島から呼び寄せて

最期まで父を看ることができた。


詳しいことを知る友人からは

「よく許せたね」と言われたが

そもそも、許すとか許さないの観点ではなく

単純に一人では無理だろう・・という現実を感じたから

そうしただけだ。


それに、妹にとっては実の父だ。

妹が生きていく中で後悔をさせたくなかった。


今思えば、父はとても気が小さい人だったんだろう。

それに、優しい時もあった。


亡くなる3年位前から、私の手料理を好み

色んな話もした。

初めて知ることばかりだった。

そのくらい、何も話さなかったんだと感じた。



私が小学生の頃のほとんど

母も妹も体が弱くて、どちらかが入院している状態だった。

その度に私は、母方の祖母の家に預けられた。


祖母の家は、祖母と叔父、叔母、従兄が暮らしていた。

他にも従姉のお姉ちゃん、お兄ちゃんがいたけれど

歳が離れているので、大学進学で東京に住んでいた。


その一人、祖母の家に住んでいるのが

やっちゃんだ。


やっちゃんは引きこもりの達人だ。

その当時で、10年くらい一切外にでることはなく

家族と私、母、妹の三人にしか会うことはなかった。

プロ中のプロだ!


人と会うと、過呼吸を起こしてしまうし

精神のバランスを崩してしまう・・

だから病院にも通えなかった・・。


でも、すごく物知りで優しくて

心が繊細で・・

そんな やっちゃんが大好きだった。


ある日、妹の入院に母が泊りで付き添っていて

いつものように私は祖母の家に預けられた。

いつものこと・・

でも、一人ぼっちで広い部屋でポツンとしていると

まだ小学生の私は寂しくて泣きたくなってしまう。


そんな時、やっちゃんが

「えつ!綿あめ作ろう!」と綿あめの機械を運んできた!

なんでそんなものが?とビックリしながらも

やっちゃんが見本を見せてくれるのに

夢中になった。


私の番になり、ザラメを筒のなかにザラザラと入れ

ほどなくして出てくる飴糸を割りばしに巻き付けていく

綿あめの甘い香りが、お祭りを思い出して

また泣きたくなって・・


泣いたら、やっちゃんが心配するから

泣かないように・・

涙が目いっぱいに溜まっていたから

瞬きをしたら零れてしまうから・・


じっと割りばしの先に、いびつに重なっていく飴糸を

見つめながら巻き付けていった。


やっちゃんは、いつも私が楽しいと思うことを

探してくれた。


好きな芸能人が出るテレビ番組を

「今日○○時にでるぞ!」と教えてくれた。


カレーライス

アイスクリーム

いちごミルク

全部作ってくれた。


ひとりぼっちにならないように

いっつも笑顔になれることをしてくれた。


引きこもりのことを、なんやかんや言う人もいたけど

それがどうした!と思っていた。


やっちゃんは引きこもりのプロだから

昼夜逆転なんてお茶の子さいさいだ!

いつも眠りにつく頃、リビングで

やっちゃんがたてるかすかな物音に

なんだか安心した。

そばに居てくれる・・そんな感じ。


時々、やっちゃんがスフレを作ってくれた。

生れてはじめて食べたスフレは

やっちゃんの手作りだった。


「えつ~、スフレ焼くぞ~」の声に

大喜びでキッチンにダッシュした。


やっちゃんがスフレの生地を作る

私は見守る

やっちゃんがスフレの型に生地を流す

私は見守る

やっちゃんがオーブンに型を入れる

私は見守る

やっちゃんが焼きあがったスフレをお皿に盛る

私は美味しくいただく


スフレはやっちゃんみたいに

優しい味だった。

世界で一番おいしいスフレだと

今でも思ってる。


私は高校生になるとすぐにアルバイトをした。

その頃、父と母は別居することになったので

母に負担をかけたくなかった。

高校に行くと決めたのは自分だから

授業料も、卒業するまでバイト代から支払った。

上京するお金も、必要なお金も貯めた。


高校生の私にも

やっちゃんは時々、スフレを焼いてくれた。


私が高校を卒業して上京したときも

「今度、いつ帰ってくる?」って

聞いてくれた。


それから何年も何年も・・

「今度、いつ帰ってくる?」って聞いてくれた。


いつもいつも

ずっとずっと

帰るのを楽しみにしてくれてた。



ある日

「やっちゃん、死んじゃった」

と、従姉から深夜にメールが来た。


しばらく動けなかった

受け入れられなかった


やっちゃんは病気で救急搬送されていた。

あんなに人に会うことが恐怖だったのに

精一杯勇気を出して入院して治療していたのに


退院したら、一緒にお買い物とか行けるかな

やっちゃんに似合う服を見立ててあげたいな

いろんな「これから」が楽しみだった。


入院中、やっちゃんが笑顔で言ったセリフを

従姉から聞いた。


「ここから見える空、大きいんだよ!」


すごく嬉しそうに言っていたと。


長い間、自宅の自分の部屋の窓から

どんな気持ちで空を見てたんだろう

やっちゃんが最期に見た空はどんなだったんだろう


やっちゃんが他界して、ほどなくして叔母も亡くなった。

数年前に叔父も亡くなった。


祖母も、もういない・・。


もう、誰もいない。


やっちゃんは私の居場所を作ってくれてた。

やっちゃんのスフレみたいに

優しくて、ホッとできて、幸せな気持ちになる・・


やっちゃん、私は女性の居場所を作りたいんだよ

だから毎日考えて、よろよろだけど進んでる


母を見ていた

自分の力でもっと稼ぐことができていれば

もっと違う人生を送れたかもしれない


祖母を見ていた

起業して少しづつ会社を大きくした祖母。

女性がゆえに辛いこともたくさんあった。

そんな話もたくさん聞いた。

たくさん商売について教えられた。


そんな私だからできることが

きっとあると信じてる。


ある日、やっちゃんが焼き立てのスフレを

型から抜くとき

床に落としてしまい、悲しい顔をしたから

笑って欲しくて

「床に着いた上から切れば食べられる!!」と

包丁で数ミリ残し救出したスフレ


美味しかったんだよ

ちょっと薄くなっちゃったけどねって

やっちゃんが笑ってくれて

一緒に食べられて嬉しかった


そんな居場所を作りたいんだよ

失敗しても

落ち込んでも

頑張れる力や、ホッとさせてあげられる

そんな女性の居場所を

居場所を作れる種を渡せる場所を

作りたいと思ってる。


やっちゃんが居てくれたから

私は私でいられたよ。


人に会うのが苦手だったやっちゃん

みんなに読んでもらうものに登場させてごめん。

でも、知って欲しかった

やっちゃんっていう人がいたんだよって。


やっちゃんのスフレは大好きだったけど

やっちゃんがスフレみたいに

世の中から

スーッと溶けて消えてしまうのが嫌だった。


かけがえのない私の居場所でした。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

皆で作る感動、感謝のエピソード本の発起人の

拓さんの企画で、被災地の子供たちの未来を応援するという

コンセプトに賛同し、参加させていただきました。

仲間と作る本販売ページ

https://note.mu/takusansoudan/n/ncdbb0ca2f3d3














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