訪問者

☆あらすじ
財布の中身が空っぽになり運賃を払えず終電を逃して駅前で情けなく座り込んでいた男子大学生の亮二に中年男性の田川が声をかけるところから物語は始まる。金が無く困っているという話を聞いた田川が日給3万円で明日1日限り訪問客をもてなすバイトを提示すると亮二はそれに乗り、田川の住む築50年のアパートについていく。そして実際に翌朝7時頃から20時頃にかけて昭和っぽい服装の男子大学生と40代くらいの夫婦とおじいさんの5人が訪ねてきて田川の部屋を懐かしんで帰っていった。22時頃に田川が帰宅したところで訪問客の真相を聞くと彼らは皆以前この部屋に住んでいた人たちであり既に亡くなっているという。壁にかかっているカレンダーを見ると今日はお盆であった。

☆登場人物
加瀬亮二
… 都内の大学に通う大学生。
田川慶一
… 40代の会社員。
青木和雄(青年)
…50年前に田川の家に住んでいた人。
松野夫妻(松野忠雄、松野ゆき)
…40年前に田川の家に住んでいた夫妻。
篠原五郎
…20年前に田川の家に住んでいた老人。

☆シナリオ
○駅前にて
亮二、花壇のふちに座って財布を逆さまにする。何も出てこないので落胆。
亮二の心の声:何回やっても無駄だな。金がねえ。まだ夏休みは終わってないのに無一文だ。終電も終わっちまったし。これからどーしよう。
田川が改札を出てくる。亮二はちらりと田川の方を見て目が合う。田川は何かに気づいたような表情をすると亮二に近づいてくる。
田川:キミ、日給3万の良いバイトがあるんだけど今からやらない?
亮二:いきなりっすね。
田川:だってキミ、金が無いんだろう?終電逃したみたいだし。今からボクの家に来て良いよ。少し寝たらバイトしてもらうけど。
亮二:それマジですか?てか何のバイトですか?
田川:今日1日ボクの家に来る訪問客を出迎えて欲しいんだ。出迎えるって言ってもドアをノックされたら開けるだけで良いんだけど。
亮二:あー、それならやります。なんかよくわかんないですけど。
田川:そうか、ありがとう。それなら早速ボクの家に帰ろう。バイトはやってるうちに色々わかってくると思うから。
亮二は立ち上がり、田川についていく。

○田川の家に行く途中
亮二:家は駅から近いんですか?
田川:近いよ。すぐに着く。
亮二:そっすか。
黙々と歩く2人。そして田川の住むアパートに着く。
亮二:結構年季入ってますね。暗くてよく見えないけど。
田川:築50年だよ。さあ、あがって。
亮二は田川の家に入る。

○田川の家
物がほとんどなく、質素な家。
田川:ボクは明日朝早いからすぐに寝るよ。キミもそこら辺で少し寝たら良い。ボクが家を出るときに起こすからね。さっきも言ったと思うけどボクが家にいないときに何回か人が訪ねてくると思うからちゃんとドアを開けて招き入れるんだよ。それ以外は特に何もしなくて良いから。あとバイト代は今日の夜帰ってきたら払うから。よろしく。
亮二:わかりました。
田川:そんじゃ、おやすみ。
田川は着替えると布団に入ってすぐに眠ってしまう。
亮二の心の声:本当にこんな簡単で良いのかよ。だいたいこのおっさん何者なんだ。まあなんでも良いけど。とりあえず俺も寝よう。
亮二も畳の上で眠る。

○朝、田川の家
田川:おーい、起きてくださーい。
亮二はゆっくり目を覚ます。
田川:ボクは今から会社に行きますからね。今日は日付が変わる前には帰って来れると思うから。バイト、頼んだよ。
亮二:はい
田川は家を出ていく。亮二がスマホを見ると朝6時であった。亮二は田川の家のあらゆるところを見て回るが、特に何も無い。

○午前8時頃
コンコン。ドアをノックする音が聞こえる。
亮二はドアを開ける。
亮二:どうも。
ドアの前には昭和っぽい出で立ちの青年が立っていた。青年は黙って会釈する。
青年:お邪魔します。
静かに家に上がってくる青年。玄関にある鏡を見て驚く。
青年:うわあ、当時のぼくじゃないか。姿も戻るって、本当だったんだなあ。
青年は感慨深そうな顔で部屋を見て回る。亮二は部屋の隅で物を片付けるフリをする。
青年:ここ、ぼくが大学生の時に住んでた部屋なんですよ。
青年は独り言のように亮二に話しかける。
亮二:そうなんですね。今はどこに住んでるんですか?
青年:今?あなたはおかしなことを聞くんですね。
そう言って青年は笑う。
青年:ここに来れてよかったです。ありがとうございます。次に行くところもあるので、そろそろお暇します。
亮二:はい。
亮二がドアを開けて青年は帰る。亮二は青年の発言を不思議に思い少し考える。

○正午
お腹を空かせた亮二がキッチンで食料を探している時にまたドアがノックされる。
コンコン。
亮二:はい
ドアを開けると中年の夫婦が立っていた。
忠雄:どうも、ご無沙汰してます。あ、今年は田川さんじゃないんですね。はじめまして、松野忠雄と申します。こちらは妻のゆきです。
亮二:あ、ボクは田川さんの代わりに今日家にいる加瀬亮二です。どうぞ、上がってください。
松野夫妻は家に上がるとさっそく部屋を見て回る。
ゆき:思い出すわね、あの頃を。ここに越してきたとき小百合はまだ小学生だったわね。
忠雄:ああ。懐かしいな。この部屋で家族3人、川の字で寝てたよな。
ゆき:そうそう。ゆきはよくこの押し入れに入って遊んでたわ。
忠雄:そうだったな。今住んでる田川さんは押し入れに何も入れてないんだね。
亮二は2人の話に聞き耳を立てながら本を読むフリをする。
ゆき:あなた、お腹空いてない?お昼ご飯に何か作るわ。田川さん、何か食材買ってあるかしら。
ゆきに言われて亮二が振り返る
亮二:あ、ありがとうございます。でもお気遣いなく…
ゆきがキッチンへ行き冷蔵庫や棚を探る。
ゆき:例年通りほとんど入ってないわね笑 あ、でもこんなところにパスタがあった!この材料ならペペロンチーノができそうね
そう言ってゆきが料理をし始める。忠雄と亮二はちゃぶ台の前に座る。
忠雄:加瀬くんはよく田川さんの家に来るのかい?
亮二:いえ、実は昨日の夜に初めて来たんです。終電逃して困ってたら田川さんが声をかけてくださって。
忠雄:そうだったんだね。それは田川さんらしいな笑
亮二:松野さんたちは田川さんのお友達なんですか?
忠雄:僕らは40年くらい前にこの家に住んでたんだ。小百合っていう1人娘と3人でね。それで3年くらい前から僕らは毎年この日にこの家に来るんだけど田川さんが迎えてくれるんだ。
亮二:そうなんですね。お二人共お若いですよね。
忠雄:ああ、この家に来ると当時の見た目に戻るみたいなんだ。
ここでゆきが完成したパスタを持ってくる。この部屋に住んでいたときの思い出話に花を咲かせながら食事をする。
亮二:ごちそうさまです。洗い物はボクがやりますよ。
忠雄:悪いね。ちょっと長く居すぎたみたいだからそろそろお暇するよ。次は小百合のところに行かないとな。
ゆき:ええ、そうね。加瀬さん、ありがとう。
亮二:こちらこそありがとうございます。パスタ美味しかったです。
松野夫妻は家を出る。亮二は考え事をしながら皿を洗う。

○午後16時頃
少しうたた寝をしていた亮二。ノックの音で起きる。
コンコン。
篠原:よお、お前すぐ開かねえから今年はいないと思ったよ。ええ?ほらよ、これは冥土からの土産じゃ。あれ、お前はいつもの兄ちゃんじゃないな。
亮二:僕は田川さんの代わりに今日家にいる者です。加瀬亮二と申します。
篠原:そうかそうか。俺は篠原五郎、享年80のじじいだ。
亮二:え、享年?
篠原:そうだ。俺は80で死んだんだ。この部屋でな。
亮二は一瞬驚き怖くなるが、すぐに何か合点がいったような表情をする。
亮二:ああ、そういうことか。
篠原:とりあえず部屋に上がらせてもらうよ。
亮二:どうぞ。お土産までありがとうございます。
亮二は土産の和菓子をちゃぶ台に置く。
篠原:変わってねえな、ここは。おれはここで寝っ転がってテレビを見るのが好きだったんだ。
そう言ってちゃぶ台の前に寝転がる篠原。
亮二:田川さんが招待状とか送ってるんですか?
篠原:いや、そんなことはねえな。この部屋に住んでた奴はな、毎年この日にこの部屋に戻って来れるんだ。なんだか知らねえけど、そうなってんだ。
亮二:なるほど。
篠原:いいよな、この家。今は俺のもんじゃねえけど。
篠原はしばらくくつろいでから帰る。
亮二は妙に納得した表情。

○午後21時 
亮二がテレビを見てぼんやりしているときに田川が帰宅。
田川:ただいま。お、ちゃんといるね。今日一日、どうだったかい?
亮二:お帰りなさい。3人いらっしゃいましたよ。大学生と松野夫妻と篠原さん。最初は不思議でしたが、どんなことか分かりました。
田川:そうか。そうだよ、あの人たちはみんな昔この家に住んでいた人たちなんだ。既に亡くなっているけどね。
亮二:そうみたいですね。皆さんこの家に思い出がたくさんあるみたいで。なんか… 家って、良いですね。抽象的な言い方ですけど。
田川:はは、そうだね。僕も毎年そう思うよ。本当は毎年ボクがもてなしてるんだけど今年は生憎休めない仕事が入ってしまってね。でも君に頼んで正解だったよ。昨日キミを駅前で見たときになんとなくキミはこの家に起こることを静かに受け入れてくれる気がしたんだ。はい、これ謝礼の3万円ね。
亮二:ありがとうございます。昨日田川さんとお会いできてよかったです。僕にとってもとても良い経験になりました。
田川:それなら良かった。今日は終電の前に帰るんだよ。
亮二:はい笑 またこの家に来ても良いですか?
田川:ああ、良いよ。今度はボクがもてなそう。
家を出ようとしたときに亮二は壁にかかっているカレンダーを見て今日がお盆であることに気づく。
亮二:ああ、今日はお盆だったんですね。夏休みで曜日感覚が全然なくて。
田川:そうだよ。だから毎年この日にみんな家を訪ねてくるんだ。
亮二:お盆に帰ってくるって、本当だったんだな…(ぼそっと呟く)
田川:それじゃ、気をつけて。
亮二:はい。ありがとうございました。
亮二は家を出る。アパートの前の道を歩き1度立ち止まって振り返り田川の部屋を見つめるが、また駅に向かって歩き出す。
エンディング。

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