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南座吉例顔見世 観劇記①

猿之助襲名いらいらの南座『吉例顔見世』見物。
有名な狂言のハイライトをぎゅきゅっと詰め込んだ見取り距離の昼の部
まずは人間国宝になられた片岡秀太郎さんがこう言えばああ言う小憎たらしい姑様を小気味よく、そして最後にふと見せそうになる心の内の優しさに思いがけず涙しそうになるというひでりんならでの芝居。

輝虎配膳(てるとらはいぜん)

長尾輝虎愛之助
勘助妻お勝雀右衛門
直江山城守隼人
直江妻唐衣壱太郎
勘助母越路秀太郎

戦国時代のこと。敵対する甲斐の国の武田信玄と越後の国の長尾輝虎は、川中島で戦をしたがが勝負がつかず、武田方は当代一の軍師山本勘助を召抱えた。一方輝虎は勘助を寝返らせこちらの味方につけたいと切望し、いろいろと画策する。
ここは越後の国、長尾家の館。ここへ山本勘助の母越路が勘助の妻・お勝をともなってへやってくる。越路の娘・唐衣は長尾輝虎の家老・直江実綱へ嫁して今では勘助と敵対しているため会うことができなくなっていたが、「この世の名残に一目会いたい」という唐衣の希望を聞き入れての訪問だった。
まず唐衣の夫、直江山城守が出てきて、領主から拝領したものだと輝虎の小袖を越路に進呈しようとするが、越路は自分は古着を着たことはないといってこれを断る。

困った直江は唐衣に食事の用意を命じる。するとその膳をもって現れたのはなんと烏帽子直垂姿の輝虎だった。

輝虎は身を低くして、山本勘助の母を迎えることができたことを喜んでいると言い、お近づきの印として一献を差し上げたいと願う。しかし実は唐衣が母と会いたいというのは口実で輝虎は越路を人質にとって、勘助を味方にひきいれようという魂胆だったのだ。

これを見抜いた越路は「老いさらばえた母を餌に山本勘助を釣ろうとするなど、聞いたこともない話だ」とあざ笑い、輝虎が運んできた膳をひっくり返す。腹を立てた輝虎は刀を抜いて越路を斬ろうとする。直江は理を説いてこれを留めるが、輝虎の怒りはとても収まるものではない。

すると口が不自由な勘助の妻・お勝はそばにあった琴をもって、輝虎と越路の間にはいり、琴を弾き始める。お勝は琴の音にのせて、必死に越路の命乞いをし、かわりに自分の命をとってくれるようにと願う。輝虎もこれを見てはさすがに越路を斬ることを止める。命が助かった越路とお勝は長尾の館を後にする。

越路と言うお役は秀太郎さんならでは、唐衣の壱君とは愛らしく、お勝はいわゆる吃音の人、秀太郎さんの越路のしたたかなお姑さん、口は回らないものの心優しい嫁お勝、凜とした越路が自分の身を挺して姑を助けようとしてくれたお勝に思わず感謝の本音を見せそうになってさっと普段の厳しい姑の顔に戻る花道は観てるこちらが先に涙してしまう。

名女方二人の細やかな情の行き交う芝居は上方の匂いも感じてとても好きな狂言となった。
隼人君はスーパー歌舞伎の後だけどしっかり古典の様式美を備えた美しさ。愛ちゃんは存在感が半端ない。

#輝虎配膳 #秀太郎 #雀右衛門 #愛之助 #隼人 #壱太郎 #南座顔見世

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