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時平と猪八戒 6月歌舞伎座

昨年12月の伊達十から東京歌舞伎座遠征を始めたが何か心にくすぶり続けるものがあった。
私が観たい猿之助ではない。何故かコロナ前の猿之助さんを観た時の興奮や高揚感が無かった。狐忠信を観た時でさえさほど感情が動かなかった。
 六月大歌舞伎一部の「車引」時平と「猪八戒」と言うどちらも猿之助さんでみるのは初見の演目。
まずは「車引」から
 配役を見て時平かぁ的なガッカリ感があったのだがその気持ちは舞台を観てひっくり返されてしまった。車引の配役は
松王丸 松緑
梅王丸 巳之助
桜丸  壱太郎
時平  猿之助

個人的的には猿之助桜丸を観たいと感じた舞台であったが、三兄弟の素晴らしい出来に感動していると私の記憶は時平が登場し梅王丸桜丸を眼光鋭く射すくめるというものだが猿之助時平は妖術を使うというかすでに妖怪の様相で袖は高速回転で巻き上げ赤い舌を突出して梅王桜丸を押しつぶす勢いだ。こんなに面白い時平を見たのは初めて。
禍禍しさを纏う猿之助時平は初役でこれからそんなに演じるとは思えないお役。観られて本当に良かった。

もう一つは『猪八戒』猿翁十種の一つだそうだ。
台詞は全て義太夫が語る舞踊。
歌舞伎座の本興行では95年ぶりの上演となる演目で猿之助勤める猪八戒が女の童に扮し、生贄の身代わりとなって猿弥勤める魔神・霊感大王に対峙する場面はみどころ。正体が明らかになった猪八戒と霊感大王との立廻りの場面では、尾上右近勤める孫悟空、青虎勤める沙悟浄たちが加わる、アクロバティックでスピーディーな展開で目が離せない。
アクロバッティックな演出ではワンピースからおなじみのアクションチームの参加でより激しい立ち回りだった。特に村岡知憲君の変わらぬ美しい宙を舞うアクションに惚れ惚れ。
猿之助出ずっぱりの舞踊を観たのはいつ以来だろう。早替りもあり想像を軽く超える激しい舞踊にお家の芸である特徴的な踊りを織り交ぜ目が離せない。
七月になって有料配信を見てこんな所でこんな事があったのかとようやく全体を把握したが、舞台では猿之助さんの一挙手一投足に釘付けになっているので他の方を見逃しがちだ。それほど魅力的な猿之助猪八戒だった。

本人のインスタで早替りの裏側を映像で紹介してくれているが息は上がり疲れを見せながら化粧をする姿にこの人も人間なんだと思ってしまう。襲名の頃のドキュメンタリーを思い出す程舞台に命をかけている。

『猪八戒』でようやく私の心は満たされた。
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