春秋座花形舞踊公演
左手の怪我をした2017年も花形舞踊公演があった。残念ながら猿之助さんはご挨拶だけ。「観客の皆さんが嫌になるほど踊りたいと宗家と話した」みたいなご挨拶をされて泣けた。考えてみれはあの状況で春秋座へ足を運んで貰えた事事態が奇跡だったけど。それから待ちに待った花形舞踊公演が10月3日、4日あわせて3公演を開催された。個人的に東京へ遠征出来ない事情を抱えている身としては今年最後の猿之助さんかも知れない。
想像以上に厳重なコロナ感染対策を徹底している春秋座に感謝した。最近大学名訴訟で名を馳せた京都芸術大学の劇場なので若い学生さん達と交わるのはやはり不安がつきまとう。学生と観客のスペースをきっちり分けて検温、マスク、チケットのもぎりは自分自身で行う。スタッフと全く接触無しで自席まで行けると言うスタイルだ。歌舞伎座もこんな風なのかな。帰りもスタッフの誘導を待ち密を防ぐ。安心安全な観劇スタイル。
さぁ、待ちに待った舞踊公演の演目は
檜垣
玉兎
黒塚
悪太郎
選び抜かれた感のある演目がずらり。
#檜垣
能では三大老女といわれるらしい。私は亀治郎の会の猿之助さんの檜垣しか観ていない。宗家の老女は初日は嫉妬する女性の趣が強く、千穐楽は老いらくの恋から老醜に気づく妄執の老女感が溢れ涙しそうになるほど。
四位の少将を演ずる猿之助さんはひたすら二枚目で顔が崩れない演技を観たのは初めてに近いくらい久しぶり。『名月八幡祭』の三次以来かな。『荒川の佐吉』は初日に1度しか観てないので二枚目感を覚えていない。
踊りの名手中村富十郎さんの息子さんである鷹之資君は見事な成長ぶりだ。なんと愛らしい小町。普段は立役のイメージしか無かったので舞踊の実力を見せつけられた形になった。
#玉兎
御曹司が幼いなりに一生懸命踊る舞踊だと思っていたが、素踊りの大ちゃん(鷹之資)の踊りの巧みなこと。ストーリーがしっかり理解出来る大人の舞踊。カチカチ山ああ、清元の詞章を全部わかればもっと楽しいのにと勉強不足を恥じ入るばかり。
#黒塚
月の段のみを素踊りで。以前にもこの素踊りを観たことがある。その時は素踊りだから判る体の殺し方でぐっと体全体を締めて若い肉体を押し殺し老女の肉体を作り踊り進めるのに見入ってしまった。今回の老女は全く違う。心も肉体も老女が乗り移った様な猿之助さん。素踊りなのになんども観たあの黒塚の老女がそこに居る。
清々しい心持ちで月影の自分と戯れる愛らしい老女がそこに居た。猿之助さんは口癖の様に昨日より今日今日より明日と上手になるのが当たり前、舞台はその日限りで消えてしまう一期一会の物。本当にそうだ。記憶の中の素踊りの猿之助さんより確実に今回の黒塚の老女は猿之助さんの肉体と同化している。肉体は確実に衰えるはずなのに熟練した舞踊は肉体を超えるのか?老女の乙女心に酔いしれたひとときだった。
#悪太郎
悪太郎が見られるとは夢にも念わなかったので本当に嬉しかった。浅草歌舞伎で歌舞伎で悪太郎を演じたのは2010年のお正月。私は観劇が叶わず地団駄を踏んだ。当時女形が主流の猿之助さんが全くニンにないお家の舞踊悪太郎を演じると言うのでは話題になった。その一部がNHKの『伝統芸能の若き獅子達』に収められてる。悪太郎に苦戦する亀ちゃんの横顔、三拍子を取り入れた斬新なリズムにお稽古しながら悩む亀ちゃん。少しだけ舞台も映された。やっぱり繊細な亀ちゃんのニンでは無いことが映像だけでも窺い知れた。
今回の悪太郎は猿之助さんの為に作られた様なコミカルな演目。伊佐山ブームでコミカルなイメージがついたせいか猿之助さんは悪太郎そのもの。大酒飲みで酔っぱらいながら大薙刀を振る悪太郎は笑いを誘う楽しい振付で酔っぱらい振りも薙刀の扱いも堂に入ったものだ。この人の進化と深化に舌をまく。あの大怪我は2017年の10月9日、そしてこのような公演は2020年の10月3日と4日の二日間で3公演。もちろん完売だ。
たったの3年でこんな猿之助さんを見られるなんて、生きてくれるだけで嬉しい、芝居をしてくれるだけで涙し、こんなに踊れる様になったんだと感動していたのに完璧以上の黒塚の老女や転んだり落っこちたりの軽やかなな悪太郎を観せられるともっともっとと願ってしまうわがままなファンになってしまう。
『四ノ切』を観られる日は何時なんだろうと妄想しながら劇場を後にした楽しい2日間だった。
#市川猿之助
#京都芸術劇場
#春秋座
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