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新版オグリに思うこと

6日から始まった『新版オグリ』若手花形中村隼人君とWキャストでオグリと遊行上人を入れ替えて演じる。
そして今日は10月9日。2年前の今日猿之助さファンには衝撃が走った。
当時、ワンピース歌舞伎の再演でけんけん事尾上右近君とルフィのWキャストを歌舞伎でやるという画期的な上演を敢行した。そして事故の前日8日昼の部はけんけん主役の『麦わらの挑戦』タイトル通り本当に挑戦的な上演を成功させた。
夜の部、弾ける笑顔の猿之助ルフィが宙乗りしながら初めてスーパータンバリンを客席に投げた。けんけんルフィを観客が受け入れ喜んでくれた事を確信した喜びが、今まで以上に磨きがかかった可愛い少年猿之助ルフィを魅せてくれた。
翌日は国立劇場からの羽田空港の予定。
羽田に着くまでの間にSNSが不穏な空気を伝える。やがて猿之助さん骨折とどんどんネットニュースに上がる。
羽田に着いてから飛行機に乗るまでの間もスマホを見つめては不安と悲しみで体が震える。目から勝手に涙が流れる。
大手術を乗り越え10月の千穐楽にギブスのままで、骨折をしたスッポンから登場するというサプライズでファンとスタッフに歓喜を与えた猿之助さん。
11月の千穐楽には退院。以来超人的な活躍で死と隣り合わせの大事故のことなど忘れさせてくれた。

Instagramも始めファンを喜ばせてくれるし、高麗屋の御襲名には解放骨折から2ヶ月足らずで歌舞伎座に出演。4月松竹座でようやく口上に列座もかなう。松竹座の演目は『女殺油地獄』えぇ~油にまみれて転げ回るの!と不安になりながら左手ばかりを注視してしまった。
流石は猿之助さん。幸四郎さんも上手に猿之助お吉をかばいながら二人にしか出来ない女殺しを観た。若い男の傲慢さと心得違いの改心がやがて殺人へと向かわせる。母として妻として健気に慎ましく暮らすしっかり者のお吉の優しさが逆に油屋の放蕩息子与兵衛を狂気へと走らせる。お吉の存在感がこれほど強く感じられた『女殺し~ 』は初めて。
猿之助さんのケガの不安から徐々に解放されていく。そんなこんなで2年経ち今日を迎えた。猿之助さん自身元々若手にチャンスを与え育てて来た人。
東北震災、熊本震災を経て明日があることが有り難い。だから有り難い日々を懸命に生きると教えてくれた。そしてご本人が命の危機と向き合い今までより強く「忘己利他」の境地を得たのではなかろうか。自分を忘れて他人のためにつくすことで得られる喜び。他者と共に分かち合う喜び。そんな最澄さんの教えを華やかなエンターテイメントの中に込められいるのではないか。猿之助さんは熱心な仏教徒。梅原猛先生には生前に自分なりの「オグリ」を再構築する許しも得てそして哲学者梅原猛さんの追悼になった作品。「元禄港歌」が蜷川さんのへの感謝と追悼になった様に梅原猛桟への深い想いと彼自身の心の旅路を感じずにはいられない「新版オグリ」
宗教も哲学も判らない私だが彼の言葉や行動に学ぶ事は多い。だからこんなに長くファンとしての喜びを得られるのかな。

宗教を歌舞伎にすると言い切った猿之助さん。
現代の闇を様々にあぶり出す演出。SNSで炎上して追い詰められる老夫婦の破綻。オグリの元に集まってくる若者達の背景はDV、LGBT、抑圧への反抗等等頷ける理由ばかり。
舞台はまだ二度しか観られていないが、あの日からたった二年で再びスーパー歌舞伎Ⅱを同じ新橋演舞場でロングラン公演を上演出来るのは感慨深い。あの日のラッシュバックとはそろそろおさらばしよう。
皆の光に照らされる月でありたいと言う猿之助さんだけど気がつけばもう太陽だ。ギラギラとした圧倒的な熱量で砂漠で人を苦しめねじ伏せる太陽ではなくて、寒風吹きすさぶ冬にほのほのと暖かい日差しを届ける太陽だ。
青く孤高に光る月からいつも仲間が集まる優しい太陽に成長した猿之助さん。
新版オグリはまだまだ進化と成長する。

#市川猿之助
#新版オグリ

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