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新版オグリ 観劇記 1

猿之助が敬愛する哲学者梅原猛さんの脚本でオグリが初演されたのは1991年。劇場のドアを開けると観たことの無い光景が広がっていた。鏡張りの舞台に当時の舞台衣装が飾られ今回のスーパー歌舞伎Ⅱ『新版オグリ』現猿翁さんへの尊敬と新しい演出への決意。薔薇の花があしらわれた素敵なオグリの衣装。期待が膨らむ。薔薇の花はこの芝居のテーマに寄り添う花。
猿翁さんが当時やりたかった演出が今回猿之助さんの手によって実現する。鏡を使う演出はそのままに新たにLEDを使ったデジタルな映像を使う演出。
初日に猿之助オグリ2日目に隼人オグリを観て帰阪。
「一期は夢よただ狂え」武芸学問に秀でた美貌の若きオグリ。DV、LGBT、抑圧、様々な悩みから逃れて来た若者達と小栗党を組み自由と刹那の歓喜を求め生きている。ある日小栗党は、横山修理の娘、照手姫を輿入れ行列から奪い去るとこから舞台は始まる。オグリと照手姫が恋に落ち修理の怒りを買い全員殺されてしまう。地獄に落ちても閻魔大王にたてつき、閻魔大王から「餓鬼病」(がきやみ)の姿で娑婆に送り返される。手足は自由に動かず美しかった顔も醜く変わり果て生きる術は人の親切に頼るのみ。そこでオグリが得る人生とは?そんなストーリーだ。
猿之助さんは宗教を歌舞伎にするとどっかのインタビューで答えている。
初日は猿之助オグリ、一部、二部は光の演出に感心するものの少し拍子抜け。三部は餓鬼病になってからの猿之助オグリ。様々な人と出会う度に交わす言葉、最後のモノローグ。力技とも言える魂の台詞の数々。知らず知らずの内に目頭が熱くなっていた。
翌日は隼人オグリ、こんな難しい芝居はーちゃんにできるのか?隼人オグリの登場でそんな不安は消し飛んでしまった。
これも猿之助さんが話していた事だが、隼人君をWキャストに選んだ理由。隼人君の才能を見込んでのこと。その才能は2つある。一つは美しさ。これはこれは持って生まれた才能。もう一つは真面目さ。その真面目で懸命に学ぶ姿勢を評価したとのこと。
隼人オグリは登場から変な声を出しそうになるほど美しい。そしてその美しいオグリが発する台詞の素晴らしさ。猿之助さんの演出と猿之助オグリを懸命に見てくれ学び、ひたすら勉強した結果、オグリという若者が隼人君に憑依した。これは私個人の想像だけど演出家猿之助が創りたかったオグリがそこに居たのではないだろうか。
今回は小栗党の一味に玉太郎君、竹松君、男虎君という若手と猿弥ちゃん、笑也ちゃんというスーパー歌舞伎の申し子が混在する。
玉太郎君は横笛、大立ち回り、そして人を殺さなければ生きて来られなかった悲劇的な背景を背負った難しいお役。
猿之助さんはこの舞台でも若手を育てるのだ。そして附け打ちも特別バージョンがあるが若手の附け打ちは隼人オグリのメイン附け打ち、おもだか屋でおなじみの福島さんは猿之助オグリのメイン附け打ち。ここでも若手に門戸を開く。

2年前の10月9日命を失ってもおかしくない事故にあった。
それまでもお家の垣根を越えて若手俳優を育てて来たが、事故後の猿之助さんの人生観をも感じる今回の新版オグリ。
梅原猛さんへの追悼も含めながら、猿之助さんが考える人生の喜びを伝える物語。
噂によると隼人オグリの初日が終わった2日目の夜の部、猿之助オグリは初日とは全く違うキュートなオグリを演じてみせたという。
隼人オグリを成功に導く為に初日のオグリは大人のオグリを演じたのかしら。
舞台を成功させる為にそんな事もいとわない人だと私は思う。
ラストは光るリストバンドで歓喜の舞で舞台客席一体となる。これも益々進化して楽しい時間になりそうだ。
どんどん成長する隼人オグリと進化する猿之助オグリ。そして愛すること、信じる事を一途に体現する照手姫。新悟照手は転落の人生にもめげず諦めず健気な照手を表現。オグリと照手のラブストーリーでもある『新版オグリ』照手の熱演も日々成長する。
そして外からのお仲間も加わり今どきの事象も取り入れながら笑いも散りばめる。
浅野和之さんはもう猿之助スーパー歌舞伎Ⅱには欠かせない存在だ。ワンピースからのお仲間に加えて石橋正次さんが大切なお役で初参加。さあ、2ヶ月のロングラン公演だ。きっと評判を呼ぶに違いない。そして少しずつ修正も加えられる事だろう。次の観劇が楽しみ過ぎる。

#新版オグリ
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#中村隼人
#坂東新悟

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