わたしが絵画講師になるまで その4

前回はマニュアル作りを決心した根底の理由をお話ししました。今回はそのマニュアルをどのように作っていったか、というお話です。

このマニュアルづくりを発案したころ、時期を同じくして大人数での水彩画講座にて講師を任されたのだった。それはとても乱暴な企画で2時間の講座で週1回ペース、全6回。しかも人数は25人の初心者。さらに、講座終了までに成果は最低2つ、というものだった。

「これは困ったぞ」と、純粋に思った。

大人の絵画教室というのは、例えば、1つのモチーフを囲み、描いていくスタイルが一般的だが、そのやり方だと各人の経験年数によって講習内容にばらつきが出てしまい進行が複雑になることが多々ある。それが初心者で25人という団体となると、より複雑かつ困難になる。

その条件でも、例えば経験年数に均等な、ばらつきがあるならば、各人のレベルに寄り添ってある程度説明を端折ることができ、スムーズに講座を進められることもあるかもしれない。そうなれば全体のペース配分もしやすいだろう。

しかし初心者ばかり大人数の場合、そのレベル具合が初見では未知数のため、
まずはパーソナリティー観察を入念にしなければならない。2時間くらいは端的に探ったとしても、どうしても時間がかかってしまう。
観察をし終えた頃にはすでに内容の進捗程度がバラつき始め、それらを考慮し調整しながらの指導となるので、進行状況の確認に追われ、指導に集中はできなくなってしまうのだ。

そんな混乱状態の講師を尻目に、参加者は屈託の無い子供のように、楽しそうに絵を描いていき、分からなくなれば我先にと無邪気に質問するだろう。
とにかく質問をしたいだけの人は、質問という弾を機銃に籠め、一斉掃射を始めるだろう。予備知識があり勝手に進めていける人は機銃攻撃で穴だらけの講師をみて質問自体を遠慮するだろうし、何をしていいかわからない人は、作業をやめ遊び始める。
もう、パニックである。飛び交う質問は消化不良を起こし、現場は荒れに荒れ、各人の不満度も急上昇していく。
何度か大人数の企画講座を経験していたのでその予想は必ずと言っていいほど当たるのもわかっていた。

是が非でもそんな地獄絵図は回避しなければならない。

恐ろしさと共に、絶対の必要性を感じた。
企画の成功には必ずマニュアルのようなものが必要なのだ、と考え早々に準備を始めたのだ。

留意する部分はいくつかあった。
教える側の要点は
各人のレベルや描くペースを想定、一元管理。
質問をある程度想定出来るように課題の中で誘導しておくこと。

参加者のための要点は、
わかりやすいこと。
とりあえずマニュアルに従えばある程度は描けたという実感が湧くこと。
専門性がそこそこあり、参加したこと自体を誇れる内容。

この辺りはマニュアル作りには欠かせない内容と思うが、
その上に、今までの教則本やマニュアルにない視点を加えていこうとした。

まず大事にしたのは、専門性。
初心者は教わることがないであろう技法の解説を必ず取り入れること。
それも、一般的に存在するものだけでなく、独自に考案した技法などを取り入れる。そして、何より行った成果を見てすぐわかるようにするということ。

次に、マニュアル通りに進めたとしても各人のレベル如何で解釈が変わるような表記の仕方。誤解を生むような表記ということだ。


最後に最も特異な点として、工程中に不確定要素を織り混ぜ、失敗する可能性を織り込むこと。そのフォローは講座中に行われる。すなわち、マニュアルだけでは完成しない、講座とセットでやっとなんとなくわかる程度に仕上げたのだ。

実はその独自性を意識した部分が一番難しかったところである。特に最初の頃は、独自性の部分が受け入れられるか本当に心配だった。なぜなら、そんなことをまとめている教則本は今まで全くなかったからだ。しかも各人が同じ工程をこなしても同じような出来には絶対にならないのである。

書籍化された教則本など、大抵は技法の解説書程度のもので、そのほとんどは基礎的な知識や実践経験がなければ読んだところで理解できないようなものばかりだった。さらに悪いことに、絵のサンプルを描いた人物が言葉を書いていないのだ。だから、妙な不可解さが現れてくる。それに、本全体の目的は技術の紹介、解説が主で、実践できるかどうかはまず提言されていない。それではダメだろうと思った。何より使用する自分が納得いかない。

苦労の末、突貫工事とも言えるほどの短期間に仕上げられた。そして結果から言えば自分の予想に反して大盛況だった。

しかし、全てが思惑通りというわけでもなかった。次回はそのあたりを書きたいと思います。

今回はここまでとします。長々読んでくださりありがとうございます。次回も、どうぞよろしくお願いいたします。



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