短歌集 トヘロスの こうかが きれた! 収録作品

演奏をバンドに任せ、ライブ中トイレでうんこする星野源

「悪い人ではないけれど……」そう言われながらも、暗に嫌われる人

内観を撮るだけ撮って、商品を購入せずに客が出ていく。

数か月前からツイートすらも無い、ネットビジネス用アカウント

札束の写真をアップロードして見せつけてくる、ネットビジネス

お互いに横目で意識しながらも話しかけない男と男

AIが独自言語を編み出して、AIだけで会話している。

早朝の散歩のことを、「あさんぽ」と名前をつけて楽しむ男

「リュミエール」という名前のアパートが、放火によって光をまとう。

人望がないってことを、未読無視する人数で悟ってしまう。

悔しさをバネにしている義足士が、新たなバネで義足をつくる。

もう少し時間があれば、あの時の恋は成就をしたのだろうか。

髪型の撮影をする美容師は、客の半目を気にしていない。

誰からも理解されない苦しさを伝えるための「誰か」がいない。

警察の手が世界へと伸びていき、「ルフィ」を国に引っ張ってきた。

有人のレジが世界に無くなって、ヒトは「感謝」が何か忘れた。

パパ活で会った男に捨てられた女性が、乳児遺棄で捕まる。

UFOにハンバーガーのパティだけ吸い上げられた、という小噺

対面で柔和な人が、誰かとの通話でキツい口調に変わる。

院長が広島カープファンなので、視力検査にCしか出ない。

信号を無視することで、警察がちゃんと怒ってくれて嬉しい。

献血を呼びかけていたスタッフが貧血になり、輸血を受ける。

ゴスロリが旅のおともに持っているスーツケースがライムグリーン

運命の前で、どちらに曲がるかの猶予をくれるあそびの部分

『二時間で消えてしまった動画』って題で、釣ろうとしている動画

検察のねつ造により、本当は無罪の人が死刑で死んだ。

「わたくしは行きませんけど」バーゲンの広告塔をするデヴィ夫人

宿代が無くなったので、宿代が0円で済む地球に泊まる。

「ねえちゃんの足のにおいはコンポタ」と、姉の彼氏にバラす弟

パーティが終わったあとの、いただいた名刺と顔を合わせる作業

「生きている。そう伝えて」と伝言をあずかり、「生きていた」と伝えた。

片耳が壊れた無線イヤホンの、もう片耳を使い続ける。

パッと見は違和感のない人なのに、内心死ぬと決めている人

『本当のことをお伝えします』って、再生数を稼ぐタイトル

ドヤ顔でポストイットの例を出し、偶然性を語るコンサル

そうめんの箱を加工し、故障したギターを修理している男

「助けて」を言わないけれどシグナルを出している人には気づきたい。

聞き上手さんの話を今日こそは聞こうとしても、話してしまう。

一眼の私物カメラで、女子生徒だけ撮っている男性教諭

ガスをつけ忘れてしまい、十分後、桶ですくうと水風呂だった。

『感動の実話をもとにした、泣ける映画!』は、つまり実話ではない。

「ホームレスってのは、自分の意思が無い人がなるの」と、塾で教わる。

「秀吉は『ファシバフィデヨシ』だった!」って帯で、売ろうとしている新書

泣き虫の人に、涙を拭くためのタオルを贈り物として買う。

「長くいられると困る」と怒られたから、謝罪してその場所を去る。

「充電をしても電池が減っていくスマホになってしまった気分」

号泣で溜めた涙を鉢植えにあげたら、花は咲くのだろうか。

(このままじゃダメだ……)と思い、泣いている顔を洗って靴下をはく。

ムツゴロウさんの遺体に動物が寄り添い、頬でヨシヨシをする。

もよおしを我慢できない運転士さんが、三島に臨時で停める。

「体調はいかがですか?」に返信がないから、既読死したのだろうか。

タクシーの会計で一万円を出すと、運転手に怒られる。

傘をさしながら、右手を傘の外へと出し、降っているか調べる。

本来は二人で過ごすはずだったことがひとりになると、さみしい。

「照明を暗くしたから、泣いている人はここにはいなくなったね」

三月の終わりに、駅の定期券売り場に並ぶ人たちを見る。

動物の尿で腐った電柱が倒れ、頭に当たって死んだ。

ランダムで当たるカードを売った後、次はセットで売り、叩かれる。

「いとこって、四頭身の人だよね?」
(デフォルメされた、いとこなのかな……?)

「2児のママ☆2歳の双子☆食べること」
(ママは双子を食べてしまった……?)

「グレタさん、実は百三十歳の少女だった!?」 と、東スポの記事

イースター島出身のランナーが、いいスタートを切り、走り出す。

舌みがきしてから、アインシュタインがフォトスタジオに電車で向かう。

長針を十分進め、みんなより十分先の未来を生きる。

行きつけの整形外科に咲いている、名前がわからない白い花

エイプリルフールのネタで炎上をした声優が、謝罪している。

わたあめの香りをさせるおじさんと、席が隣になってしまった。

「この車、四人しか乗れないんだ」と言って、スネ夫がみんなに譲る。

クリスマスパーティをする星飛雄馬宅に、ひとりも訪ねてこない。

(『にほんごであそぼ』の、デカいオレンジでトゲトゲの人、今元気かな……。)

(アメリカの人はみんな、ペ・ヨンジュンをヨンジュン・ペって呼ぶのだろうか。)

ネプチューン名倉が、「ほんまごめん・・・・・・」って言いつつ、チリの首都を答える。

新卒で入った二十一人が、次々辞めていくデスゲーム

窃盗でしか「助けて」の表現ができない、住所不定の無職

パソコンにUSBを挿す時は、毎回上下逆の気がする。

メタバース内の人間関係に悩み、現実世界に逃げる。

「トヘロスの こうかが きれた!」と言うまで、無言で歩くネタの芸人

理科準備室で、みんなを笑わせる準備に励む人体模型

首吊りで自殺したから、棺おけの小窓に釘が打たれてしまう。

ある人は「例のプール」と聞くだけで、どんなプールかイメージできる。

「グラビアの水着部分を消しゴムで消すと、水着が白色になる」

スピッツのギターの人は、メンバーと仲が良いのか心配になる。

金欠で泣く泣くブックオフへ行き、『お金がない!』という本を売る。

駄菓子屋が、賞味期限の切れている駄菓子をごはん代わりに食べる。

ブレーキをいっぱい握りしめたとき、坂の途中で倒れてしまう。

知らんぷりグランプリなら、あの人は未読部門で優勝だろう。

Mキーが効かなくなったパソコンに、丸山はログインができない。

アイドルの入学を知り、「職権を濫用する」とつぶやく教授

ポケモンの動物園で、ゼニガメが客を気にせず交尾している。

「助けて!」と叫ぶ女性を助けたら、ビンタだけしてどこかへ消えた。

新築をストーリーズにあげている人に、炎のマークを送る。

売れなくて返品された、大量のSDGsバッヂを捨てる。

念願の最低時給五千円!( 缶コーヒーは、一つ千円)

「いつもより多く回しております」と、役所のたらい回しが叫ぶ。

うつぶせの吉瀬美智子がもみほぐしされる動画を見せられている。

「塩バタークレッセントが焼き上がりました!」と聞いて、買ってしまった。

遺伝子が1%だけ違う、チンパンジーとホモサピエンス

「『夜の』ってつけるとエロく聞こえる」と、夜の仕事をする人に聞く。

宗教の勧誘員が経典を片手に、立って微笑んでいる。

上映後明るくなった劇場に、ポップコーンが散らばっている。

爆音で候補者名を繰り返す人には、票を入れないでおく。

レコードを全て手放し、プレーヤーだけが自宅に残ってしまう。

「ねえちゃんと風呂入った?」と聞いてくる小学生に、つきあってやる。

「上座とか下座とかよく分からないから、適当に座っていいよ!」

オーブンで十年前のようかんを温め、知新するため食べる。

「ポケモンでいえば、三十一歳はあと一度なら進化できるね!」

以上、お読みいただきありがとうございました。
イベント等で手売り販売する本には、別紙のあとがきを、おまけでつけます。
一冊の希望小売価格は、1,106円です。
(手放される場合は、購入時のお値段で買い戻します。)
どうぞ、よろしくお願いいたします。

現代短歌の隠し子 江藤 はるは

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