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Pixivに「リクエスト機能」実装 -有償で二次創作イラストを描くことの是非-

イラスト、マンガ、小説作品の投稿プラットフォーム「pixiv」内の新機能として、クリエイターがファンから有償で作品のリクエストを受け付けることができる「リクエスト機能」が近日中にリリースされるそうです。

クリエイターに依頼料を払い、イラストを描いてもらえる「Skeb」というサービスは以前からありましたが、今回の「リクエスト機能」も基本的には同じようなサービスになると思われます。しかも、イラストだけではなく小説もリクエスト可能になるとのこと。

これらは”自分が好きなクリエイター””好きなキャラ””好きなシチュエーション”で描いて(書いて)もらえるという素敵なサービスです。

一方で、今回の発表を機に「Skeb」がサービスインした時にも起こった「そもそも有償で二次創作のイラストを描くのってアウトなのでは?」という議論がTwitterで再燃していたので、今日はそのあたりの権利関係ってどう処理されてるの?という部分を解説できればと思います。


前提:個人の二次創作の是非は版元次第

まず前提の確認ですが、個人が二次創作のイラストや漫画、小説を作ったり頒布することに対して、多くの版元(権利者)はアウト/セーフのスタンスやガイドラインを明らかにしていません。※「黙認」とは違うので注意してください!

版元が二次創作のスタンスを表明しない理由はいくつかあります。

・ガイドラインを定めた後の管理コストが大きい。

・ファンの自発的な発信を阻害し、作品の認知が進まなくなる。

などなど、理由は様々です。

なので、版元としては「(R-18含め)見えないところでやってね。問い合わせされたら規制しなきゃいけないから公式に凸はしないように」というのが実情です。繰り返しになりますが版元に凸はやめましょう。


クリエイターの責任

さて、前提の確認がおわったところで、

『印刷する同人誌と違ってWEB上で二次創作作品を売り買いするのって大丈夫なの?』

『個人ではなく法人が運営しているSkebやPixivが「二次創作イラスト」を発注できるサービスを提供するのってどうなのよ?』

というのが今回皆さん気になっているところかと思います。

Pixivの「リクエスト機能」はまだ情報が出揃っていないので、まずは先行するSkebがどういう対応をしているのか、ガイドラインを見ていきましょう。


作品の権利はクリエイターに帰属しますが、一切の責任もまたクリエイターが負います。責任をもって取り組んでください。二次創作については必ず作品の二次創作ガイドラインに従ってください。

と、下のほうに書いてありますね。

前段を含めて要約&乱暴にいうと

「二次創作のガイドラインが公開されていない版権のリクエストを受けたクリエイターは、依頼を受けてもいいけど何かあったら自分で責任とってね☆気になるようなら依頼受けなきゃいいだけだから☆」

という感じです。

まず、依頼側はどんな依頼を出そうが自由なので、著作権について今回気にすることは特にないと思います。「ディ〇ニーキャラのえっちピクチャーオナシャス!」というリクエストを出すのも問題なしです。受けてもらえる可能性は限りなく0に近そうですが…。

逆にクリエイター側は版権キャラの依頼を受けたとき、受けるかどうかは一考する必要があります。

著作権侵害が一部の悪質な事例を除いては版元判断になる以上、この辺りは版元の空気を読んだうえでの自己判断・自己責任になってしまいます。Pixivのリクエスト機能が解禁されたら「ツイステ」の依頼とかきそうですよね・・・どうするかはあなた次第です。


運営の責任

じゃあ次は運営についてですが、著作権の管理については正直自分はクリエイターじゃなくてサービス提供者がその責を負うべきだと思います。「歌ってみた」みたいにね。

実際、Skebについて自分の作品の二次創作イラストを売買された版元がいきなりクリエイターを殴りにいくか?というとそんなわけはなく、まずはSkeb運営に打診がいきます。

例えば僕が版元だとして「おいおい、運営はクリエイターに責任丸投げかよ!運営さんがちゃんと責任もって著作権の管理はしてくれよ!」と詰め寄ったらどうなるんでしょう?

そしたら、Skeb運営はこう答えると思います。

「クリエイターにはちゃんと各版元のガイドラインに従うように言っていますが、御社はガイドラインを公表されてらっしゃらないでしょう?ガイドラインのないものを守らせることはできませんよ」

「ぐぬぬ」の一言ですね。そして次にこう続きます。

「ただし・・・わが社の用意しているプログラムに登録してもらえればロイヤリティ(著作権利用料)をお支払いすることができるのですが、どうされますか?」

と。

内緒でお金がもらえる?一体どういうことでしょう?悪魔の囁きでしょうか?それにはこういう裏があるのです。


二次創作公認プログラム

そう、Skebには版元にちゃんと版元にお金を流す用意があるのです。それがこの「二次創作公認プログラム」です。

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版元は事前にこのプログラムに登録しておくと、自分の作品のイラストが描かれて納品されたとき、その依頼の取引額の10%をロイヤリティとして貰えるようになります。

10%ってすごいですよ。アニメやゲームの公式コミカライズとかってかなり手間がかかるのに版元がもらえる印税って5%とかなんです。対してSkebは監修とか何もしないのにぼーっとしてるだけで10%。これはヤバいです。

さらにさらに、希望すれば「自分の作品のえっちなピクチャー」からもロイヤリティをもらえます。秘密で。これはヤバいですね。二次創作同人誌全体の市場規模を考えると将来的にはシャレにならない金額が転がり込んでくる可能性があります。

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そのうえ、図にあるようにロイヤリティ10%はSkebのサービス手数料の中から捻出されるので、クリエイターやイラストの依頼主には追加費用が発生しないという殊勝っぷり。神運営か~?

皆さんも「やべぇ!ユーザーも損しないし、いますぐ推しの版元に教えてあげよう!」と思ったんじゃないでしょうか。でもよく見てください。図のとおりだとSkebの運営収入は1.4%になります。これってサービスとして大丈夫なんでしょうか?


求)フェアなプログラム

20/9/28のリリースで、Skebは「現在の取引高であれば総取引金額の0.3%の収入でサービスの維持が可能」と言っているので、結論から言うとたとえ運営収入が1.4%になっても全然大丈夫みたいです。

一方で、これはそうとう穿った見方ですがSkebはほとんどの版元が本プログラムに登録しないだろうと踏んでこのプログラムや10%という高いレートを設定しているという可能性もあります。

実際、上記のようなメリットはあるものの、僕が版元ならこのプログラムに登録しません。

登録して得る収益よりも、デメリットが大きすぎるからです。

毎日のように大手企業からの情報流出が報じられる昨今、「Skeb。ワンチャンお漏らしあるかも…」と思って身構えてしまうんですよね。

ということで、一応、運営側としても作品の権利を守るための用意はされているのですが、版元的な目線で正直なところを言えば、版元が登録しづらくアンフェアなプログラムだと思っています。

クリエイターやファン目線では、Skebもとても良いサービスだと思っていますが、Pixivの「リクエスト機能」では、版元に対してもう少しフェアな仕組みが用意されているといいなぁと期待しています。

自分も版元、クリエイター、ファンの新しい関係をみんなで模索していくことには大賛成で、Pixivの提案により議論が加速すると嬉しいです。続報に期待しましょう。


まとめ

・有償で二次創作イラストを描く際には版元のガイドラインを確認しよう

・二次創作のガイドラインがない場合、空気を読もう

・(個品的見解)著作権の適切な処理はサービス提供者がやるべき

・Skebのプログラムは版元不利

・Pixivからの続報を待とう


余談

クリエイターがファンからお金を受け取るサービスとしては、「Pixiv Fanbox」や「Fantia」などもありますが、これらは「二次創作イラスト」自体にお金が支払われているのではなく、作家の創作活動全体の支援のためのサブスクリプションサービスなので今回は触れませんでした。※たしか「鬼滅のイラストが見られるのは【1000円/月】コース以上!」とか、あからさまにやると指導が入ったような気がします。余談でした。

20/10/1 追記

Pixivリクエスト機能が始まりましたが、二次創作については言及ナシでした。

Pixiv全体の規約としては第14条で著作権を侵害する権利は禁止されていますが、BOOTHの個別規約第5条では「出品物が第三者の権利を侵害しないことを保証する」旨が改めて記載されているにも関わらず、Pixivリクエスト機能の個別規約ではそれが見られません。二次創作に関するリクエストについてのPixivの指針が見えない段階では、Skebを優先して使いたいと自分は思いました。

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