TRS(トータル・リターン・スワップ)で思うこと

2021年4月15日付け日本経済新聞の真相深層欄は「アルケゴスで巨額損失」というタイトルの解説記事が載っています。アルケゴスが組成したポジションとそれを受けた業者のポジションがどのようになっているのか、詳細には知らないので迂闊なことは言えませんが、投資家の過大なポジション、業者のリスク管理の不行き届き、みたいな結論にしたくないなあと思う次第です。それは確かにそうなのですけど。

TRSとは・・・

TRSはスワップ取引の一つですが、プレーンなスワップ契約が比較的単純な投資対象のリターンの交換を指すのに対し、TRSは契約内容の個別性が高い取引です。個別性とは、投資対象、行使条件、担保条件などが一般的ではないという意味で、それが良いとか悪いとかという意味はありません。その意味で「隠れみの」になりやすい性格を有しています。契約者相互間で契約内容がしっかり理解されていれば良いわけで、外部の人間は、TRSを受けた業者が投資家の代わりにポジションを取り、ポジションから得たリターンを投資家にフィーを取った後にお返しする、という仕組みなんだなぁと理解しておけばまずは良いと思います。

なぜTRSが必要なのか?

単純な現物をロングするだけなら投資家自身でポジションを取れば事足ります。しかし、ショートを含む複雑なポジションを組成したくなったり、レバレッジをかけたくなったり、複数の市場で取引したくなったりと、投資家にはリターンへの欲求を常に持っているものです。そして欲求を満たすためにはより高度なトレーディングシステムが必要になってきます。

投資家が自身のニーズの多様化・高度化に対応できるトレーディングシステムを自前で保有していれば良いのですが、必ずしもそういうわけではありません。金融市場では新しい投資対象が次々と誕生していますが、それらの取り扱いを可能とするシステム環境は遅れていると思います。

すると、投資家のシステム不備を何とか対応したい、痒いところに手が届く業者は「複雑なポジション組成の執行をやらせてください」となります。その裏には手数料を稼ぎたいという発想があるとは思いますが、これも極めて自然で健全です。

以上のような流れがTRSが生まれてきた理由でしょう。

TRSから見える今後の資産運用業

投資家の飽くなきリターン追求に応じた仕組みが業者が提供するTRSである、という見方に立つと、資産運用業の将来もいろんな見方ができるように思います。いずれこの問題についても考えて見たいと思います。

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