【メモ】古典ギリシア語の γ の鼻音化

0. はじめに

 古典ギリシア語の γ は、後続する音(文字)が κ, γ, χ, ξ であるときに鼻音化するが、この「γ が鼻音化する条件」を毎回忘れてしまい、γ を見るたびに縮み上がって夜も眠れないので、理屈をおさえておこうと思う。

§10. 子音の発音上注意すべきは次の二点である。
(中略)γ が κ, γ, χ, ξ の前に来る時は ng[ŋ] のように発音する。これを「鼻音のガンマ」という。これはギリシア語で文字通りに発音しない例外的な場合である(cf. §3)。
例 σπογγτος=spongos 海綿、λυγξ=lynx 山猫

田中美智太郎,松平千秋(2012).『ギリシア語入門 新装版』.岩波書店.p.4

1. κ, γ, χ, ξ に共通する素性

 γ の鼻音化を引き起こす4つの音は、それぞれアルファベットで次のように転写される。
κ: k
γ: g
χ: kh
ξ: ks
 このことから、4つの音は(雑に考えると) IPA 表記における次の音声におおむね対応する。
κ: k
γ: g
χ: kʰ
ξ: ‿ks

4つに共通しているのは、軟口蓋破裂音始まりであるということ。

2. 「ガンマの鼻音化」の音韻論的説明

したがって、「ガンマの鼻音化」は、次のような規則として説明できる。

古典ギリシア語における有声軟口蓋破裂音は、軟口蓋破裂音が後続したとき軟口蓋鼻音として発音される。
/g/ → [ŋ]/_[velar, plosive]

3. OCP (Obligatory Countour Principle)

 この規則はつまるところ、「似通っている音を連続して発音するのは難しいので、そのような連続を避ける」というものだが、これはまさに音韻論の Obligatory Countour Principle であり、通言語的な傾向とも整合的。

4. 感想

・"有声" 軟口蓋破裂音だけこの規則の適応対象になるのはなんで?回避先の鼻音がデフォルトで有声の素性を持っているから?
・ほかの子音連続はどうなのか?

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