個性際立つ仕事人達の初戦は熱狂の中へ~TIME FOR LOVEの日曜パームトーン劇場 2020/1/12

ここで違いを述べるのは「特撮ヒーロー戦隊」と「必殺仕事人」。ルックスや時代背景などの愚問に近いような比較論の話ではない。

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それぞれの武器だとか、イエローがカレー好きだとか、ある程度のキャラクターの相違は存在させつつも基本的に集団行動、連帯主義で、ド派手に悪を倒し、地球の平和という大義名分の下に活動するヒーロー戦隊。

対する仕事人は、中村主水が動き出せば個性際立つ刺客達が「遅れてすまねえ」などと一人、また一人集結し、その職人的な個の力を集結させ、ターゲットをクールに仕留めてゆく。

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ロックバンドに置き換えてみる。黎明期のグループサウンズの時代から現代のヴィジュアル系に至るまで、その様式の連帯に拘った「ライブエンターテイメントの大義名分のルールに沿いに掛かるコンセプト」のバンドは「ヒーロー戦隊」にほどなく近い。

TIME FOR LOVEのライブは後者の、「必殺仕事人」のイメージなのだ。

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fm GIG代表でありパームトーン・エージェンシーの「ボス」、サウンド面だけでなくトータルプロデュースでパームトーンの歴史を創り上げた絶対的存在のリーダー、ギター・ヴォーカルの冴沢鍾己。

その演奏は世界レベルの圧倒的なプレイ、日本古来の文化芸術分野から貴金属や古酒やグルメまで恐るべき造詣の深さを見せる、尺八・伴英将。

アジアを自由に飛び回るライフスタイルから日本で姿を拝む時は「レアキャラ」とも称され、カホンやコンガなど様々なインストゥルメントをマルチに操るパーカッション・金狼。

結成は2010年、2013年からはこの3人体制で活動しているTIME FOR LOVEだが、年に数回程しかフルメンバーで集結する事がないという、バンドとしては非常に特異な活動形態を見せている。

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更にそこにサポートで助太刀する、魅力溢れるパームトーンの所属アーティスト達。

活動10周年を迎え、その個性際立つ独立的な「仕事人」達が、「待たせたようだ、そろそろ行くぞ」とばかりに、2020年1月のパームトーン劇場に再集結したのだ。

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プロレスでも始まろうかという勇ましいSE。まだ照明が明るくなる前にTIME FOR LOVEの3人がステージでセッティングを始める。コーラスとキーボードの位置にBBガールズのたじとカナの姿もあった。

1曲目は「夢を見るかも知れない」。TIME FOR LOVEの代表曲でライブは爽快にスタートする。籾井優里奈もカヴァーするこの曲は、夢を追う全ての者を勇気づけてくれるような希望に満ち溢れたナンバーである。ひときわ大柄な鐘己がステップを踏みながらストロークを始める。英将のイントロの尺八のリードがこのサウンドの個性を一気に際立たせていた。9小節目から入った金狼のカホン、スタンドは特注品だそうだ。Bメロから入るたじとカナの澄んだコーラス、カナのエレピはボトムを支える役割も大きい。サビの「朝焼けには~」で観客全員で人差し指を天に向ける。英将、たじに加えギターヴォーカルの鐘己も自ら一瞬、指を突き立てる姿にキャプテンシーを見た。

続いて「ビロードの悪魔」。ギターがイントロからマイナーコードで曲の世界へ誘う。カウンターフレーズ的な尺八とカホンはビートが細分化された。正義に対して悪だとか、野暮な大義名分は存在しない無慈悲な情愛の詞の世界。「悪魔のような 君の笑顔が 今 欲しい」のサビで瞬く間に鐘己から放たれた「氣」が、熱を帯びながら空気を貫いていた。

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「浮き雲」は切ないスローナンバーだ。金狼のウインドチャイムが涼し気に鳴り響き、間奏では繊細なフレージングの尺八ソロ。サス・フォーのドラマチックなコードに乗せて、鐘己の歌声は心離れてゆく男女のストーリーを物悲しく演出している。その世界はオフコースの「秋の気配」を感じさせる情景にも映った。

「カナリア」。籾井優里奈によるカヴァーでもお馴染みのナンバーは、先ほどの「浮き雲」とは別のドラマの男女のストーリーを描いているようだ。カウンターリードの尺八とジャジーなビートのカホン。ここにブリティッシュフォークのようなギターコードが不思議と溶け合い、歌には「羽根だけは傷つけずに」「軽やかに飛び立つんだ」と男性の心優しさが詰め込まれて、このタイトルにイニシャライズされている。

「夕なぎ」は落ち着いたボサノヴァのナンバー、切ないストーリーのラブソングが続いてゆく。金狼が別のカホンを横置きに構えると、ボンゴの音色で心地よく響いていた。カナのシンセオルガンもお得意のボサ・バッキングで聴かせる。英将の尺八のソロフレーズはそのものが哀し気なインストナンバーのようだ。マイナーのナインスコードは心に夕景を映し出す。鐘己の歌声は一瞬3連リズムに変化して、その情景を切り取っていた。

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照明は、その夕景とは違う様子が伺える深紅に染まった。予感どおりのイントロが始まる。「苦い林檎酒」である。BBガールズによる歌のカヴァーとしても知られる、伴英将の尺八インストゥルメンタル・ナンバーが再現された。「これが出来るのもTIME FOR LOVE」と窺える一幕だ。哀しみを湛えた尺八の「罪深きメロディ」が流れるように奏でられ、周りのインストゥルメントと溶け合う。グルーヴィーなカホンにスプラッシュシンバルが弾け、アクセントを付けながらギターのストロークに徹する鐘己は要所のジミヘン・コードで攻めのプレイを見せた。

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紆余曲折のあったTIME FOR LOVEの結成当時のコンセプトは「歌謡曲のカヴァーを演る事」だったのだそうだ。そして暫しの間、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」が演奏される。往年の名曲でも英将の尺八のカウンターメロディが加わり「TIME FOR LOVEでないと表現不可能なバージョン」となっていた。

Cメジャーセブンスアドナインスの、まるで草原を駆け抜ける風のようなコードが鐘己のギターで搔き鳴らされた。「空が晴れたら」が始まる。爽快なメロディとは裏腹なほど、悲しき思いを背負ったミュージシャンのストーリーを歌ったナンバーだ。Cメロからの鐘己のブレイクで一気に歌の世界が切なく展開し、その裏腹な疾走感がセンチメンタルに響いていた。ウインドチャイムはキラキラとドラマを包み、尺八の後奏は「まだずっと続いてゆくストーリー」をメロディックに彩っていた。

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「TIME FOR LOVEが初めて演る」という、本日のキーとも言える一曲へと続く。「真昼の月」というタイトルのナンバー。ギターのコードワークはシンプルながらもそこに気怠さと熱が同居するような、フォークにも民族音楽にも感じられる、独特のバランスの16ビートだ。そのビートに合わせてカホンがグルーブを支えた。白昼夢のような抽象的な世界の歌に感じられた。情景は異なるが「ホテル・カリフォルニア」の「あの抽象性」のような。

「スィートホーム」も12拍子と独特なメロディの配合で個性の光るナンバーだ。鐘己がビートルズをインスパイアしたようなAメロを弾き語り、そこから切ないサビへと大胆な展開を見せる。弱い心を抱えながらも愛する人を守りたいそのメッセージは、曲調こそ大きく異なるが中島美嘉の「雪の華」のようにも映った。尺八のソロはメロディを優しくリプライズしていた。

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「秘密兵器(?)」として呼び込まれたのはギターの伊藤直輝。黒っぽいいでたちで「黒子として」とサポートに徹するようだ。「モーニングスープ」の、明るく跳ねるカントリーフォーク調のギターが搔き鳴らされる。男のマイペースと優しさが同居する鐘己の詞の世界。ライトなビートを刻むカホンの、金狼の手にはブラシ。尺八のカウンターメロに加え、英将のライトなコーラスワークはこの曲にマストな存在である。

「未来は今」のイントロのギターが始まると直輝が手拍子を求めた。「Come On! Come On!」「3!2!1!」とクラシカルなフレーズ満載のグルーヴィーな8ビートロックンロールだ。鐘己のステップは細やかに、お得意のビートに合わせてステージをクロックさせていた。「Yeah!!」とこちらもお得意のシャウト飛び出す直輝もグルーブに全身を預ける。手拍子で会場全体が一つになり、ゴキゲンなロックンロール・シンパシーが生まれていた。

「眩暈」はタイトルがアンチ・ミーニングなほどのオールド・ローリングブギーで始まり、サビでは艶やかなメロディに展開してゆくという、こちらもバランスの個性が鮮烈に光るナンバー。しばしバッキングを直輝に預け、鐘己が歌とアクションのみで魅せるシーンがあった。ジャズのリードのようなフレーズをソロで聴かせた英将はフルートのようなタンロール奏法も。金狼のスプラッシュがサビで弾けていた。

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BBガールズの2人が再登場し、今回ステージに立つフルメンバーが豪華に出揃った。「言われたらすぐ駆け付ける」(カナ)「もっと歌いたい」(たじ)と、らしさ全開の主張も忘れない。「わくわくシティパーク(主にゼスト御池で行われるフリーイベント)でもお馴染みのナンバーを」と鐘己が導入してゆく。

金狼のウインドチャイムで涼し気に始まったのは「夜明けのムーンシャイナー」。普段は個性的なアクションが目を引く、夢や憧れを抱きながら夜に息づく若者を歌ったノクターン・ポップと形容出来るだろうか。この物語の主人公は鐘己そのものなのかも知れない。コーラスのたじの手にはミニマラカス。間奏で英将が1mに届かんばかりの長尺の尺八に持ち替え、その低音を響かせていた。

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鐘己が目くばせをしながら姿勢をかがめる。イントロから鐘己・たじ・直輝の3人が揃って、駆け出すようなポーズをコミカルに反転させる。ファンにはお馴染みの「シーソーラヴ」だ。「夜明けのムーンシャイナー」を遥かに超えるアクションの個性際立つ、楽しいメジャーロックナンバーだ。イメージは沢田研二「恋のバッドチューニング」のグッドインスパイア的な曲調でも、アクションや掛け合いの圧倒的な「お祭り感」に溢れていて「これで盛り上がらなきゃウソだ」とライブには欠かせない一曲である。「鐘己ー!」「伴さんー!」「金狼ー!」のフルメンバーのコールはこのタイミングのレア体験だ。カナのピアノは的確にボトムを支え、コーラスのたじはタンバリンを手に全てのアクションをやってのけるパフォーマンス。何故か間奏で会場全員泳ぎ出す、ありえない展開のシンパシーが当たり前のように存在するのだ。

「シーソーラヴ」のイントロよりも更に低く重心を落とす鐘己。ギターをキース・リチャーズばりに身体のサイドで構えている。Cメジャーセブンスから展開するイントロの疾走感溢れるフレーズ。「加速度」が始まった。若さに任せて夜の街を突っ走る、切なさとスリルに満ちたビートロックナンバーだ。鐘己のサビの歌声のバックで、ギターの直輝のアクションが躍動した。たじの3度上のコーラス、カナの大サビ前の華麗なフレーズ、金狼のフラム、英将のカウンターメロ、全パートが溶け合ってイントロからエンディングまで風のように「大人の中の少年」が格好良く駆け抜けた。 

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鐘己が「当初、TIME FOR LOVEがCDを出す為に」とレーベル・パームトーンレコーズ生誕のエピソードを語る。「その(TIME FOR LOVE以外のアーティストの)試作品第1号」と語るたじはエヴァンゲリオンの綾波レイのような存在なのか、果たして…。そして金狼からは「(新曲を出すとかの情報は)外部メディア(Facebookなど)で知る」そしてカナが「うちらも」、この集団の「いつものペース」が垣間見えた。

鐘己が「20代の時に作った」と語るラストナンバーは「運命(ほし)の行方」。サビのメロディ弾ける16ビートのナンバーは、好きな人への思いを勇気に変えて未来に立ち向かう、若者の心を描いている。この前向きな曲をライブのラストで体感出来る幸福感。サビの2拍目でアクションが自然と出るほど、その刹那に感情が放たれる爽快感があった。

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鳴り止まないアンコールの拍手の中、今日のフルメンバーが再登場する。鐘己はギターを抱えず、大柄な身体は身軽そうだった。「君~だけの!」『君~だけの!』会場全員のコール&レスポンスの確認タイムだ。その「君の飛行船」はライブでお馴染みのメジャーナンバー。そのコール&レスポンスに加えて英将、金狼のソロヴォーカルのパートもあり、サビでは一斉に指を突き立てながら腕を左右にスイング。鐘己は間奏が終わると同時に両膝でスライディング…とはならないものの「(他の大規模ステージでのライブパフォーマンスに近い)再現」、「これ位ライブは盛り上がらないと」とクライマックスの熱狂の中、TIME FOR LOVE2020年の「初戦」は幕を閉じた。

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音楽面だけではなく、マルチにエンターテイメントをプロデュースする鐘己の「歌い、ギターを掻き鳴らし、ステージを楽しむ」本来の姿、英将、金狼も自らの特化した個性を持ち寄り、職人的な技と心とキャラクターを結集させ創り上げた100分程の時間。「特別な空間であり、そしてホームグラウンド」で魅力的な楽曲達と共にパフォーマンスを体感し、その上でシンプルに楽しめた素敵な大人のライブだったと感じられた。

「ライブ演るぞ!」「リハ嫌い(笑)」「気づいたらアルバム出てるんじゃない?」(鐘己・英将・金狼)

談笑のようにマイペースに、今年のTIME FOR LOVEについて語ってくれた3人。「じゃまた、そろそろ演る?」と陽気な仕事人達がまた、気候の変わる頃にはこのホームグラウンドに再集結して、観る者の心を華麗に仕留めてくれる事だろう。




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