『梨泰院クラス』のストーリーテリング(ネタバレあり)

少し前に大流行した韓国ドラマ『梨泰院クラス』をようやく見て、すっかり打ちのめされた。最終話まで見た今、いてもたってもいられず、こうしてnoteを書くことにしました。

『梨泰院クラス』、魅力は様々あるんですが、物語の作り方も素晴らしいと感じたので、どんなところが自分のツボにはまったか、思うままに書こうと思います。
動機が動機なので、ネタバレを含みます。なので、未視聴の方には、これ以降読むのをお勧めしません。是非先入観なくドラマを見ていただき、気が向いたら感想をどこかで書いていただければと思います。

そもそも、梨泰院クラスとは?(あらすじ)

韓国を代表する外食企業、長家(チャンガ)の会長と御曹司に大切なものを奪われ、天涯孤独となった主人公、パク・セロイ。彼が復讐を果たすため、梨泰院(イテウォン)で飲食店を開き、仲間たちと韓国トップの外食企業を目指す物語。


ツボ1:とにかく衝撃的な第一話

第一話、信念を貫くことにこだわり、人間関係に頓着しない主人公、パク・セロイが登場します。
不器用ながら真っ直ぐな彼の生き方に、不思議と憧れを抱いていると、あれよあれよという間に理不尽な理由による退学が決まり、交通事故で最愛の父まで失ってしまいます。
そして、恨みに駆られたセロイは、父を車で引いたチャン・グンウォンを殴り、殺してしまおうとします。
終盤、雨の中で一心不乱にグンウォンを殴るセロイの姿は痛々しく、暴力シーンが苦手な自分はそもそも直視し難く、なんと鬼気迫るドラマだろうと感じました。
そんな衝撃的なイントロがあったからこそ、セロイの思いに感情移入し、その後の物語に熱中したんだろうと思います。
何事もはじめが肝心と言いますが、第一話で、視聴者を一気に物語を引き込むことができたのが、このドラマが成功した一因でしょう。


ツボ2:主役・脇役問わず丁寧な人物描写

今作では、主人公のセロイやヒロインのオ・スア、チョ・イソはもちろんのこと、セロイと共に居酒屋「タンバム」を作っていく仲間たち(チェ・スングォン、マ・ヒョニ、キム・トニー)、果ては移転後のタンバムの近所で金貸しをしているおばあちゃん(キム・スンレ)に至るまで、丁寧な人物描写がされます。
16話あるシリーズのそれぞれの話で、各登場人物にスポットが当たり、彼らの思いや過去が描かれることで、一人一人が生き生きと胸に迫り、物語に厚みをもたらしていると思いました。
個人的には、「最強の居酒屋」決勝本番でトランスジェンダーを克服するヒョニさんの姿に涙を禁じ得ませんでした。
そして、悪役たちもそうした丁寧な人物描写の例に漏れません。
父をひいた、鼻につく御曹司のチャン・グンウォン、その父のチャン・デヒにも、彼らなりの正義があることがありありと浮かび上がります。
最初はとにかく嫌いだったグンウォンを、終盤「可哀想だなぁ」と思ったり、権威主義的で高圧的だとしか思わなかったデヒに、クライマックスですっかり感情移入してしまったり。
明確な悪役がおらず、一人ひとりに彼らなりの正義があるんだな、と感じさせる物語が、本当によかった。登場人物たちも、互いの価値観を受け入れられないと考えつつ、相手への敬意を忘れていないのが素晴らしかったです。

ツボ3:飽きさせない、見事な緩急

今作の1話あたりの長さは、大体1時間強。
決して短い時間ではないですが、中だるみするであろう30〜40分あたりに山場を持ってきたのち、一度落ち着けて、ラストで目が離せない展開にする、という王道の作り方を愚直にやっています。
そのおかげで、1話1話があっという間だし、次を早く見たくなりました。飽きさせない緩急とテンポ感の良さが、重厚なストーリーの価値を損ねず、むしろ高めていると感じました。


そんなわけで、すっかりはまった『梨泰院クラス』全16話、一週間足らずで完走してしまいました。
信念を貫くセロイの姿がとにかくかっこいいし、1話に1つは名言があるし、日々を生きる僕たちの背中を押してくれるし、とにかく良い物語でした。

後半、いやにラブコメっぽくてなんだかなぁと思うところもありましたが、よくよく考えてみれば、信念を貫くあまり周りとうまくやれなかったセロイが仲間を見つけ、愛の中に幸せを見出すというのが物語として練られていたところなのでしょう。信念!韓国で一番の外食企業!と燃えている、ある種青臭いセロイが大好きですが、友情と愛の中に幸せを見いだしたセロイの姿もまた眩しい。

あとは、スアがかわいそうだな、と思うこともありましたが、ただただ待っていたスアが恋に破れ、セロイに尽くしたイソが報われるというストーリーも、よく考えられているなと思いました。スアをある種切り捨てたからこそ、この物語はさらに輝きを得たのだろうと(こんな書き方をすると、いよいよスアがかわいそうだけど)。

とにかく、とても良い作品です。
他の人の感想も聞いてみたい。読んでみたい。