映画「銀河鉄道の父」

20代の頃,劇団が宮澤賢治作品を基にした芝居をやっていた時に賢治の弟さんの宮澤清六さんのお話を伺ったことがある
お年を召されているのに賢治作品への情熱が伝わってくる方だった

原作の直木賞小説は未読だ
宮澤賢治のドラマというと
求道者賢治が聖なる妹トシの死によって作品を更なる高みに昇華させるというような
賢治とトシをひたすら美化したものを見たが
賢治の父目線なら彼を等身大に人間らしくえがいているのではないか

始まる前に制作会社の木下工務店グループロゴがばーんと出る.
ここは建築不動産業績の一部を映画に出資するというとても奇特な会社だが
出来上がるのはどちらかというと安直なヒューマニズムが鼻に突く作品だ(個人の印象
これは失敗したかなあと思いながら観始める

父親にとって賢治は手に余る孝行者とはいえぬ惣領息子だ
映画はそんな賢治の無軌道な行動を淡々と描く
家業の質屋を継ごうとせずに
鉱物に凝って人造宝石制作会社を作ろうとしたり
農学校に行って農業志望したり
法華経に狂信的にハマって家を飛び出したり

トシの死以降,花巻に帰った賢治は
詩と童話執筆も
羅須地人協会で農業指導するのも
とても暖かく肯定的に描かれ
父親たちに見守られながら死んでいく

映画全体の印象としては
どちらかというと平板で,制作会社カラーらしく薄いヒューマニズムで覆われた感もあるが
そこはそれ

祖父:田中泯
父:役所広司
賢治:菅田将暉

という,当代きっての名優たちが画を支えきり
ヒューマニズムを一身に背負いきった役所広司はさすがだし
何といっても菅田将暉が,手が付けられなくのめり込む純粋なお坊ちゃま像を演じきっていてすごみがありました