呪孵し
暗闇の中で石を飲む。うずらの卵程度の大きさのものを選んだが、丸呑みするのはやはり辛い。唾液を溜めるのがコツだと母が言っていたことを毎度思いだす。
苦しみに耐えどうにか嚥下し、水を飲む。石以外何もない胃に流れこんでいくのを感じる。
冷蔵庫で冷やしてあったにも関わらず胃の中がわずかに熱を帯びた。成功だ。
部屋の照明をつけ、儀式の痕跡を片付ける。
儀式の影響で冬も近い時期だというのに汗が止まらない。シャワーを浴びて早々に眠りに就く。
目が覚めると熱は引いていた。日付を確認すると儀式を行ってから二日が経っている。今回は少し時間がかかったようだ。
SNSを確認するとそこには依頼人からの感謝のメッセージが届いていた。無事に呪うことに成功したようだ。
呪孵(まじないがえ)し。それが我が家に代々伝わる呪法の名前。
想念を対価に石を孵化させ、対象を呪う。
昔は宝石を使ってその場で呪いをかけていたが現代では宝石は対価として貰い、そこいらで拾った石に想念を込めてもらっている。
孵化した呪いが対象を呪い殺すまで私の意識が戻らないのが普通の石を使う欠点だが、換金できる宝石を私の胃の中で溶かすよりはマシだ。
鼻歌交じりに着替え、階下の質屋に宝石を売りに行く。
「おはよう店長」
「午後二時だぞ小娘」
白髪交じりの初老の男性が私を睨む。母の代からの知り合いだ。
「買い取りお願いしまーす」
彼の言葉を聞かなかったことにして私は買取カウンタに座る。二階に借りている部屋も店長のものなので身分証も何も必要ないのが最高だ。
小袋に入れた宝石を受け取ると店長は店の奥に持っていく。すると二分もしないうちに戻ってきた。
「呪われとる」
「えぇ?」
宝石を取り、口に含む。わずかな苦味。呪いの味だ。
「買取拒否だ」
「わかってますぅ」
足早に部屋に戻ると石を飲むのに使った水を取り出した。
水は儀式に使った石と霊的に繋がっている。
【続く】