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Eight Roads Special Seminar    - ラグビー 元サンウルブズ渡瀬CEO&元日本代表山田選手

Eight Roadsがスタートアップの経営者とゲストを招き定期開催するスピーカーセッション。7月開催のセッションでは、ラグビー 元サンウルブズCEOの渡瀬裕司と山田章仁選手をゲストにお迎えしました。

ラグビー日本代表の強化を目的に立ち上げられたサンウルブズ。昨年惜しまれながら解散となりましたが、日本のラグビー業界に新風を吹かせ、2019年ワールドカップの成功に貢献しました。

お二人に、これからの時代、世界で勝つための組織作りとリーダーシップのあり方について聞きました。

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〔プロフィール〕渡瀬裕司氏

慶応大学在籍時には、フルバックとして活躍し、1986年日本選手権でトヨタを破り日本一に。 その後三井信託銀行に入社、シティバンク銀行を経て、UBS銀行でプライベートバンキング事業を統括。 その一方で、慶應義塾大学のラグビー部のコーチや監督、GMとしても活躍。 スーパーラグビーの日本チーム「サンウルブズ」の運営を担うジャパンエスアールに2016年5月に参画し、同年12月に代表理事CEO就任。 現在はストームハーバー証券株式会社のMD及びパナソニック・ワイルドナイツの戦略推進ディレクターとして活躍。 米国イェール大学MBA卒業。

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山田章仁氏

小倉高校、慶應義塾大学を経て、HONDA HEATとプロ契約。 その後、三洋電機ワイルドナイツ、パナソニックワイルドナイツ&ノジマ相模原ライズ(アメフト)、パナソニックワイルドナイツ&ウェスタンフォース(super15)、そしてサンウルブズでプレー。 リヨン/フランスでの短期契約を経て、現在はNTTコミュニケーションズ・シャイニングアークスからの派遣で米国MLRシアトルシーウルブス所属。  日本代表としても長年活躍し、2015年ワールドカップメンバーとしてトライも上げ、日本代表の勝利に貢献。 福岡県出身。

■日本ワールドカップ必勝のための秘策、サンウルブズ

2015年のラグビーワールドカップで、強豪・南アフリカに歴史的な勝利を収めたラグビー日本代表。その後、 4年後の2019年に日本で開催されるワールドカップでの勝利を目指し、強化施策の一つとして設立されたのがサンウルブズだった。その経営者として就任したのが、金融機関での業務経験が豊富な渡瀬氏だ。

「金融機関とは正反対の世界に来てしまったな、と思いました。生き馬の目を抜く厳しさのある金融機関に比べて、ラグビーはピュアな世界。ミッションやビジョンが明確でなければ、結果もついてこないということを肌で感じました」(渡瀬氏)

渡瀬氏が就任して取り組んだのは、世界最高峰のインターナショナルリーグ「SUPER RUGBY」を戦い抜くことだった。

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「SUPER RUGBY」は、世界ランキング上位を独占するニュージーランド、オーストラリア、南アフリカをはじめとする4大陸・5カ国の15チームからなる世界最強リーグ。ワールドカップでの優勝経験が豊富な国のチームが集まっていた。

「このリーグに参戦すれば、世界中の強いチームと戦うことが出来、チームの強化につながるのです」(渡瀬氏)

■移動距離は10万キロ。ベストなコンディションなどない

ところがこのリーグへ参加したサンウルブズは、様々な困難に直面することになった。

「とにかく移動距離が長かった。南アフリカで試合してそのままオーストラリアへ行き、その週末にはニュージーランドへ行くという具合。1シーズンの移動距離は10万キロに及びました。他にも時差、天気、気温、食べ物など多様な要因が複合的に絡まり、”クソみたいな”コンディションでプレイしなければなりませんでした」(渡瀬氏)

そのとき渡瀬氏が悟ったのは「ベストなコンディションを整えるのは無理だ」ということ。決して良好ではないコンディションの中で、いかに結果を出すかを考えるようになったという。

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一方、経営者としては「チーム強化」と「チーム経営」の違いに悩まされたと振り返る。

「2018年度はワールドカップ前の準備が多忙となるシーズン。その年はジェイミー・ジョセフが日本代表とサンウルブズのヘッドコーチを兼務しました。ジェイミー・ジョセフは当然、日本代表にふさわしい選手をサンウルブズメンバーに選びます。しかし集客、マーケティングなどビジネス的な視点でみれば、『お客さまの喜ぶ選手』を選ぶことも必要です。例えば日本のお客さまは、若手選手の育つ過程を応援したいという気持ちが強い。経営としては、あえて伸びしろのある選手を引き入れることもありました」(渡瀬氏)

こうした考え方は、勝利至上主義の外国人ヘッドコーチたちとの意見の相違を招くこともあり、ときにはバトルに近いディスカッションに発展することもあったという。

一方で、外国人コーチをManageするために、瀬氏は2017年よりヘッドコーチを始めとするコーチ陣を評価するための評価制度(コーチ陣に対して30ほどの評価項目を設け、360度フィードバックを行うもの)を取り入れた。

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そんな中、日本代表とサンウルブズのヘッドコーチを兼任するジェイミー・ジョセフと選手との間で、コミュニケーションの行き違いからある種の「対立」が生じてしまったという。

「そのときばかりは、経営陣である私も介入して選手とヘッドコーチの橋渡しをしました。選手の代表を集めて話しをし、ジェイミーとも対話。コミュニケーションを増やすことに努めました」(渡瀬氏)

■集客は地道な努力から。スポーツビジネスに近道なし

チーム内のコミュニケーションのみならず、広く社会に対してサンウルブズの存在をアピールし、集客するというミッションも課されていた渡瀬氏。日本のラグビー界では長らく「ラグビーでお金儲けをするなんてとんでもない」という風潮があり、「いい試合さえすればお客さまは来てくれる」「集客できないのは試合の内容が悪いからだ」という通説がまかり通っていた。

しかし、実際は気象や会場までの交通事情、主要選手がケガをして戦線離脱したなど様々な要素によって来場者数は左右される。できることならなんでもやろうと、渡瀬氏は様々な手を打ったという。

「狼の仮面をかぶってパフォーマンスする人気アーティスト『MAN WITH A MISSION』に公式サポーターとなってもらい、試合前に彼らのミニライブを行ったこともありました。チケットの代金にダイナミックプライシングを導入したり、2019年には初のナイター試合を開催したり、自国開催のホームゲームを増やしたりと様々な施策を行いました」(渡瀬氏)

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こうした様々な取り組みも思わしい結果にはつながらず、最終的に、2020年シーズンを最後に「SUPER RUGBY」からの撤退が決定。その後新型コロナウィルスの感染拡大が直撃し、2020年6月に解散することとなった。

「2020年は16試合中6試合だけでシーズンが終了。入場料は激減し、スポンサー収入もストップしてしまいました。選手やコーチの給与をカットするほかなく、経営陣は軒並み無休で奔走していました。もともと金融機関で銀行員としてお金を”貸す”側にいましたが、はじめて逆の立場になり、資金繰りに奔走することに。”借りる”側の状況が身にしみてよくわかりました」(渡瀬氏)

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サンウルブズを経営した5年間を、渡瀬氏はこう振り返る。

「この5年、止まったら終わりという感覚がずっとありました。PDCAする余裕はとてもじゃないけど、なかったですね。選手にも『狼の群れというチーム名通り、常に狩りを続けろ』と伝えていました。現場で泥くさくもがきながら、走り続けないとダメになってしまう、そんな危機感と常に隣り合わせでした」(渡瀬氏)

渡瀬氏はこれからもキープハンティングを続けながら、ラグビー界に貢献したいと考えている。

〔Q&Aセッション〕

Q.チームの中に、ついてこれない選手がいた場合どのようにサポートしましたか。

A.
渡瀬さん:
2018年頃、コーチと選手の間に軋轢があったとき、それまで日本代表の中心的な存在としてプレイしていた選手が、コーチの意向でチームから外れたことがありました。双方の話をよく聞いたところ、その原因は「誤解」だったと判明。本当に怠けている人が脱落したならそれは仕方ありません。しかし誰もがハードワークをしている中で、結果が出ないのなら方向性を修正するのがマネージャーの役割だと思います。

それに、リーダーからするとパフォーマンスが出ていないように見えても、選手からすればうまくいっていると思っているかも知れません。選手に対して事実ベースで状況を確認した上で、選手側の考えやうまくできない理由をシェアしてもらうことが必要。互いの考えをぶつけて対話して、誤解を解くというプロセスをおすすめします。

ちなみにそのときチームを外された選手は、2019年のワールドカップで大活躍しました。

山田選手:
選手、つまり現場の社員目線でお話すると、リーダーに求めるのは「ぶれない」ということです。いままで圧倒的な統率力のエディ・ジョーンズ、その後の4年間はジェイミー・ジョセフ、そして(パナソニック時代は)ロビー・ディーンズという世界のトップ3ともいえるリーダーのもとプレイしてきました。彼らに、共通するのは「ぶれない」ことです。
一方で、メンバーは決して失敗したいわけでなく、リーダーの望むような成果を出したい、そのために能力を発揮したいとも思っています。リーダーも社員も、互いが一歩ずつ歩み寄ることが大切だと思います。

Q.サンウルブズのチーム状態が悪かったのは、どういうときですか?

A.
渡瀬さん:
ジェイミーが日本代表とサンウルブズを兼任していた2018年ですね。組織は混乱していました。僕はよくジェイミーをホテルから連れ出して、飲みに行っていましたよ。彼も両方のチームを兼任していてストレスを吐き出すところがなく、選手に対してボスでいなければならないという強い意識があったようです。

山田選手:
まさにその時期ですね。いくらプロチームと言えど、メンバーは上司が複数チームで仕事をしていると、息苦しさを感じるものです。上司には、1つのチームでの仕事に専念してほしいと思います。

とくに「日本代表という組織の監督としてどう見られるのか」ということを意識せざるを得なかったようで、普段ひょうきんだったジェイミーがそうできない、と息苦しさを感じているように見えることがありました。

Q.チームの雰囲気がよくないとき、そのムードをどのようにコントロールしましたか?

山田選手:
レベルの高い組織になると、負けたくて試合をしている選手はいないという前提で話をした方がいいですね。チームの雰囲気が一番悪くなるのは、負けたときです。あくまでもレベルが高い組織ではという前提ですが、レベルの高い方々は、そもそもミスをしたくないと思っています。そこであえてミスを指摘されることが、メンバーのモチベーションを一番下げることにつながります。

そういう点では、サンウルブズで1年目の監督だったマーク・ハメットさんは、うまくマネジメントしてくださったなと思っています。

渡瀬さん:
そうですね。負けたとき、経営はコーチ陣にも選手にも介入しないようにしています。選手もまじめだし優秀な方が多かったので、自分たちでどんどん解決していったような気がします。そういうときはお酒で解決したり、たまには選手とバカ騒ぎしたりと、自分の人間的な側面をさらけ出してもいいのかなと思います。

もう一つ、雰囲気が悪かったのは、サンウルブズがスーパーラグビーから撤退しなきゃいけなくなった時です。そのときも非常に雰囲気が悪くなったのですが、逆にその事象をバネにして、自然と選手がひとつにまとまりました。レベルの高い選手たちの底力を感じましたね。

Q.チームの業績と個人の業績、どちらが重要だと思いますか。

A.
山田選手:
僕もプレイヤー・オブ・ザ・マッチやトライ王などを何度もいただいたことがあるのですが、トライに執着したことは一度もありません。自分の成績が大事……と思うこともないわけではないですが、ラグビーは周りを生かしてこそ自分が生かされるスポーツです。チームが良くないということは、自分にとっても良いことじゃない。チームファーストこそがラグビーだと考えています。

渡瀬さん:
経営の観点からいうと、山田さんには2019年のシーズンで、固定給に加えてトライ1つでいくらという契約をさせていただいたんです。すると山田さんがトライを決めることが、チームにとってプラスになるし、山田さんの業績にもつながる。お客さまも山田さんのトライを楽しみに来場されるから、経営にもつながる。こういうやり方もあると思います。


■Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
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