記憶








高校生の頃の話。










マンションで言う管理人さんみたいな役割を担っている、高校の校舎の受付事務のようなことをしていたおじいちゃんがいた。









そのおじいちゃんはとても可愛らしくて、ニコニコしていて、わたしはすごく好きだった。











毎週金曜日、週に一度しかない軽音楽部の活動を終えたら、時間が遅すぎていつもの下駄箱が閉まっている。そうすると、そのおじいちゃんがいる受付を通るルートで帰ることになる。









そこは下駄箱から普通に帰るときは通らない場所なので、おじいちゃんに会えるチャンスが来るのは週に一度だった。









「夜遅くまでおつかれさまね〜。」っていうおじいちゃんに、バンドメンバーのみんなはそこまで関心を向けてなかったけれど、私は気になるから、顔を見てニコニコしたりしていた。










どうして仲良くなったのかは覚えていないけれど、私の顔を認識してくれるようになり、金曜日、わたしがそこを通ると、嬉しそうに声をかけてくれるようになった。「バイバーイ!」と、気軽に言うようになっていた。どんな話をしたりしたのかはまるで覚えていないけれど、私はその時間が好きだった。それだけは覚えている。







そして、おじいちゃんは、いない日もあり、不定期だったため、わたしは受付をのぞいて、おじいちゃんがいなかった時は寂しかったし、いた時は、わたしもすごく嬉しかったし、おじいちゃんもすごく嬉しそうだった。













そんなおじいちゃんとの関係が、途絶えてしまうキッカケがあった。ある朝、おじいちゃんが門の前にいた。そんな偶然はあまりなくて、嬉しくて声をかけた。そしたらおじいちゃんも嬉しそうにしてくれて、見せたいものがある、と言ってくれた。









その見せたいものは、私の写真だった。私が授業を受けている様子だったり、私の作った展示品だったりを、おじいちゃんが撮って現像していた。わたしは、おじいちゃんのしている仕事内容がよく分からなかったから、授業風景とかも撮る仕事をしているのかな?と思い、それを私の分をとっておいてくれて、私にくれたんだ、うれしいなあと思っていた。











そのことを友人に話した。いつものおじいちゃんが写真を撮っててくれたの!と。そうしたら、「それやばくない?」と言われた。やばいのか。わたしは、分からなかった。「先生に言ったほうがいいよ!」友人は、もちろん優しさから、先生に報告してくれた。先生は、「これはやべえな〜。」と言った。わたしは、それでも何がやばいのかわからなかった。











わたしはおじいちゃんを庇った。「多分わたしを孫みたいに思ってくれてしてくれたことなんです。」そんなようなことを泣きながら言ったとおもう。どうしてもおじいちゃんを悪者にしたくなかった。でも先生は、分かってくれなかった。「お前の気持ちもわかるけど、これはいけないことなんだよ。」「先生からその人にはよく言っておくから。」











それからおじいちゃんに会うことは、一度もなかった。











おかしいのかもしれないけれど、私は、くれた写真を自分の中だけで留めておけば良かったな、と、今でも思っている。













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