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ていの創作小説

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自分の創作小説をまとめています。
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2021年3月の記事一覧

ルリジサ(誕生花ss)

 明日はいよいよ入社式だ。就活では苦戦して、それこそ何十社にも落とされたけれど、なんとか…

てい
3年前
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サクランボ(誕生花ss)

 満開の桜が春のけぶったような空気の中で鮮やかに目に飛び込んでくる、そんな桜並木の入口の…

てい
3年前

ワイルドストロベリー(誕生花ss)

 曲がりなりにも教師なら、「愛情」と「敬慕」の違いくらい、分かっておいでだと思っていまし…

てい
3年前
1

ヤマブキ(誕生花ss)

 零落した元資産家の老人から、借金のカタにと譲られたのはひとりの娘だった。たしかにぞっと…

てい
3年前

ブライダルベール(誕生花ss)

 花嫁姿のお母さんは、とても綺麗だった。  私の記憶の中の、部屋の隅に蹲って男の乱暴にじ…

てい
3年前
1

シダレザクラ(誕生花ss)

 無数に寄り集まった薄桃色の花弁が、穏やかに吹き抜ける風の暖かさに、波の如く揺れる。頭上…

てい
3年前
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ジャケツイバラ(誕生花ss)

 楽園で女を唆した蛇は賢かった。賢かったから、賢くあるべき二人の人間が、いつまでも知恵を身につけずにいることが我慢ならなかった。彼らは少なくとも、恥ずかしいという概念を知るべきだ。そう思った。  食べるだけで知恵をつけられる果実なんてうってつけのものが、なぜ楽園の中に生えているのか、それは蛇にも分からなかった。ただ、全てを造った神とやらは、あまり賢くないのかな、と思っただけだった。そんな良いものは早く色んな生き物に分け与えてやるべきなのに、変な話だ。  人間たちは楽園を追われ

クロユリ(誕生花ss)

 恋は呪いだ。 「恋に落ちる」とはよく聞くけれど、落ちた先がどこまで続くか分からない暗い…

てい
3年前
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クモマグサ(誕生花ss)

 どうしても登らねばならないのか、と、よく問われるが、偉人の有名な言葉を借りるまでもなく…

てい
3年前
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マダガスカルジャスミン(誕生花ss)

 貴方とならどんな遠くにでも行ける、と彼女は言った。そして、こんな所に二人で掴める幸せは…

てい
3年前
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スイートピー(誕生花ss)

 私たちは今日、《学校》を卒業する。空は抜けるように青く、グラウンドは半ば薄ピンクに染ま…

てい
3年前
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ハッカ(誕生花ss)

 小さな頃から、彼とはケンカをしてばかりだった。同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校、同じ…

てい
3年前
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ハナミズキ(誕生花ss)

 黙々と研究に打ち込む彼の、その横顔に恋をした。初めはちょっとしたお菓子から差し入れする…

てい
3年前
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カルセオラリア(誕生花ss)

 駅の近くに住む老人が変わっているということは、その町に住む人間なら誰もが知っていた。彼はいつも古びて錆切った車椅子に、小学生高学年くらいの背丈はある大きな人形を乗せて、彷徨いていた。朝早くから公園、図書館、スーパーマーケットと周遊し、昼も夕も何も食べている様子がなかった。そして毎晩、決まった時刻に二人分の惣菜を買って帰宅するのだ。  老人は昔からこの町に住んでいるらしい、とは皆知っていたが、彼がどんな人物で、どうして今はそんな風なのか、口にする人はいなかった。彼とすれ違う人