カルセオラリア(誕生花ss)
駅の近くに住む老人が変わっているということは、その町に住む人間なら誰もが知っていた。彼はいつも古びて錆切った車椅子に、小学生高学年くらいの背丈はある大きな人形を乗せて、彷徨いていた。朝早くから公園、図書館、スーパーマーケットと周遊し、昼も夕も何も食べている様子がなかった。そして毎晩、決まった時刻に二人分の惣菜を買って帰宅するのだ。
老人は昔からこの町に住んでいるらしい、とは皆知っていたが、彼がどんな人物で、どうして今はそんな風なのか、口にする人はいなかった。彼とすれ違う人