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『採用学』

2020/1/27
vol.20
『採用学』
服部康宏 著

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~Topics~
1.はじめに
2.「良い採用」とは
3.「優秀さ」とは
4.「採用手法」の変化
5.「採用力」とは
6.まとめ

1.はじめに

 本書でお伝えしたいことは以下のメッセージである。

いま日本の採用活動は大きく変わろうとしている。そして、今後もますます変わっていくだろう。企業としては、そうした流れに絶対に乗り遅れてはならないわけだが、そのためには自社の採用を足元から見つめ直し、変革する必要がある。そして幸運なことに、その変革のための考え方やガイドラインは、すでに科学的手法によって用意されている。

 採用のやり方に唯一最善の「普遍解」は存在しない。「変革のための考え方やガイドライン」をもとに、それぞれの企業で努力する必要がある。
 本書では、科学によって裏打ちされた、採用における「変革のための考え方やガイドライン」を紹介していく。これらをもとに、自社にとっての採用のあり方を模索して頂きたい。


2.「良い採用」とは

 「良い採用とは何か?」について考えるにあたって、「そもそも企業はなぜ人材を採用するのか?」について整理したい。少なくとも以下2つの理由があると考えられる。

<企業が人材を採用する理由>

1.企業の目標および経営戦略実現のため
目標と経営戦略の実現に際して、ある時点で不足している、あるいは将来の時点で不足すると考えられる人材を獲得する

2.組織や職場を活性化させるため

同質的な集団は緩んでしまうため、外部から人材を獲得して緊張感と新しい息吹を吹き込む

ここから言えることとして、「良い採用」とは以下のようなものだと考えられる。

<「良い採用」とは>

~「企業の目標および経営戦略実現のため」より~
⑴ランダムに採用したときに比べて、将来の時点でより高い仕事の成果を収めることができる人材を獲得できている
⑵ランダムに採用したときに比べて、人材が企業へとより強くコミットし、高い満足度を得て中長期的に企業にとどまっている

~「組織や職場を活性化させるため」より~
⑶採用活動を行わなかった場合と比べて、組織を構成するメンバーに多様性が生じ、結果として組織全体が活性化している

このような「良い採用」を行うためには、採用活動に際して以下のようなマッチングが必要だとされる。

<採用活動におけるマッチング>

⑴期待のマッチング
個人が会社に対して求めるものと、会社が提供するものとのマッチング
⑵能力のマッチング
求職者がもっている能力と、企業が必要とする能力とのマッチング
⑶フィーリングのマッチング
主観的な相性におけるマッチング

※⑴⑵は組織心理学者ジョン・ワナウスが提唱。⑶は日本特有として著者が提唱。

3.「優秀さ」とは

 入社した社員の「優秀さ」は、以下のように分解することができる。

<入社した社員の「優秀さ」>

a.もともとの能力
その人が採用時点で持っており、かつ採用側が認識していた能力
→採用に関わる部分

b.能力の傾き効果
採用時点で企業が評価していなかった(あるいは評価はしていたがその時点では顕在化していなかった)能力と、もともとの能力との結合によってもたらされた変化分
→採用に関わる部分

c.教育効果
採用後の行われた育成の効果による能力
→育成に関わる部分

  aとbの能力は、採用における選抜の時点で見極める必要がある。その際のポイントとして以下4つがある。

<選抜におけるポイント>

⑴選抜プロセス中に自社にとって魅力的な求職者が離脱しないように、彼らを会社に惹きつけ続けること
⑵候補者群の中から、自社のとっての必要な人材とそうでない人材とをふるい分けるための適切な選抜基準を設定すること
⑶設定された選抜基準をもとに、適切な手法(ツール)を使って見定めること
⑷選抜ツールをによって評価された採用候補者の中から、最終的に適切な候補者に対して内定を出すこと

 ⑵の選抜基準≒採用基準について、一律の最適解は無い。企業によって適切な採用基準は異なっているし異なっているべきだからである。とはいえ、適切な基準を設定するためのロジックは存在する。

<採用基準の優先順位付け>

・求める資質のうち、「変わらない資質」の優先順位を高くすることである。ただし、「変わる資質」について、それを育成する機会が無いのであれば採用基準の中に入れる
・選抜の基準には面接官によってどうしても齟齬が生じてしまうため、「何を基準としてみるか」よりも「何を基準として見ないか」を明確にすることがより重要になる

※なお、多くの日本企業は「コミュニケーション能力」を採用要件として重要視しているが、心理学の中では「比較的簡単に変化する資質」とされている。

 ⑶の採用ツールについて、現在はESや適性検査、インターンなど多様化している。その中でどれを選択するか、については以下3点を考慮するとよい。

<選抜ツールの選択>

⑴妥当性
そのツールによって測りたいものが測れるのか
⑵信頼性
どこまで信頼のおける測定になっているか
⑶当事者の納得感
候補者と評価者がそのツールに納得感を持てるか

4.「採用手法」の変化

 採用活動が激化し始めたここ5年あたりの傾向は以下のようなものとなっている。

<採用手法の変化傾向>

時間的・金銭的な採用リソースの配分についてはこれまでとは違ったパターンが現れる一方で、採用手法そのものについては多くの企業がこれまでと同じやり方を継続している。ただし、一部の企業では、これまでとはまったく違った、採用のイノベーションが起こっている。

 なお、「採用のイノベーション」については、大まかに以下のような傾向がある。

<近年の採用イノベーション>

・脱●●
面接やESなど、これまで採用の一般的な手法とされてきたものを廃止したり、その使用のあり方を根本的に改めたりする。
・入口の多様化
評価基準の異なる複数の入り口を用意し、どこからエントリーするかを候補者に選択させる
・エントリー要件の明示/自己選抜
採用要件を細かく設定・明示したり、何らかの手法でエントリーの敷居を高くしたりすることで、候補者の自己選抜を促す
・採用フローの「エンターテイメント化」
採用フロー全体にエンターテイメントの要素を取り入れることで候補者を惹きつける
・テクノロジーの活用
採用に関するデータを収集、分析し、候補者の分析や選抜に活用する
・採用時期の多様化、柔軟化
採用の時期を他社とずらしたり、通年採用にしたりする
・採用ターゲットの変更
今までは採用のターゲット外となっていた求職者もターゲットに含める
・採用のブランド化
採用フロー自体に名称を付けるなど、自社の採用をブランド化することで社会的な関心を得る
・ワークサンプル
実際の仕事のサンプルをさせて成果を見る

5.「採用力」とは

 「自社にとって優秀な人材を惹きつけ、優秀さを見抜き、実際に採用する力」「採用力」と呼ぶこととする。「採用力」は以下のように分解することができる。

<企業の採用力>
★採用力=採用リソースの豊富さ×採用デザイン力

・採用リソースの豊富さ=有形リソース+無形リソース
・採用デザイン力=採用設計力+オペレーション力
<採用リソースの豊富さ>

◇有形リソース
採用活動に動員できる人的スタッフや採用予算、企業の立地、オフィスなど

◇無形リソース
・「採用担当者の人脈」
└求職者にリーチするために使える公的私的なつながり
・「採用ブランド」
└多くの候補者に入社したいと思わせるような誘引力
※採用ブランドには、「企業・業界の魅力」という意味でのブランドと、「採用のユニークさ」という意味でのブランドがある。
<採用デザイン力>

◇採用設計力
求める人物像や採用基準の選定、募集・選抜フローの設計、選抜ツールの選択や開発など

◇オペレーション力
設計した採用計画を実践する力

 この中で、採用のリソース(特に有形)は採用担当者にはコントロールしにくいものである。となると、短期的かつ直接的にコントロールできるのは、採用の設計力をいかに高められるかということと、それを周到なオペレーションをもって動かせるか、ということになる。

 これだけ採用の競争率が激化する中では、新たな採用手法は次々と起こってくる。しかし、採用におけるイノベーションもいずれは陳腐化する。だからこそ、その企業にとって最適な採用手法を常にデザインし続けなければならない。

6.まとめ

 激化する採用競争の中で優秀な人材を確保するために必要なのは、リソースではなくデザイン力である。
 採用学は、日本企業にも「本質的な新しさを含んだ採用」を設計・実践できるような採用のプロフェッショナルが増え、彼らが採用のイノベーションを引き起こしていってくれることを目指している。そして、「新しい採用を打ち出すこと自体」が当たり前のこととなり、陳腐化し、求職者たちが知名度や規模ではなく本質的な意味での採用・育成に優れた企業を高く評価する世界になっていってほしい。