おもわず天に向かって手を合わせた。そんなお話を教えてください

小学3、4年生の頃のはなし。
当時の私はまだ心が幼くて、
未来に何が待っているのかを知らなかった。


ある日、同級生の男子(以下、Aくん)が入院した。
前日まで元気に登校して、
授業を受けて休み時間は運動場で遊んでいた。

担任の先生から
Aくんがしばらく休むという知らせと、学年のみんなでAくんへ千羽鶴を贈ろうという提案があった。

訳も分からず、小さな折り紙で急いで鶴を折る。
指先を使う細かな作業。上手く折れず苦戦。
10羽を折って大きな段ボールにそっと入れる。

Aくんは一体何があったのかなあ
と、心配を押し殺していた。

後日、クラスの代表2名と先生がAくんへ千羽鶴を届け、
Aくんの保護者から学年みんなへのお礼を先生が代読してくれた。

Aくんは約12時間に及ぶ大手術を受け、無事成功したこと。
まだ入院を続けるが、いつか学校に戻ってくること。

12時間って朝から夜までってこと??

12時間もかかる手術と先生から聞いて、
Aくんの体にどれほど大きな問題があるのかを
ぼんやりと分かった。

私はAくんが退院して学校に戻ってきたら
いっぱい遊びたいな。
いつになるのだろう。
と考えながら、学校生活を過ごしていた。

数ヶ月後、Aくんが学校に戻ってきた。
誰もが見える位置に大きな傷跡を持って。

大きな傷跡は今でも鮮明に覚えているほど衝撃だった。

その後、Aくんは再入院せずに小学校を卒業した。

Aくんと私は別々の中学校へ進学したので疎遠となる。
しかし、数回お店や病院で偶然会う機会があった。

お互いに近況を報告しあう。
Aくんが毎日を楽しく過ごしていると分かり、
なぜかほっとした。

21歳になる年のことだった。
私が販売員として勤めている会社に、Aくんの両親が訪れた。
ご両親とは小学生以来の再会のため、おそるおそる声をかけてみる。
私を覚えてくれていて、お互いに再会を喜んだ。

「ところで、Aくんは元気ですか?もう3年くらい会っていないなあ」
と私が言うと、一瞬沈黙になった。

一瞬の沈黙。しかし、とてつもなく長い沈黙。

なんと、Aくんは1年前に亡くなっていた。
小学生の頃に手術した病気が再発。
回復せぬまま、帰らぬ人になったとのこと。

ご両親になんと話しかければ良いか分からず、
心の底からしぼり出すように声を出した。
「お線香をあげさせてもらえませんか?」



Aくんのご両親との再会から何年経っただろうか。

毎年命日が近づくと、Aくんのお母さんへ電話を欠かさない。
Aくん家族と私、再会以降の人生が大きく変わった。
お参りに行く年もあれば、電話で話すだけの年もある。

電話で話す最後の言葉は、毎年自然と同じになる。
「Aくんのおかげで、今年も電話できて楽しかったなあ」


Aくんは、私に

年齢に関係なく命は有限のものであること
人とひととの縁を大切にすること
肉体はなくなってしまっても、伝えられるものがあること

を今も教えてくれる。

当たり前の事柄。
しかし忙しく毎日を重ねていると、つい忘れてしまう。

桜の咲く季節。
空を見上げながら、意識しなくても手を合わせてつぶやいてしまう。
「Aくん、いつもありがとう」
「天へ、Aくんへ、感謝のおもいが届きますように」

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