わたしが食べる理由

ケッコンのケの字も頭になかった20代。「パートナーに求める、ゆずれない条件は?」という女同士の会話で、わたしは「夕食マックでもだいじょうぶなひと」と挙げていた。周りには「なにそれ〜笑」とよく言われていた。

当時のわたしは、今じゃ考えられないくらいだらしない生活だったと思う。朝食を食べずに出社、お昼ごろにはお腹ぺこぺこになっているのでファミレスでハンバーグとライス大盛り。21時過ぎ、会社近くのマックで夕食を摂り、自宅に帰ってご褒美のケーキ…。いま考えるとぞっとするルーティーンをこなしていた。もちろんそんな食生活で、肌も汚いし、メンタルもボロボロ、自分のことがぜんぜんすきじゃなかった。「ダイエットをするぞ!」と言いながらポテチや揚げ物を好き放題食べていたり、痩せるサプリ、痩せるエステ、痩せるダイエット器具にお金を使い、スポーツジムに入会しても会費を毎月払うことでダイエットをしているつもりになっていた。

「食」に対する意識が変わってきたのは30代になってからだ。30歳のときに北海道に旅行したときに富良野にあるオーガニックレストランでのこと。野菜はすべて富良野か道内でとれた新鮮なもの、そして顔見知りの契約農家から直接仕入れるというこだわりがあった。 特に印象に残っているのは「とうもろこしのスープ」。とてもあまくて深い味わいがあって、コース料理のメインを張ってもいいと思えるほど極上の一皿だった。とにかくおいしい、好き!と思ったので、レシピをそれとなくシェフに聞いてみると、「今朝とれたばかりのとうもろこしと富良野のおいしい水、そして少しの塩だけでつくっていますよ」と教えてくれた。牛乳や生クリームなどの乳製品、砂糖などもまったくつかわないと言う。ほかの料理も富良野のおいしい野菜がもつ本来の味を楽しめるように、足して甘さや奥深さを出すのではなく、調味料は引き立て役程度しかつかわないのだそうだ。その話を聞いていて、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちになった。苦いから砂糖を入れる、味が薄いからコンソメを、とりあえずめんつゆ、となんでもかんでも足していたからだ。そう話すと、「多くの方が同じことをおっしゃりますよ、まずは調味料を見直してみるとか、野菜はなるべく新鮮なうちに買うとか、できることからためしてみては?」とにこやかに話してくれたので、わたしは安心した。

「無農薬野菜」や「添加物」についてもっと詳しく知りたいと思って、その道に詳しいかたの講座を受講した。無農薬の野菜が一概に良いとは言えないことや、塩や醤油、みりんなどふだんの料理につかう調味料にも原材料や工程でそのものの質が変わる、ということなどを学んだ。しばらく学んだことを活かして、野菜はなるべく採れたてのものを新鮮なうちに食べるようにしたり、調味料を変えたり、生活を少しずつ変えていった。でも、質のいいといわれる調味料はやはり値段も高くて、「今月だけ奮発して買った」では意味がない。まいにち使うものだからこそ、身体にいいものを摂りたいという気持ちと長くつづけられる範囲で買えるものを…という気持ちが交錯して、あの北海道旅行から3年ほど経ったいま、なんとかちょうどいい妥協点が見つかってきたところだ。

バランスの良い食事に変えることが出来たのは、スポーツジムのトレーナーに2ヶ月間みっちりと食事指導をしてもらったことがきっかけだ。最初に「定食のようにバランスのよい食事をしてください」「朝昼夕の3食、しっかり食べてください」と言われて、家庭科の授業でも習いそうな当たり前なことを言うんだなぁと思っていた。それから毎日、食事の写真を撮って1日の終わりにトレーナーに送信して翌朝フィードバックをもらっていた。自分の中で正解と決めつけていた料理や献立に対して、毎日毎日、長文のフィードバックが返ってきた。摂取カロリーの下限と上限や栄養バランスの比率、ビタミンミネラルの必要性など、それは毎回「なるほど」と思える内容で、わたしの中にあった"当たり前"が書き換わっていき、食事内容はみるみるうちに変わっていった。

こうして、調味料がひととおりそろい、身体に良くないとされる添加物をなるべく摂らないような生活をして、3食バランス良い食事を保てるようになった。しかし、仕事や旅行などで自炊ができない日がつづいたりすると「もう今日もチートデーにしちゃおう」と、体の声を聞くことをおろそかにしてしまう癖が抜けずにいた。そんな、「自分のことを大切にできないわたし」が好きになれなくて、わたしは人生初の1週間ファスティング(断食)に挑戦することを決めた。

つづく

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