愛しくて号泣した話

人生で一度だけ、愛しくて泣いたことがある。
私はよく泣く、涙腺ガバガバの民だ。途中から見たドラマでも泣くし、なんなら15秒のCMでもよく泣く。

自分のことで泣く時は、たいがい悲しかったり辛かったり、負の感情の場合がほとんどで、映画やドラマを見て泣く時は、登場人物の感情が私の中に流れ込んできて共感して泣く。共感力半端ない民でもある。

友達とバカな話をして泣きながら笑う時もある。しかしこれは感情というよりも、体の制御が効かなくなってしまうからなのだが。その証拠に、涙が出つつ、失禁までしてしまいそうな時もある。

嬉しくて泣いたのは、勤めている会社で部署が異動になり、送別会を開いてもらった日のことだ。
みんなで楽しく行きつけの居酒屋で食事をし、そろそろお開きかなと思っていたら、なんとありがたいことに一人ずつ私にメッセージがあるという。

最初の一人が、思い出話や新天地でもがんばれというスピーチをしてくれたあと、「手を出して」と言うものだから手を出すと、そこに茶色い丸いボールのようなものを置いた。それは4センチくらいでフェルトでできていて、目玉のパーツが付けられていた。

これなんですか?とすごく聞きたいのだけど、言ってはいけない気がしたので黙って受け取り、引き続きメッセージをもらっていく。それぞれのメッセージの終わりには必ず茶色のボールが添えられた。

最後の人のメッセージが終わると、私に差し出されたのは、トートバッグだった。外側のポケットには大きなからあげくんのあのニワトリのキャラクターが縫い付けられていた。

私達一人ひとりが目を付けました。これを私達だと思ってがんばってください。

泣いた。
親しい人の前で泣くのは恥ずかしくて好きではないのだけど、それでも涙が勝手にどんどん溢れてきて止まらなかった。
異動先の近くにはローソンがないのだ。
この人たちはなんなんだろうと思った。

嬉しくて泣いたのではない。
人の好意と行為について感動して泣いたのだ。
本当に感動するとはこういうことだと悟った。
本当のサプライズとはこういうことだと。
それは全く想像だにしないことだからだ。

感動するとともに、この人たちを愛おしいと心から思えた。そんな涙を流したのは人生でただ一度きり。この先もきっとないと思う。

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