私に虹のことを伝えてくれたおばさんの話

ある雨上がりの休日、友人との約束に向かうため電車に揺られていた。
何をしていたかな、よく覚えていない。ぼーっとしていたか、スマホを見ていたか。
ドアの所にもたれかかっていたら、右側から声がした。

「虹が出ていますよ」

声の方を見ると、女性が外を指さして微笑んでいた。
窓の外を見ると、それはきれいな虹がかかっていて、「大きいですね〜」とお互いに言った。
そして虹が向こうに行って見えなくなるまでしばらく見ていた。

このおばさんが、虹が出ていることを教えてくれたことが嬉しかった。偶然近くに居合わせただけの私に、ささやかな喜びを共有しようとしてくれた。

逆の立場だったら私はどうしただろうか。きっと一人きりで楽しんでいたに違いない。
知らない人に用事もないのに声をかけるのは勇気がいる。おばさんの声のかけ方は一切無駄がなく、スマートだった。迷いも見られなかった。

結局私はそのまま電車に揺られ、途中で降りていくおばさんを無言で見送った。

教えてくれてありがとうございます、なんて野暮なこと言わなくてよかった。そんなこと言ったら私とおばさんの関係性は崩れてしまう。
それに私が心の中でありがとうと言ったこと、きっとおばさんは分かってるはずなんだ。

ただ気軽に、自然に、知らない他人と会話する。
私にはとても難易度が高いけど、そんな世の中意外と悪くないんじゃないかと思う。

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