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環境が先か、心境が先か|夫の独立開業つれづれ日記 vol.5


8月に突入し、本格的に独立開業の日々が始まった。
会社という後ろ盾がないぶん、背中が少しスースーするような気がする。

退職したら市役所に行って、国民健康保険と国民年金への加入手続きをした。市役所は3ヶ月前に新しく竣工したばかりの新庁舎だ。市役所なんてめったに用事がないからこんな機会でもなければお目にかかれないと思い、新庁舎を見学するべく夫の手続きに同行した。気分は完全に、社会科見学する小学生だ。

新しい市役所は機能的で実用性に優れた造りになっていて、ひと目で目的の窓口へ行くことができた。以前のように目的の担当課がどこにあるのかわからず、天井にぶる下がった古めかしい○○課というプレートをひたすら見上げて探す必要もなかった。
白々しい事務的な蛍光灯ではなく、温かみのあるやわらかい色の間接照明は、待ち時間も居心地の悪さなど感じず落ち着いて椅子に腰かけて待つことができた。
カウンターの向こう側で働く職員たちも、以前の旧庁舎だったら仕事に追われてひたすら事務的にこなす職員たちにしか見えなかったが、新庁舎だとどこかしらゆったりと余裕があってみんなスマートで知的な職員に見えた。
空間と照明でこんなにも印象が違って見えるのか!
思わぬところで驚嘆した。新庁舎を見学した甲斐があったってものだ。

滞りなく手続きを終えて屋外に出ると、夏まっさかりの太陽がジリジリとアスファルトを焦がしていた。

世間は東京オリンピックや甲子園選抜高校野球、夏休みやコロナ感染者急増と目まぐるしく変化しているが、目先のことに必死で毎日のニュースはどこか上の空だ。
目先のことにとらわれすぎて、暑さもどこか他人事のようにも思える。
そう思っているのは私だけで、夫はきっと地に足が着いているに違いない。あちぃ〜‼︎を連発しながら、市役所から200mほど離れた駐車場までの道のりを早足で歩いて戻った。

かくして独立開業の日々は始まった。

会社勤めをしていた頃のような人間関係の煩わしさは皆無になった。
そのかわり受注、製造、納品、機械のメンテナンスや付帯業務など、やることは盛りだくさんになり身体的な負担は大きくなったようだ。毎晩、足を棒のようにして帰宅するが、どちらがいいと問われれば断然、今のほうがいいと断言した。

散乱していた材料と道具を整理し、薄暗かった蛍光灯をLEDに交換し、年季の入ったエアコンのフィルターを掃除して仕事をする環境を整える。
環境が変わると、だんだんと心持ちも変化するのだろう。どう変わったのか?と問われたら明確には答えられない。例えるなら、時々雨や雷が打ちつける曇天の海原の高波に揺られながら航行する船が、少し青空の見え隠れする陸にあがり、トコトコと自分の脚でどこかに向かって歩いている…感じだ。船に脚が生えるなんてヘンだけど。そんな雰囲気なのだ。

環境が変わると心境も変わるのだろうか。
それとも、心境が変わるから環境も変わるのだろうか。

環境が先か、心境が先か。

夫に問えばきっと、そーんな難しいコトわっかんないよー。考えたことないもん。と返事が返ってくるに違いない。頭よりも先に直感で体が動くタイプだ。

では、
思考が先か、行動が先か。

これはなんとなく答えがわかる。
私はといえば夫と180度真逆なため、自慢にもならないが二の足を踏むのが得意だ。
こんなふうにごちゃごちゃと考え始めたらキリがない。やめられない止まらないかっぱえびせん並みにエンドレス。

私がごちゃごちゃ考えているのを尻目に、夫は精力的に仕事をこなしている。
そうこうしているうちに8月も終わりが見えてきた。


vol.6へ続く。

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