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三重項(triplet)励起状態のGaussianでの計算方法

学生さんに最近、Gaussianでの三重項励起状態の計算方法を聞かれたので
需要あるかなというのと備忘録代わりに記事書く('_')

その前に、Gaussianを扱ったことがないよって方は
基本的な計算等は▼こちらの記事にまとめてますので読んでみてください。




まず、スピン多重度、一重項、二重項、三重項について・・・・

◆スピン多重度(multiplicity)
量子化学における多重度(たじゅうど、英: multiplicity)は、全スピン角運動量をSとしたとき、2S+1で定義される。
 多重度は、スピン角運動量の向きのみが異なる複数の縮退した量子状態(波動関数)を区別するために使われている。
(引用:Wiki-多重度)
→α電子数とβ電子数の差が2Sとなる!!

◆一重項(singlet)
全ての電子が対になっている場合はS = 0となり、多重度は1で一重項と呼ばれる。
→2S=0

◆二重項(doublet)
分子が1個の不対電子を有している場合はS = 1/2となり、多重度は2S + 1 = 2で二重項と呼ばれる。
→2S=1

◆三重項(triplet)
不対電子が2個の場合
→2S=2


ここで、ab initio 分子軌道法にHartree-Fock(HF)法という全電子の波動関数を個々の電子の分子軌道から構築したSlater行列式により近似する方法があります。これを例に以下説明していきます。

閉殻系の計算はRHF(spin-Restricted Harrtree-Fock)法が、
開殻系の計算はROHF(Restricted Open-shell Hartree-Fock)法とUHF(spin-Unrestricted Hartree-Fock)法が適用可能です。

◆閉殻系
系の電子数が偶数個ですべての分子軌道に電子が2個ずつ詰まっている(α電子数とβ電子数が等しい対称性が保たれている)状態。

◆開殻系
系の電子数が奇数個であったり、一方のスピン電子数が他方のスピン電子数を上回っている状態。

◆RHF(spin-Restricted Harrtree-Fock)法
閉殻系で用いられる。
→各空間軌道に2つの電子で電子がどの軌道にも2個か0個。
多くの一重項で用いられる。

◆ROHF(Restricted Open-shell Hartree-Fock)法
開殻系の場合で、電子が2個ずつ占有される軌道に対して、分子軌道を同じものに制限する方法。
スピンの対象性は満たされる。
※イオン化エネルギーなどを議論することができない。
 ∵クープマンズの定理にて、イオン化によって軌道が変化
  しないものとして計算されているため。

◆UHF(spin-Unrestricted Hartree-Fock)法
開殻系の場合で、各スピンに対して別々に分子軌道を定める方法。
スピンの対称性は満たされない。
分子軌道に制限がない(非制限軌道:別々の空間軌道を用いる)ため、ROHF法よりも低いエネルギー値を与える。
※スピン対称性のズレが大きい場合は注意!!
 ∵spin-contaminationが起こるため、S^2の期待値がS(S+1)にならない。


ROHF法やUHF法を扱う時には特にS^2の期待値を確認する必要があります。S^2は固有値で、S(S+1)と表されます。このS^2の値はそれぞれ以下に近い値になります。
・一重項→0
・二重項→0.75
・三重項→2
Gaussianのアウトプットファイル(*.log)では、

<S**2>= 

の後に出力されますので、アウトプットファイル(*.log)をテキスト形式で開いて検索をかけてみるといいかもしれません。

「このS^2の値はそれぞれ以下に近い値」と上述しましたが、UHF計算を用いた場合はスピン多重度をもった状態が混入して、S^2が若干大きくなるスピン混入(spin-contamination)が起きますので、要注意。


◆励起状態の計算について
基底状態の分子構造が一重項か三重項なのかの解析を行う。
一重項であっても三重項であっても励起状態のエネルギー算出を行うことは可能。
算出されたエネルギーから判断するか、論文等からどちらかわかればそれを用いてもOK。以下は閉殻系について記述します。

吸収スペクトルの算出
a. 一重項の場合→一重項の基底状態の構造を用いてキーワードに"td"を追加する。tdのデフォルトはsingletなので、"td(Singlets)"としてもOK。
b. 三重項の場合→Gaussianのスピン多重度はそのまま(多くの場合、singlet)で"td(triplets)"を追加します。
対称禁制を考慮する必要があるので、上記a,bに加えて状態の個数のキーワードを追加します。状態の個数は"NStates=M"(M:状態の個数)をtdのオプションで追加します。デフォルトは、一重項・三重項ともに"NStates=3"でかなり少なめなので、気ワードで設定してあげる必要があります。
(参考:HPC systems - TD

蛍光スペクトルの算出
a. 一重項の場合→特別なキーワードは不要で"opt freq td"を追加します。
b. 三重項の場合→"opt freq td(triplets)"を追加します。
"opt freq"は各構造毎に振動計算をするので、スペックの低いマシーンだと恐らくめちゃくちゃ時間かかりますので、inputファイルを作成するときは慎重に!!



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