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居酒屋に寄り道する幸せ

 22歳から25歳までの3年間、引っ越しが多かった。寂しさを紛らわすため居酒屋に立ち寄り、寄り道の楽しさを見つけた。
地元から東京に1年間住み、その次に実家に数か月、数か月後には実家が辛くて市外へ、2年住んだあとに今の郊外へ引っ越しひとまず落ち着いた。


 新卒入社し東京配属となった22歳の春、はじめての1人暮らしは開放感があったものの、友達がいなくて寂しかった。
同じく東京に住んでいた姉が、通っている池袋の日本酒メインの居酒屋に行かないかと誘ってくれたが、お酒が弱いうえに日本酒を飲んだことがない私には縁遠く思えて行きづらかった。
大晦日、姉と遊ぶ予定だったのに同僚とパーティーを開くというのでひとりで過ごしていた時、ふと思い立ち池袋の居酒屋に入り、人生で初めてのひとり飲みデビューを果たした。
人通りが多いサンシャイン通りから少し離れた、細い路地にバーやスナックや居酒屋がこぢんまりと集まっている中の、のれんの下がったお店にたどり着いて勇気を出してのれんをくぐる。

 はじめて店に来たが、私は私の姉と顔が似ているらしいので店主や常連客が姉と間違えていた。
話しているとだんだん別人と分かり「大晦日にひとりで初めてのお店にくるなんて勇気あるね」と声をかけてもらい席を詰めて仲間に入れてもらう。
日本酒も、こぢんまりとした個人店も、常連客がたくさんいて店主と客がわいわい話す雰囲気も初めてで新鮮で、帰るころにはまた近々寄りたいなと名残惜しい気持ちでいっぱいだった。
何度もこのお店のご飯とお酒に元気づけてもらい、引っ越しとともに足が遠のいてしまった。
ちなみにこのお店は何を食べてもおいしいけれど、ナポリタンと手打ち蕎麦がめちゃめちゃ美味しい。
客が粉チーズをかけまくるので採算が合わないとこぼしていた店主のひとりごとを聞いてしまってからナポリタン頼みづらくなってしまった。

 ひとり飲みとひとつのお店に通う楽しみを見つけてからは、引っ越しするたびに居酒屋巡りが趣味になった。
異動が出て地元の県の配属になったので数か月間だけ実家に戻り、元々家族仲が良くないのですぐに嫌になって会社の近く、栄えたビル街の裏手にある街に引っ越しした。
ビル街の裏手は居酒屋ばかり並んでいて、居酒屋を通り越すとソープ街があって朝より夜中のほうが賑やかな街だった。
居酒屋が立ち並ぶ大通りに借りたマンションがあり、マンションの近くにソープがあってたまにスーツを着た店のお兄さんに追い出されている客がいてトラブルが起きたり、そのソープは店舗の正面ばかり整っていて、室外機がむき出しだった側面の外壁がある日急にきれいになっていたりしてドラマがあった。

 仕事が忙しくなってきて心が疲弊した際に、近所に趣のある佇まいの焼き鳥屋に入りちょくちょく通っていた。
夕飯を作りたくなくてどこに行こうか迷い、そのお店の外にある看板を見ていた。メニューは美味しそうだけれどちょっと値段は高い。
迷っていたら「よかったらどうぞ」と色が白くて顔がきれいで背が高い店員のお兄さんが笑っていたのでイケメンに釣られてしまった。
炭火の焼き鳥が美味しいことはもちろん、東北に店を構えていたが震災の影響でこちらにやってきたという話を聞いて、人の話を聞きながら飲むお酒も沁みるなと感じた。
土曜日の夜にこのお店で焼き鳥と日本酒やビールをご馳走になって、別の店でも食べてワインを飲んで大通りをふらふらしながらそのまますぐ家に帰って寝るのが黄金ルートだった。

 準備もしなくていい、後片付けもしなくていい、お店で美味しいごはんとお酒を味わうことはわたしにとって居心地がよく、生活に寄り添ってくれる趣味だった。
今の状況だとなかなか行きづらい。先々週、個人店でフレンチをカウンターで食べる居酒屋はガラガラだったからここぞとばかりに入ることができ、通いたいお店だけれど、
前のように気軽に行くことが難しい。
以前のように、何も気にせず心行くまで楽しむことができるといいなと願っている。隙を見てまたカウンターのフレンチにいけたらいいな。


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 偶然昨日、KIRINのカラダFREEをスーパーで買って飲んだ。
お酒は好きだけれど元々弱いせいか飲んだ後に体の調子が悪すぎるので、ノンアルコールが晩酌にとても良い。
ちなみに水菜を添えたトンカツをおつまみにした。トンカツはマヨネーズ、ソース、からし、みそを机に並べて好きな味をいろいろ試してめちゃめちゃ美味しかった。

#ここで飲むしあわせ

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