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技術と投資観点で生成AIを考える、その2 現実的具体的に

注:本文は投資に関して助言やアドバイスをするものではない。投資は自己責任で行ってください。あくまで上場企業に対する投資の観点での考察である。

生成AIの波は、AI関連分野に留まらず、あらゆる領域に及ぶだろう。生成AIを取り込んで躍進する分野は直接AIに関係する領域よりも多いかもしれない。歴史的にみても大きなイノベーションというのはありとあらゆる領域に強烈なインパクトを残すものだ。

その一方でイノベーションが社会に与える影響は徐々に広がっていく。インターネットの場合を振り返ると、通信速度が遅いときはまずショートメッセージとメールが発展した。それからはテキストベースのウェブ、そして画像、そして動画、ライブ配信へと順に発展してきた。同じように生成AIもまたLLMの性能やコストの制約によってインパクトが現れる領域に時間差が出るはずだ。

投資においてこのタイミングが生死を分けることもある。例えばYoutubeよりも前に動画サービスがあったものの、技術の制約によって成功しなかったという話がある。多くの成功した事業を見てみると、決して一番最初にそれを手がけた人たちが成功を収めたわけではないことがわかる。いいアイディアや事業内容であっても取り組むタイミングによって結果が大きく異なる。
それでは投資の観点で、今の技術状況のもとで、1〜2年程度で事業インパクトが現れそうなものはなんだろうか。LLMによってできるようになることは実にたくさんあるし、大きく夢が広がっている。それらの夢の多くはいずれそう遠くない将来に実現するだろう。しかし1、2年に限定すると難しい。多くの応用に関していえば、事業としてリターンをもたらすには1〜2年では短いかもしれない。

具体的に例を見てみよう。LLMはコーディングができるようになった。すごいクォリティだ。ここ8年間くらいコーディングしてきた私など、最近は極力自分で書かずにAIに書かせている。コイツはたまに間違えたり問題も起こすようなコードも書くけれど、全体的にいえば自分よりもクセのない筋のいいコードを書いてくれる。そこでノーコーディングツールもさっそく現れた。一部驚異的な機能を見せている。特に「驚かせ屋(AIの成果を拡大喧伝して注目を稼ぐ人のことを揶揄する名称)」にもてはやされたりしているが、投資の観点に移って考えてみよう。それで非エンジニアも簡単にアプリを作れるようになるだろうか。いずれそうなる日も来るだろうが、今から1、2年程度で事業として成功し、収益を上げるにはまだ超えなければいけないハードルが多い。そもそもコーディング自体は昔からすでに多くの発展によってかなり簡単になってきた。エンジニアの仕事はコーディング以外の部分がそれなりの割合を占めるようになっているのが現状だ。LLMにコーディングさせると、多くの場合うまく動くけれど、プロでなければ修正できない問題がまだそれなりの頻度で発生する。これらの問題は今後簡単に修正できるものもあるけれど、そう単純ではないものも多い。いずれにしてもサービスを運営するには当面専門的なエンジニアが必要になる。そうするとノーコーディングツールはすくなくともその間では活躍する場面が限られてくるだろう。

コーディングに限らず、翻訳、記事生成、小説生成、データ分析などなど、多くの有望な応用があるけれど、実際に事業として成功を収めるには数年を要するでしょう。中短期の投資なら様子見が賢明かもしれないし、長期投資においても、あくまでも分散投資先の一つとして検討するのが妥当でしょう。

もう一つ見逃せない問題は生成AIの高速成長だ。これが当面続きそうで、1〜2年先のことは最も優れた研究者ですら予見できない状態(2ヶ月先すらわからないと言われている)だし、むしろ最も優れた研究者だからこそどれほど予見できないものかを自覚できると言った方が適切かもしれない。そのような状態で1〜2年以上先の投資は現状非常に難しいと言える。1〜2年という短期間で結果をあげられなければベースとなるAI技術の破壊的創造(すなわち、それまでの努力を無に帰すような技術革新)に巻き込まれて大惨事になるリスクには特に注意が必要だ。生成AI以前に、ディープラーニングの業界でもすでに繰り返し見られたことだ。「グーグルがプレスリリースを出すとベンチャー企業がお通夜」、ある日突如強力なモデルが公開され、それまでにベンチャー企業がなけなしのリソースを投入して開発したモデルが無用になることがよくある。今の生成AIは特に応用までに克服すべき重大なハードルのまだいくつか存在するけれど、それらが解決の見通しがあるものの、確定したことがまだいえない状態にある。その分「お通夜リスク」が高い。

以上を踏まえ、1〜2年先を見据えて、比較的に確度の高いと思うのは、1、Nvidia、2、生産性向上。

1〜2年ではどうなるものか、まだわからないとはいえ、生成AIがいずれ多くの事業で大成功を収めるでしょう。でも実際にそこまで行くには何が足りないかを考えると、確実に不足しそうなのはGPUだ。特にLLMの応用にはまだ克服すべきハードルがあるけれど、それを越えるにはとにもかくにもたくさんのGPUが必要だ。詳細についてはまた別の機会があれば書きたい。

次に生産性の向上。これが現状最もやりやすくて正しく取り組めば結果が出るところである。しかし「正しく」取り組むことは必ずしも容易ではないし、むしろ人々が想像していたよりもずっと難しい。社長が生成AIやれと漠然な指示を出し、それを部下たちがあきれながらその面倒を誰かに押し付けて、そして失敗する。また、現場でいいことを思いつきながらも、結局稟議書に終わってしまい、それ以降もう二度と何かをしようとは思わなくなる。やっと上層も現場も一緒になって熱心に取り組もうという状況になっても、サービスを成功へと導くためには従来のアプリ開発の知見とLLMの専門的な知見が両方必要であるものの、それぞれの知見を持った人を揃えられなかったり、それぞれの人は意外にも似て非なる性格をしているために、結局チームがうまく動かず、失敗してしまうことも多々ある。会社四季報で生成AIと検索すればたくさんの企業がヒットするけれど、そのほとんどはうまくいかないだろう。逆にいえばその分うまく行った企業からはそれだけリターンを期待できるし、探し甲斐があるものだ。


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