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土肥のまち

船からは富士山がみえます。あいにくの天候だったのですが、三保の松原、田子ノ浦、薩埵峠という富士山の名所は海からだと陸のごちゃごちゃとしたものがなく、晴れているとくっきりとみえるようです。いわゆる銭湯の絵的な姿なので、晴れている日、改めて乗ってみたいと思いました。雨の中、土肥港に着きました。丸い湾のなかに、ちいさな松林がある古風な海水浴場と温泉街がみえます。ちょっと猥雑で、それなのに清らかな感じがします。温泉にはいってみたかったのですが、町歩きするのには寒く、町もオフシーズンでしたので、すぐ、連絡されているバスに乗りました。険しい山道を登っていきます。町は海の道で発展し、町ができたころは、山を越えるひとはそんなに多くなかったでしょう。

 なんだか既視感を感じたのは、わたしが伊豆出身の清水宏監督の映画「有りがとうさん」のDVDを持っていて、見てたからだと思い出しました。それは、戦前の映画で、伊豆のつづら折りの道をゆくバスの運転手が主人公の映画です。伊豆の美しい風景と人の風俗、そして、その当時の世相が映し込まれていて、味わいがあります。加山雄三の父、上原謙が主役ですが、美男子ですが、冷たさがあります。小津安二郎監督が「ギンギツネ」って呼んでいたそうですが、なるほど、色っぽい。その主人公がバスにのっている美しい桑野通子のわけありの女をはじめ、いろんな人とかかわります。その道をあるいている人が多いのには驚かされたり、道をつくらされている白い民族服をきた朝鮮の人々がでていて、あっという当時の社会の現実が映しだされています。道の険しさは変わらないなあと思いながら修善寺温泉を経て、雨の伊豆箱根鉄道の駅に着きました。


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