『双子連続消去事件』の真相について考えよう

彩紋家事件』をメルカリで購入し、つい先日読了した。
これにより、トリビュート以外の既刊のJDCシリーズは全て読んだことになり、残すはもはや幻の作品となりつつある『双子連続消去事件』だけだ。

しかしながら、『彩紋家事件』の刊行は2004年ということで、すでに二十年もの歳月が経過してしまった。
それどころか著者の清涼院流水御大は近年は英語学習とビジネス書業界にどっぷりと浸かっている。
双子連続消去事件』が世間の目を浴びる希望は絶望的に儚い。

それならば、もはや我々が自分たちの『双子連続消去事件』を生み出すしか道は残されていないのではないか。

ということで、JDCシリーズ幻の『双子連続消去事件』の事件内容とその真相、そして真犯人について考えることにする。

なお、事件について考える上で過去作のネタバレにガッツリ触れるので未読の方はご注意いただきたい。
もっとも、未読の人間がこの記事を開くことはほぼ無いだろうが。

▼双子連続消去事件とは?

そもそもどのような事件なのかについて考えていこう。
本事件について作中から得られる手がかりは覚えている限り以下の内容だ。

  • 彩紋家事件」「連続密室殺人事件(コズミック)」「幻影城殺人事件(ジョーカー)」と並ぶ四大悲劇の最後の一つ

  • 実行犯は「聖徳太子=イエスキリスト」を棟梁とする殺し屋部隊「天狗」の残党

  • コズミック』に対する『ジョーカー』のように『彩紋家事件』と対になる

概ねこのくらいだろうか。
現状実行犯しか判明していないので、被害者の総数などの詳細な内容はほぼゼロである。(実行犯についても推理の段階なので解決編で覆る可能性は非常に高い)

とりあえず事件による被害がどのようなものなのかを考えていこう。
まず、事件名に注目すると”消去”とある。つまり、本件は殺人事件として立件されていないことが窺える。
これは事件の前半が事故傾性、要はプロバビリティによって引き起こされた死であった「彩紋家事件」にも通ずる。

また、わざわざ”失踪”ではなく”消去”という言い回しをしていることから、被害者は文字通り「何人かの目撃者の目の前で消えた」と考えるのが道理だろう。

そして、ただ消えただけなら別に”消失”でもいい。
しかし、御大はあえて”消去”という単語を選んでいる以上、被害者の消失は恣意的なものであると客観的に判断しうる状況だと考えられる。
おそらくは消失ののちどこかで遺体が発見されたが、他殺の痕跡が見当たらないとかだろう。

被害者については言わずもがな双子で、この点については額面通りに受け取っても構わないだろう。

また、『彩紋家事件』終盤でDOLL最高議長に就任した鴉城蒼司が本件の推理をしていたことから、おそらく被害規模は日本だけでは無いと推測できる。
しかしながら、四大悲劇の他の事件はどれも主に日本国内で発生した事件であるため、この部分についてはどちらとも言えない。

つまり「双子連続消失事件」の概要については、以下のように考えられる。

(おそらく)世界各地で、人々の目の前から人間が消え去ったのち、遺体として発見される怪現象が相次いで発生。消えた人物は全員が双子という共通点を持っていた。

脳内より出典

▼事件の真相、およびトリックについて

それでは、この事件の真相について考えていこう。
もはや手がかりなど微塵もないので完全な妄想である。

まず第一に、人間消失のトリックについては奇術を用いたものでほぼ間違いないだろう。
対となる『コズミック』と『ジョーカー』に登場する密室が、どちらも密室教徒によって構築されたものだったことを考えると、『彩紋家事件』とその対になる『双子連続消去事件』では奇術がトリックの根幹を成す可能性は十分にある。

また、『彩紋家事件』終盤で鴉城蒼司が実行犯は殺人奇術を用いる天狗の残党だと推理していたことからも、消失は奇術によって引き起こされたと考えることができる。

次に事件の真相、というか犯行動機目的について考えてみよう。
ここでポイントになるのは、恐らく被害者が双子であるという点だろう。
また、御大の過去作の傾向からして、被害者にはさらなる共通点があることが物語の中盤以降に判明するはずだ。
この部分にフォーカスし、さらに妄想を広げていこう。

考えられるのは、いずれの被害者も一卵性双生児である可能性だろう。
その場合の犯行目的は、「一つの受精卵が分化して産まれた一卵性双生児は、いわば二分の一の不完全な存在なので世界から抹消し、世界を完全な形にする」みたいなものだろうか。
一卵性双生児の方々には大変申し訳ない。

また、実行犯の天狗に関しても、元々は同一の組織だったものから悪鬼と分化したというルーツがあり、一卵性双生児の発生と似通った部分を持つ、というのもある。だからどうしたという話だが、本編の解決編も似たようなものだ。

しかしながら、これらの内容については御大の専売特許である言葉遊びの要素が含まれていないため、真相の深層にはまだ到達できていない。

▼真犯人は一体誰なのか?

JDCシリーズの醍醐味といえば事件の真犯人である。

犯人という呼び方が相応しいかは微妙だが、ここでは「作中の事件に関与した歴史上の人物」を便宜上真犯人ないしは黒幕とさせていただく。最もインパクトがある部分であり、壁に本を投げつける最大の要因。

誰しもが知っているあの人物が黒幕だと暗合でこじつけていく終盤の展開は、良くも悪くも他の作品では味わえない読書体験だ。

本件の真犯人について考察する前に、これまでの真犯人について振り返っていこう。

  • コズミック:松尾芭蕉←卑弥呼←曹操

  • ジョーカー:紫式部/誰でも良い/密室教徒

  • カーニバル:イヴ

  • 彩紋家事件:厩戸皇子(聖徳太子)≒イエス・キリスト

錚々たるメンツである。
松尾芭蕉が一番後輩になる並びは他に無いだろう。
とりあえず双子つながりで何人か真犯人候補を挙げていこう。

  • ディオスクロイ(カストル/ポルックス)
    ギリシャ神話に登場する双子。基本神として扱われるが、人間とされる場合もある

  • アベル
    兄弟殺しといえばこのお方。双子とは関係がないのがネックか。

  • ミカエル/サタン
    近年では双子扱いの天使と悪魔。悪鬼と分化した天狗に共通する部分もある。

  • アムーリウス
    ローマ建国神話の登場人物。ロムルスとレムスの双子を殺害しようとした功績持ちだが知名度に致命的な難あり。

  • 日本武尊/大碓皇子
    知名度と双子要素とを兼ね備えた日本史上の皇族。

  • スサノオ
    八岐大蛇を多胎児と見立てれば双子殺しの逸話持ちとも言える。

調べていて思ったが、双子の偉人はやはり少ない。
そもそも存在自体が忌み嫌われていたのが大きいのだろう。
それゆえか、双子殺しの逸話を持つ人物もまあいない。強いていえば産婆。

リストアップしていて思ったが、そもそも双子は被害者側なので黒幕からは除外するべきではないだろうか。
そうなると最有力候補はスサノオだろう。

自分で言うのもなんだが八岐大蛇の見立ては普通に本編でやりそうではある。

「日本で最初に双子を殺害したのは実はスサノオなんだ。」
「でも彼に関する逸話といえば、八岐大蛇とか…」
「その八岐大蛇というのが双子を暗示している。頭が複数ある、これは同一の個体から複数の人格が発生していると考えられる。まるで何かと同じじゃないか?」
「一卵性双生児の発生と全く同じ……!」

上記のようなやり取りがもはや実際にあったような気さえしてくる。
恐らくスサノオに行き着くきっかけは、別々の事件で消えたと思われていた双子二組が実は一卵性の四つ子であったことから、真の殺害対象が「双子」ではなく「一卵性」だと判明したことだろう。

また、スサノオといえば、アマテラスツクヨミと合わせて三貴子かつ三兄弟として知られているが、アマテラスツクヨミはそれぞれ太陽神月神で対になっているのに対し、スサノオ海や嵐の神格である。
これは、元来アマテラスツクヨミ一卵性双生児として誕生したのち、弟としてスサノオが生まれたことを示している。古事記の記述でも、アマテラスツクヨミ伊邪那岐命の左目と右目から、スサノオから生まれたとある。左右の眼球ならむしろ二卵性と思うかもしれないが、気にしてはいけない。
その後スサノオはこの双子を殺害。これが「双子連続消去事件」の真の始まりなのだろう。

そして、事件の最後に夜空から双子座を消し去るであろうことは想像に難くない。
人類が観測する最も巨大な双子を消去することで、この事件は幕を閉じるのだ。
神殺しから始まり、神殺しに終わる事件、四大悲劇の大トリとして恥じないだけのインパクトがある。

つまり、「双子連続消去事件」における真犯人とは、日本神話に登場する男神の一柱であるスサノオ…の名を現代で襲名した何者かだろう。

結論:『双子連続消去事件』の刊行を待ってます

あまりにも音沙汰が無いので、断片的な情報から「双子連続消去事件」の真相を勝手に考えてしまったが、私はオリジナルが世に出る日を待っている。

かつて同様に幻の続編とされていた、京極夏彦の『鵼の碑』も2006年から十七年越しの刊行となった。
この前例があるため、『双子連続消去事件』についても期待せずにはいられない。
たとえ、著者が近年ミステリを出版していなくともだ。

しかしながら、JDCシリーズはもはや書店で見かけることはなく、新規の読者が今後増える見込みはゼロに等しい。一部の好事家がわざわざ電子書籍か中古で購入するかしか新規参入のルートは存在しない。
読者層が増えない限り、続編を待ち望む声が大きくなることもない。需要が大きくならなければ供給するに値しない。
正直なところ、『双子連続消去事件』の刊行は絶望的と言っても良いだろう。
まずは新規を増やして読者層の厚みを増していかなければならない。そのためには何が必要だろうか。

例えばだが、JDCシリーズが何かの間違いでアニメ化してくれれば、少なからず話題にはなる。
それをきっかけにシリーズが重版されれば新規の読者もある程度は増えるだろう。
最近では、特殊設定の奇を衒ったミステリも増えてきたため、コズミックの例の結末を容認してもらえる土壌は少しはあるはずだ。
また、探偵役のキャラクター化も著しいため、現代においてはJDCの探偵くらいのキャラ付けがちょうど良いとすら言える。
つまり、時代がやっとJDCに追いついたのだ。

…とはいえ、御大はR言語の文showであることに並々ならぬこだわりがありそうなので、映像と音声だけで全てが完結するアニメ化にあまり良い気はしないだろうが。

兎にも角にも、JDCシリーズがもっと世間に認知されなければ話にならない。
そのために私ができることは、せいぜいこうやって文章をネットの海に垂れ流すことだけだ。

偶然にもこの記事に辿り着いた方がいたら、どうかお願いです。
身の回りの知人にJDCシリーズを布教してあげてください。私は何人かの友人に怪訝な顔をされましたが、ハマる人にはとことんハマる作品だと思います。











ぶっちゃけ本当に待ち望んでいる続編は学生アリスの方です、有栖川先生お願いします。

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