我が生誕と暦の序列

3月15日

長い長い20世紀も着実に終わりへと近づきつつあったその日、私は誕生した。

普段の生活の中で誕生日として扱っているその日が、果たして正確に私の誕生日であるかどうかについては諸説ある。

なぜそのような事が起こりうるのか?

答えは単純明快、おおよそ7時間の時差が発生しているためである。

取り立てて秘密にしていたわけではないが、実は私の出生地は日本ではなくドイツなのだ。ただし、滞在期間中は乳幼児で学齢期に満たなかったため、帰国子女の定義からは外れる。

そういった理由から、この7時間の時差を踏まえると私の誕生日は本当に3月15日なのだろうか?

そもそも出生地の時間と日本の現地時間のうち、どちらを基準にして生年月日を設定したのだろうか?

普通に考えれば、誕生した瞬間の現地時間を参考にした事だろう。わざわざ「日本だとこの時間だから…」と面倒な作業をするとは思えない。

しかし、私ならそうするだろう。そして子どもの18歳の誕生日に「実はお前の誕生日は本当は今日では無いんだ」とカミングアウトをするはずだ。

ちなみに、20歳を過ぎてもそのようなイベントは特に無かった。残るチャンスは遺言くらいだろうか。

しかしながら、この3月15日という誕生日は子供時代ではなかなかに不遇なものである。

ギリギリ春休みに突入していることが多く、面と向かって祝辞を述べられる機会に乏しいうえ、商戦のシーズンからも外れているため、そのタイミングで特にコレが欲しい!というものが少ない。

改めて考えてみると、なんと不遇なのだろう。

加えて、3月生まれであるために、星座カーストもあまり高くはないうお座である。

世間は3月が嫌いなのだろうか。

まあ実際のところ、3月という季節は「別れ」や「終わり」を連想する時期であるため、ネガティブな印象が強いというのは否めない。

12ヶ月を子ども基準でランク付けしていくとしたら、祝日が無いうえに雨が多い6月、夏休みという超重要イベントの終焉を告げる死神9月と肩を並べる3バカとして下位を独占することであろう。

そこへいくと、お年玉一本で不動の地位を手にする1月、地域差はあれどほぼ全期間夏休みという誰も辿り着けない高みに位置する8月、天下無双の一大イベントであるクリスマスを擁する12月は圧倒的環境トップの3強といって差し支えないだろう。

他の月についても考察するとしよう。

まずは2月。彼の特徴を敢えてあげるなら、節分・バレンタイン・短いの3つと言ったところか。中でも圧倒的な日数の短さ、わずか28〜29日しか存在しないという他とは一線を画した特別感は印象深い。ただ、勝負の明暗を分けるポイントは何といってもバレンタインだろう。信者も決して少なくはないが、多くのアンチも存在するこのイベントが買うであろうヘイトにより、上位に上がるのはなかなか難しいものがある様に思える。

次に4月。彼は3月とは対照的に、「出会い」や「始まり」の季節と言える。さらにギリギリのところでゴールデンウィークの先鋒を輩出している超名門だ。そして一般的な桜のイメージをほぼ独占しているのもコイツだ。3月はコイツに全てを奪われている。最後の砦は桜餅しか無く、ひな祭りがある以上は桜餅だけは死守してみせる、世間の3月民はこの思いで一致団結している。

とまあ、3月の目の上のたんこぶの4月であるが、彼も環境が変わる時期であるために「不安」という要素が付き纏うことは避けられない。それゆえ少なからずネガティブな印象も抱える4月は、辛酸を舐める結果となる。

そして5月。正直彼は強すぎる。ゴールデンウィークという圧倒的な輝き、その甘美なる光には大人でさえ抗えない。大人レギュレーションならダントツの1位だろう。正直彼を入れて四天王でも良いくらいだ。しかしながら、個人的に彼は8月に勝つことはできないと考えている。その大きな理由としては、やはり夏休みの存在が大きい。たかだか数日の連休と長期間の休みなぞ比べるまでもない。レギュレーションによる大きな不利を被ってはいるものの、それでも上位4傑に入ることに異論はないはずだ。

さて、7月だが、彼も8月によるサマーカタストロフの被害者のひと月だ。経験上、夏休みの思い出の大半が8月だったように、夏休みの本体はあくまで8月なのだ。つまるところ7月はただの前座でしかない。もちろん、7月に突入すると「もうすぐ夏休み」という高揚感が溢れ出し、7月中は割とワクワクした気持ちで過ごしていることは否めない。だが、悲しいことに実際のところその高揚感は7月に対して向けられたものではないのだ。私はこれを密かに「7月の悲劇」と呼んでいる。それでも彼は生きている。自分を通して後ろにいる月へと注がれる子どもたちの眼差しを笑顔で受け止めながら…

来たる10月。彼が持つ手札は、ハロウィーン・衣替え・あとはなんか一番秋っぽい…一気に貧弱になってしまった。彼が上位を狙うのはなかなかに茨の道だ。強いて言えばハロウィーンがもっとイベントとしての力があれば良いが、それでも戦力は心許ない。神無月だから神の寵愛を受けられないのだろうか。

最後に11月。彼には………何も無いかもしれない。特にこれといった行事も、風物詩も思い当たるものがない。七五三もボジョレー解禁もこのレギュレーションではほぼ無力。減点法なら満点、加点法なら0点、それが11月の姿か。3バカ入りも出来ず、かといって上位を狙えるカードも持っていない。文字通り彼には何も無いのか。私は何も知らなかった、12ヶ月をひとつひとつ考えるまで彼がこれまで抱えていた苦しみに気づくことすらできなかった。私は11月を救いたい。悪役にすらなれない11月、嫌われることこそないがその到来を望む者がほとんどいない11月。

今日に至るまで迫害を受けてきた11月の民たちよ、今こそ立ち上がる時だ。

狙うは四天王の首、1年の王に相応しいのは11月だ。

11月による叛逆が、今から始まるのだ。

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