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【実証】JAPAN JAM開催に見る主催者の葛藤【業界ニュース】

JAPAN JAM開催に見る主催者の葛藤「JAPAN JAM 2021」が千葉市中央区の蘇我のスポーツ公園で開幕したことへの賛否が寄せられています。

「まん延防止」地域で1万人規模の野外ロックフェス…地面にテープ、歓声・ハイタッチは禁止

この時期の開催に踏みきったことに対して、様々な賛否が寄せられていますが、主催の葛藤は痛いほどよくわかります。
いくつものトレードオフが、そして、関係各所とのせめぎ合いがあったはずです。

開催に踏み切った理由と、その結果の現状、そしてこの後どうするか、どうなっていくのでしょうか?

開催に踏み切った主催の苦悩

昨年からの緊急事態宣言や政府ガイドライン、国による補償制度など、刻々と変わる状況に翻弄されてきた音楽業界の苦しい事情がまず前提にあったはずです。

音楽業界が一番最初に敬遠された原因の一つにライブハウスでのクラスター発生がありました。
音楽やエンタメは、不要不急とされある意味どこよりも早く活動の停止を余儀なくされました。
何よりも音楽活動は音源ビジネスが成立しなくなって久しいということもあり、収益の軸をライブに寄せていました。
そんな中でまさしく収益の柱であるライブを止められたことは非常に大きな痛手となったわけです。

しかし、この1年の間に政府のガイドラインに則り、感染症対策を行ない、来場者にも協力を得ながら、少しづつ再開してきました。

その中で、わかってきたことは、充分に換気が出来る施設や野外での開催で、感染が拡大した事実は確認されなかった、ということです。
その実績を踏まえて、政府の規制も少しづつ緩和されてきていました。

現時点だと、千葉県は緊急事態宣言発令地域ではなく、まん延防止等重点措置(通称まん防)エリアです。

条件としては「5,000人以下」に加えて「大声での歓声、声援等が想定されるものあっては、収容定員の50%以内の参加人数」となっています。

そして細かく見ていけば、1,000人以上の動員を予定している公演は、事前に自治体にも相談をすることや、実施の際には感染対策として消毒や、入場者の移動制限、マスクの着用を必須とする、各所に消毒用アルコールの設置など、普段行なうコンサートよりもはるかに徹底した準備が出来なければ、開催が許可されることはありません。

10,000人以上のコンサート自体は、昨年10月に大阪で開催された「OSAKA GENKI PARK」がありました。ここでも十分に対策した上で実施されたようですが、ここからクラスターが発生したという話は特に出なかったようです。

政府のガイドラインに則って実施すれば問題はない、ということが業界の中でも十分に浸透しつつありましたが、それでも業界関係者の大半は予定していた公演の大半を実施にまで踏み切ることは出来ませんでした。

それは、二度目の緊急事態宣言もありましたし、それでも政府ガイドラインでは開催の中止を要請されたわけでなかったなど、あいまいな基準に誰もがどうすればよいのかをわからなかったからです。

単純に「感染が落ち着くまで実施はしない」と決められるのは、一部の余裕のあるアーティストやプロダクションだけです。
本当の意味で死活問題になっている音楽関係者は非常に多いのです。
赤字にさえならなければ、開催すればスタッフの雇用も確保出来ます。
鉄道やホテル、飲食店などへの「シャワー効果」もあり、経済効果を生むことも出来ます。
地域経済に対しても影響があるのです。

そんな中、「JAPAN JAM」が、開催に踏み切ったことは純粋に「音楽を守る」という使命感があったと思います。
人流を止める、ということが感染抑止の最良の方法だということはわかっていたとしても、人が集まることを求めるのは、人間の根源的な欲求なのだろうと思います。

これは単に利己的と片付けることは出来ないと思います。
大昔から人は、焚火を囲んで歌を歌い、踊り、酒を飲む、いわゆる「祭り」を行なってきました。文化が違えど、世界中で見られる人の営みです。ということは、人が集まり歌を楽しみ、踊り、酒を飲む、というのは人間が根源的に持つ欲求の一つなのではないでしょうか。

その人々を開放すること、そこに関わる人々の雇用を生み出すことは、やはりイベント主催としては使命感を持って行なったことだと思います。

感染拡大する可能性があるから中止します、というのは安全上はベストかもしれませんが、変わらない状況の中で、経済面でも、精神衛生面でも、コロナ対策の実証面でも、トータルで見て正しいことなのでしょうか?

つまり「ワクチンで集団免疫を獲得するまで全ての活動を自粛する」ことが全ての面で正解なのでしょうか。

何が正解なのかは自分で考えて出すしかありません。
その答えを誰かも求めて、責任を誰かに背負わせることも出来ません。

「開催するな」ということは簡単ですが、その裏で働いている人々への想像力は十分なのでしょうか。
「感染したら責任を取ってくれるのか」というのは、甘えなのではないでしょうか。

「全てが自己責任」とまで言うのは行き過ぎだと思いますが、「全てが他者の責任」というのも同じくらい行き過ぎです。

「補償しろ」というのも簡単ですが、中央銀行が無尽蔵に円を発行し続けたら、この先のつけは結局国民が背負うことになる(かもしれない)のです。
勿論、今すぐに破綻しては困るので、金融緩和は必要になるですが、ここの議論は長く深いので割愛します。

そうした周囲の状況も全て踏まえた上で主催者は「それでも開催すべき」としたわけです。
感染拡大を容認するのではなく、絶対に拡げないという決意を持ちつつ、参加者への意識向上にも期待した上で、です。

簡単な判断ではなかったはずです。
政府のガイドラインは順守し、参加者へも協力を要請し、現場の対策は万全に行ない、共同で主催するはずだったbayfmが降りたとしても、全ては「音楽を守る」という使命のために、実施に踏み切ったことを考えると、相当なリスクを取っています。

しかも、そのことで同社が大儲けできるのかと言えば、決してそんなことはないと予想できます。
券売は制限をかけられており、感染症対策のために昨年にはなかった予算をひねり出し、スポンサーもついていない状況で、儲かるはずがありません。赤字スレスレでしょう。
それでも実施するのは、全ては「フェスは開催できると証明するため」そして「雇用・経済効果を生み出す」ため、だと思われます。

客観的に現状を踏まえて

Twitter上では、批判の声も非常に多いです。
むしろ批判の方が目立ちます。
これは、世間の反応としては正しいと思います。
「こんな時期にやるべきではない」というのは、大多数がそう思うはずです。

しかし、先に述べた通り、それは主催にはわかっていたはずです。
それでもやらざるを得ないという覚悟があったんだと思います。
それくらい、業界は危機感を持っています。

「(万が一感染が拡大した場合には)参加者や関係者以外にも影響が大きい」ということも、主催者も参加者も理解しているはずです。

ガイドラインにも則っていて、違法なわけでもなく、批判は覚悟の上で、そして参加者も覚悟の上で、開催に踏み切ったのですから、そこに対してとやかく言うことは意味が無いと思います。

問題はこれを受けて今後どうすべきか?と前向きに、建設的に考えることが大事だと思います。

今後どうなるか?どうすべきか?建設的に考えよう

今後どうなるか?それをまず追跡できる体制はあるのでしょうか?
ここが一番気になります。
今回、自治体は実施に当たり、単に許可をしたのではないと思います。
「この機会を利用して、大規模イベントを開催した際に感染拡大が起こり得るか?」という検証が必要だと思います。

これまでにもいくつものイベントが実施されてきました。
しかし、自治体もイベントの存在は把握しようと動いてはきたものの、踏み込んで検証するところまでは行かなかったのではないでしょうか。

実証しようともしているのかもしれませんが、それが一般的には見えてこないからです。

海外ではイギリスやスペインでは国家を上げて実証実験を行なっています。

観客5千人のコンサート実験、コロナ陽性は6人 スペイン



感染状況改善の英国クラブで大規模イベント

結局、不安だけを考えてもしょうがないわけで、実際問題どうなのか?をきちんを確認していく必要があるわけです。

少なくとも、スペインの事例では「コンサートの現場での感染拡大は起きなかった可能性が非常に高い」としています。

ここから、具体的な対策がどうだったのかを踏まえつつ、事実を基にして徐々に規制を緩和していくのが前向きな在り方ではないでしょうか。

日本の法律で強制的に人流を制限すること、つまりロックダウンが出来ない以上、一人ひとりが具体的にどうしていくかを自分の責任でよく考えながら、対処するしかありません。
一方で、一個人は自分のリスクを背負って(自粛などの行動制限をしながら)、生活をしていくわけですから、国家は、政治の責任を持ってこの活動から何を得るべきかをよく考えて具体的な対策を実施することに注力してほしいと思います。

どこに感染拡大の原因があるのか特定しようと努力し、そこに対してどのような手を打つべきかが、明確になればいたずらに不安になる必要もありませんし、自分たちの行動の幅を広げることに繋がり結果的に、自分たちの生活の質を向上させることにも繋がります。

イギリスはこれからだと思いますので、見守っていきたいと思います。

日本では、国家主導で実証実験するのは難しいと思いますから、コンサートを営む業者と協力して実施すればいいと思います。

例えば、参加者全員にPCR検査の受診を義務付ける、陰性でなければ参加できないようにする、その際、PCR検査費用は国が負担する代わりに、キャパシティの制限を撤廃する、そして主催は政府ガイドラインに則って、万全の対策を行ない、陽性者には払い戻しを受け付ける、というのは具体的な対策になると思います。

あるいは、実証実験としてガイドラインを遵守するよう義務付け、チェックを行い、同時に参加者全員のその後2週間をモニタリングする、その方法として、購入者に対しては毎日体調管理も含めたアンケートを送り集計する、その為にかかる費用を国が負担する、などやり方を工夫すれば前向きな開催を見込めるのではないでしょうか。

いたずらにコンサート開催費用の半分を負担するとしておきながら、実際の給付が著しく遅れるよりも、はるかに建設的ではないでしょうか。

そして、政府やメディアは、SNSを中心として批判が上がっていることや、それを受けてもコンサート実施に踏み切っている事実を客観的に受け止め、この事態を今後どう活かすか?ということを発信してほしいと思います。

「大変だ大変だ」と騒いでいてもしょうがないですし、「問題だ問題だ」と喚いても、何も解決しません。

それにしても、これだけ批判を浴びながらも、1万人を超える人数がフェスに参加するということは、やはりそれだけ生のエンタテインメントが求められている、ということです。

人々は、リアルな体験を得るために、集まりたいものなのだな、ということが再確認出来たのではないでしょうか。
コロナ禍が過ぎれば必ず、リアルイベントは復活する、と実感出来ると思います。

エンタテインメントにとっては、こんな中でも強いモチベーションで参加してくださる方がいるということは希望とも言えると思います。
前向きに、冷静に、諦めずに、確実に前進していきたいと思います。

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