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米国著作権法507条b項の損害賠償についての最高裁判決(2024年5月9日)

(※冒頭の画像はDALL-Eで生成しております。)

アメリカ著作権法507条b項では、民事訴訟は、”within three years after the claim accured” (請求権の発生後3年以内)に訴訟を提起しなければならないと定められています。この「3年内に訴訟を提起」した場合に、3年より前の損害賠償を請求できるかどうかについては各巡回区裁判所によって判断が分かれていましたが、アメリカ合衆国最高裁判所(SCOUTS)は、2024年5月9日に本件について、侵害の発見から3年以内に訴訟を提起すれば、3年より前の損害賠償を請求できる旨判断しました。(判決文はこちら

問題となった事件は、Waner Chappel Music Inc. v. Nealyです。当初、NealyとButlerの会社で楽曲をリリースしていましたが、その後、Nealyは麻薬関連犯罪で刑務所にいっていました(1989年−2008年、2012年-2015年)。その間、Butlerは、Nealyの知らないところでWanerと楽曲のライセンスを行いました。そのうち、「Jam the Box」という楽曲が、Flo Ridaのヒットソング「In the Ayer」に収録されていました。2回目の収監を終えたのち、NealyがWanerに対して、訴訟提起から10年以上前である2008年に遡って損害賠償提起したのが本件の事案です。

本件の問題となっている507条b項は、以下の条文となっています。

No civil action shall be maintained under the provisions of this title unless it is commenced within three years after the claim accrued.

17 U.S. Code § 507 - Limitations on actions

上記の条文では、請求が「accured」(発生)した後3年という期間が定められていますが、この部分については、原告が侵害を発見しまたは発見すべき時に発生するとする「ディスカバリールール」が適用されています(すなわち、侵害の発生から3年以上経っていたとしても、その発見(又は発見すべき時)から3年以内に訴訟すればよいということとなります)。ただ、このディスカバリールールは、訴訟が提起できる期間だけではなく、訴訟提起前3年の損害のみ損害賠償を請求することが可能であるとする考え方(第2巡回区判決)と、3年以内に発見(Discover)すれば、訴訟提起前3年を超えた古い損害でも請求できる考え方(第9巡回区判決)に分かれていました。

本件の第1審は第2巡回区判決をベースに、訴訟提起前3年以上前の損害は求めることができないとしました。一方、上級審である第11巡回区裁判所はこの判断を覆し、訴訟の提起が適時であれば、3年以上前の損害にも遡及されるとしました。

最高裁判所は、第2巡回区判決や第11巡回裁判所が適用自体を肯定しているディスカバリールールが適用された場合において、著作権者が訴訟提起の3年以上前に発生したとされる行為の損害賠償を求めることができるか、という点についてのみ判断を行うとし、多数意見(6対3)は、507条b項は金銭的回復に関する時間的制限を含むものではない、と判断しました。理由としては、仮に損害賠償の期間を制限するのであればその旨規定されるべきであるがその規定が存在しない点や、仮に第2巡回区のように判断を行った場合にはディスカバリールールを破壊(gut)又は黙示的に除外する(silently eliminate)ことになる点などを理由としています。この判決には、Gorsuch判事とそれに賛同する2名の判事の反対意見があり、そもそもディスカバリールールが本件の適用となるのかという点を検討すべきであり、「将来の事件を待つべきであった」とします。この将来の事件とは、Hearst Newspapers, L.L.C., et al., v. Antonio Martinelliの事件を指していると思われ、Goursuch判事らによれば、「そもそもディスカバリールールは有効なのか(詐欺や隠蔽の場合にルールの適用を限定すべきである)」という問題点が判断される可能性があります(現在、A writ of Certiorariが提出されています)。

上記に記載したとおり、本判決はディスカバリールールが適用された場合を前提とし、どのような場合にディスカバリールールが適用されるかの判断は行なっていないことを明記しています。本件では、第1審でWarner側も適時の訴訟であったことは争わず、Nearlyは収監されていたという特殊事情があったという点で、反対意見が示唆するようなHerst Newspapersの事件にかかわらず、多数意見が形成されたのではないかと考えられます。

このように、本件判決自体は、ディスカバリールールが適用されれば、著作権者にとって有利な判決とはなりましたが、今後、ディスカバリールールの適用の有無の判断次第では、そもそも「3年以内」の要件が厳しくなる可能性も考えられ、著作権者にとっては引き続き動向に注目していく必要がありそうです。


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