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入るか出るか

「日の入り」という言葉を聞いてどういう現象か皆さんはとっさに理解できるだろうか? 「日の出」と言われればそれは太陽が地平線の下から登ってくる様子が比較的想像しやすいが、「日が入る」というのは分かりにくい。どこに「入る」のか? もちろん地平線(水平線)の下に「入っていく」ことなのだが、「出る」とか「入る」とかの言葉は、そもそも話者がどこに立っているのか、寄って立つ位置よって変わってしまうので、実は曖昧さを持つ。

「彼女は家を出た」「彼女は出て行った」と言えば、彼女は去ったのでもう家にいない。彼女は不在だ。だが「お化けが出た」場合は、化け物の(こちらの世界への)出現を意味する。「出た〜〜〜〜!」というのは、お岩さんでも幽霊でも「目の前に出た」ことを言う。あちらへと出て行ったことは言わない。

その意味で言えば、「日の出」は本当に地平線からこちら側に出たのかどうか、本当のところはわからない。太陽がわれわれの目に見えるところから(あちら側に)出て行った可能性はないのか? だが、「太陽が出た」場合は「お化けが出た」場合と同じで、出現を意味する。

「入る」という言葉も同様に曖昧だ。「大入り」の場合はお客が会場にたくさん入ったことを意味するので、話者の視点は劇場の中にある。だが、「日の入り」は我々の世界に入ってきたのではなく、あちらの世界に入ってしまったのであって、言い換えれば、この世界から「出て行った」のである。つまりそこでは、なぜか隠れてしまう闇の世界に話者が立っているかのような視点で太陽や月の活動を表現するのだ。だが、実際のところはおそらく太陽や月を隠す「袋」のようなものがあって、そこから出たり、入ったりする、というイメージなのだろう。

何れにしても「日の入り」は「日没」なのであった。それと同じで、「月の出」と「月の入り」もあって、それを言われてもとっさに意味が理解できず、「日の出」は「日が登ること」で、と言うことは、月の出は月が登ることなのだ、と、2段構えで理解せねばならないのが如何にも面倒なのである。

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