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バーンスタインの初期マーラー・サイクルをついに聴く

自覚があまり無いのだが、結局、自分はバーンスタインが好きなのかもしれない。家のBernsteinという銘柄のピアノに「レニー」とか名前つけているところにも現れているかもしれない。さて、自分の生まれて初めてのマーラー生体験は、中学生の時に来日したBernstein / New York Philharmonic (NYP)による第1番だった。1979年*であった。もう44年も前の話だが、それでも2楽章を踊るように指揮台の上でぴょんぴょん跳ねながら指揮していた彼の姿が忘れられない。NHKホールのその時の席は、音響バランス的に良い場所とはとても言えないが最前列の一番左側だった。そのおかげで彼の指揮中の恍惚的なゾーンに入っている横顔はよく見えた。今思えば、母がどういうわけか「バーンスタインが来るから、一度いい演奏を聴いてみようか」と提案してきたのだった。家にあったバーンスタインのレコードはホルストの『惑星』くらいであったが・・・

バーンスタインとNYPの組み合わせによる最初のマーラー・サイクルは、CBS(プロデューサー:ジョン・マックルーア)によるもので、60年から68年にかけて録音された。以前からマーラーファンの間では「名演/名録音」の誉れ高い作品群であったにも関わらず、何十年と入手できずにこの歳になってしまったのだった。中学生の頃はもっぱらバッハやシンセ音楽のレコードを買ったりはしていたが、まだマーラーのレコードを集めるほど熱心ではなかったし、優先順位的にもそのようなことは(お小遣い的にも)不可能だった。

80年代ドイチェ・グラモフォンから出たバーンスタインの2度目のマーラー・サイクル録音は、コンセルト・ヘボウ、ウィーン・フィル、そしてNYPとの演奏で、曲の性質に応じて楽団を変えての録音となった。NYPは第2番、第3番、第7番を担当している(なんとなくどうしてそうなったのかは想像できる気がする)。このサイクルがリリースされたのが、ちょうど留学時期(80年代末期)に重なっていたこともあり、師匠が当時同楽団でオーボエを吹いていたので、かなり無理をして購入したものだった。しかし、それでも「最初の録音」を全部通しで聴いてみたいという欲望は強く存在していた。

今月になってなんとなくバーンスタインの音源をあれこれ、SpotifyやYouTubeで聴き、また以前レコードをデジタル化したものを聴き直したりしていたのだが、ヤフオクにこのマーラー全集が2000円を切る超安値で出品されているのを発見して、矢も立てもたまらず落札してしまったのだった。欲しいと願って四半世紀以上過ぎてようやく入手したバーンスタインの第1期マーラー・サイクルであった。これは我が敬愛する録音エンジニア兼プロデューサーのジョン・マックルーアが自らデジタル・リミックス(リマスタリング)を担当してCDで出たものであるせいか、楽器間の音の分離も素晴らしく、おそらくもともと良かった録音が輪を掛けて恐ろしく生々しい空気感を伝える録音になっている。第1番の最初のA音の伸ばしが始まる時の、あのステージ上の空気感は何に喩えよう。音楽が始まる前からマックルーアの録音では音楽が始まっているのである。

年末年始はようやく手に入れたこれを1枚1枚丁寧に聴いていこうと思う。

* この来日時に録音されたショスタコーヴィチの第5番のライブ録音がその後有名になる。この時の来日はバーンスタインにとって4回目、1979年だから実はその10年後に自分の師匠になるジョゼフ・ロビンソン氏がすでにオーボエを首席で吹いていたはずなのだが、この時点ではオーボエという楽器に対する認識すら怪しかった。

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