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初秋 細長い谷あいを 海へ向けて歩く 刈り取られた後の水田に挟まれた街道に 朱色に染…
朝 万両の赤い実が鮮やかに、鈴なりになっている 昨晩の雨は木々の梢に透明な滴を実ら…
駅 ここで降りる するするとホームに到着する電車の音 そこから降りてくる人々のラン…
マリア 夏の訪れを予感させる雲と海風が あなたが握りつぶそうとしている思い出を再び…
佳日の散歩 冷たい風が木々の葉を大きく揺らし 眩しく輝く陽射しをあちこちに乱反射さ…
初夏 生(せい)のなまなましい手触りは薄れているのに その重量だけが僕を包んでいるの…
稜線 不器用であるという、たったそれだけで 祈りさえ許さぬ嘲笑の視線が交錯する中から 色彩のみに身を委ねて己自身を塗り潰し 単なる機能そのものと化した都市の中から 私はお前を無理やり連れ出した お前はひたすら怯えた眼差しで身を縮ませ 引き裂かれた己が片割れの警告のままに 本能的な防御の海深く潜ってゆく その時に滲み出る涙は 何も溶かし込まれていない、ただの無機的な水 支配を望まぬ筈の予言者が祭り上げられた時代の ひたすら燻し出され裁かれる、新たな予言者たちのように
早春 疲労の中にめり込んでゆく 細い枝々が ゆうらり、と また、ゆうらり、と交叉す…
夕餉の支度前 これまでに何を暮らしてきたか――― そんなことを想いながら たっぷりク…
名宛人 その昼の波のざわめきは どろりとして まどろむような まるでうわ言のような響…
春 生温かい南風にふくらんでゆく 幾重にも畳まれた花びらが目を覚まし 抑圧された患…
Works 育て上げた彼女を見つめながら 生温かい陽光の はるかな遠さ 空しさの 肌触り …
暮らし からからと笑う――― その自分の顔やら しゃれた骨董の家具やらを映す つるつ…
舵 現在を詠うことを 僕は恐れていたのかもしれない 刻々と移動する客船の中を世界と呼ぶ――― そのような僕自身について詠うことを 恐れていたのかもしれない 船べりから望む青い海は この船を浮かべるだけのもので それ以上のなにものでもない、と 詠うことを怖れてきた僕は その虚言にしがみついてきた この船の舵をとる者が見る海図に 陸の望めぬ進路を書き入れたのは 紛れもないこの僕だ 快適な眠りのみを求めて 揺られつづけるこの僕自身だ 甲板に出て見回しても ただ、うねる