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「ある音楽書について、2年前に出版社に送ったメール」

これは、2年ほど前にある出版社に出したメールです。今更またこのことを持ち出すと単に私が粘着なやつに見えるかもしれませんが、このメールでとりあげている本は、今でも本屋さんに並んでますしamazonにも在庫が何冊もあるようです。これほど大量の内容のミスを指摘したメールを送っても普通に売り続けられるわけですから、ミスがどの程度あるかは読者(未来の読者も含む)のために公開してもバチはあたりますまい(と自己弁護しておきます)。

そして、世の中にはトンデモ本といって主張が初っ端からとんでもない本だけでなく、このように内容は本当らしくて実はけっこう間違いが多い本も稀にあるから油断できないよね、と教訓にもなるかもw

このメールの内容を読んで逆に興味を持つ人もいるかもしれないし、その時はぜひamazonなり本屋なり図書館なりで見つけて読んでみてくださいね(というか、ミスの指摘は本のページ番号を基本にしてるので、これだけ読んでもわからないところも多いでしょうし、私の指摘自体が正しいのかも判断つかないとも思うので)。
少なくとも私の中でこの数年間では、この本と「人生が深まるクラシック音楽入門」は音楽系で内容に間違いが多いランキングのトップ2に君臨しています。。。

ちなみに、amazonのこの本ののレビューに、一つ星を付けて類似の内容を書いたものがありますが、私が以前にネットでいろいろ書いたのを読んで、それをamazonのレビューに書いた善意の第三者(?w)がいらっしゃるのだと思います。決して私ではありません、、、

メール本文ここから ----
先日、Twitterで御社の書籍「アインシュタインとヴァイオリン」について、間違いがあることを連絡させていただいたいのうえともうします。
メールをお送りするといってからお送りするまで時間がかかってしまったこと申し訳ありません。以下、読んでいただけばわかるように、量が膨大になってしまったため、時間がかかり遅くなってしまいました。

この本が発刊して少しして立ち読みしたときに、とても広範囲に音楽について扱っていてとても興味深く思い購入していたのですが、しばらく(申し訳ありませんが)積ん読状態でした。先月中頃にFacebookで知り合いの音楽評論家が雑誌の書評に取り上げようとしたが、あまりに間違いが多いからどうしようかといことを書いてらして、そこで読んで確認したのです。ちなみに、その書評は大人の事情でなくなったと数日前にその音楽評論家の方はおっしゃってました。 私が読んで確認したものには、明確な内容の間違い、誤記、誤植のほかに、主観的で間違いとはいえないものも含まれていると思います。その点は了解いただいた上で確認をお願いいたします。

特に大きな間違いだと個人的に判断したものは3カ所あります。
・キルヒャーによる組み合わせ計算の間違い(というより説明不足)
・音楽上の黄金分割の例の間違い
・極小音程の説明における定義と説明の間違いです。

このほかに、いくらかの誤記、誤植、意味不明個所は別途後記してあります。

【内容の間違い】

1.キルヒャーによる組み合わせ計算の説明不備(p.88-94)
p.88から組み合わせの計算の説明がはじまりますが条件の説明が不足しているため計算の結果がどのような場合かが不明瞭になっています。
p.88-89にかけて3つの音の組み合わせから9つの音の組み合わせまでの組み合わせの数が計算されていますが、ここで述べられている計算は「n個の音の列で、n個の音の高さで、音の高さがそれぞれ異なる場合」です。「9つの音符の組み合わせでは」と簡略な書き方をしていますが、それぞれの音符は異なることが明示されていないのは問題です。
そしてさらに問題が大きくなるのはp.90以降の計算です。ここではじめて「9個の音の高さが異なる場合は、9!=362880通りです」と記述され、9個の音列で9種類の音の高さでそれぞれ異なることが示されます。
「もちろんすべての音が同じ場合の組み合わせは1通りです。9個のうち2個の音符が同じ高さの場合は
181440通り、9個のうち3個の音符の音高が同じ場合は60480通りとなります」と計算が続きますが、「9個のうち2個の音符が同じ高さの場合」「9個のうち3個の音符の音高が同じ場合」の音の高さの種類はいくつでしょうか。文章では明示されていませんが、今までの文章の流れとp.89のキルヒャーからの引用図Bをみる限り「9種類」と思うのではないでしょうか。全く違います。(その意味では原著を読み誤っているともいえます)
181440通りになるのは、ある音の高さの音符2個が同じで、他の7個はそれ以外の7種類の音の高さでそれぞれ違う場合です。すでに音の高さは9種類でなく8種類、そしてある特定の音の高さの音符2個が等しい場合なのです。さらにいえば「9個の音列で2個の音符の高さが同じで残りは7種類の音高ですべて異なる」ならこの結果にさらに8倍しなくてはいけません。もしここで述べたいのが「9個の音列で9種類の音の高さが選べて、その中で2個の音符の高さが等しい」場合なら、この計算では計算できないうえ、さらにずっと多い組み合わせになります。この結果をみればわかるように、説明不足で読者は何を計算しているのかがわからない文章になっていることがわかります。
p.91後半からp.94の説明も同様で、音の高さ、音の数、音価が著者が途中からあやふやになっているとしか思えません。どのような場合かが明確に説明されないまま計算だけされていくので、出てきた結果がいくつの音列で音の高さは何種類で音価が何種類の場合の組み合わせなのが読者にはわからないでしょう。(著者はわかっているのでしょうが)
この6ページほどの部分については、文章を再度チェックして何を計算し、どういう組み合わせで、結果は何通りなのかが整理されない限り、だれも理解できないだろうと思います。

2.音楽にみられる黄金分割の説明の間違いと不備(p.110-126)
これについては
a. バルトークにおける黄金分割(p.110-113)
b. ドビュッシーの例における分析(p.116-118)
c. ベートーヴェンの交響曲における黄金分割(p.121-126)

の3つにわけられます。
明確な間違いはa.に限り、b, cについては主観的な意見ですので間違いとはいえないと思いますが、ただ説得力、正確さにおいては問題があると考えます。

a. バルトークにおける黄金分割(p.110-113)
この部分はLendvaiのBela Bartk, An Analysis of his Musicが元ネタですが、レンドヴァイの理論自体、最近の研究では否定的な学者がほとんどであり、後付け的なものとされています。その意味で今更持ち出してもあまり意味がない理論なのですが、著者はさらにこの理論に関してあやふやな記憶を元に書いたため、全く間違った内容になっています。
p.111で「バルトークの傑作、アレグロ・バルバロ(中略)89小節からなる音楽が55小節と34小節に区分されていることに気づきました。」
「この作品では第55小節にこの作品唯一のフォルティッシモがおかれています」
といった記述がありますが、「アレグロ・バルバロ」は89小節どころでなく200小節を越える楽曲です、つまりここで「アレグロ・バルバロ」の話として書かれていることは全く間違っています。p.112にあがっている譜例の5小節目にフォルティッシモがあることからも正しくないことがわかります。
レンドヴァイの原著を読めばわかりますが、この分析に相当するのはバルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」の第1楽章です。(さらにいえば、55小節にあるのはフォルティッシモでなく、フォルテフォルティッシモです)
アレグロ・バルバロにはフィボナッチ数を思わせる不規則な小節数のユニットはでてきますが、楽曲全体は全く黄金分割的にはなっていないので、この数ページについては「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」として書き直す必要があります。(あと、レンドヴァイはp.112の8行目に書かれたような「青髭公の城」についての黄金分割を言及していません)

b. ドビュッシーの例における分析(p.116-118)
この部分はHowatのDebussy in proportionが元ネタと思われますが、分析内容にやや問題があると感じます。著者は変ニ、変イ、変ホの三音動機を強調するあまり、p.116の13行目で「最上声部はさらに大きな二分音符を基本単位としてこの動機を奏します」と書いていますが、通常の楽曲分析ではここに最上声部を見いださないと思います。
p.118 2行目では「第25小節からは変イ音が長く支配します。上記の分岐点となる第57小節から、変ホ音がバスを支えます」と書かれていますが、これも楽譜をみれば明らかなのですが36小節あたりからバスは変ニ音に移り、さらに冒頭の再現もあるため、57小節までバスの支配が変わらないという主張は無理があります。すなわち「ここにも、変ニ、変イ、変ホの3つの音の動機が用いられています」というのはやや牽強付会といえます。
同様にp.117の図も見づらく、小節をせめて1-24, 25-56, 57-71, 72-95と区切ってもらわないと、比率も明確にならないでしょう。

c. ベートーヴェンの交響曲における黄金分割(p.121-126)
p.121の最終行で「「提示部+展開部」:「再現部+コーダ」の関係に着目してみましょう」と書かれているにも関わらず、これ以降のすべては「楽章全体:「提示部+展開部」」で分析されている不整合があります。
そしてソナタ形式が「提示部(繰り返し有り)、展開部、再現部、コーダ」で成り立ち、ベートーヴェン以降ロマン派にかけて多くみられる、各部の長さがほぼ等しく、コーダがやや短ければ、普通にその構成で作曲すれば、比率は常に1.5-1.7程度に収まってしまいます。p.128で著者も述べていますが「無意識のうちに創作した結果としてこの比率が生み出され」かもしれませんが、それが「傑作の法則」になったとするには、あまりに普遍的な数学的結果に思われます。

3.微小音程の説明における定義と数値間違い(p.156-158)
ここでは、さまざま微小音程がどのように算出されるかが記述されていますが、「全音」と記述されているものが、純正律における「大全音」「小全音」またはピュタゴラス音律における「全音」なのかが明確に書きわけられず、さらに何との差で全音が生成されるかも明確に書かれていないため、読んでいてどのように計算できるかがわかりません。そしてさらに大きな問題は、そもそも書かれている定義ではそのような音程は計算できず、間違っていることです。以下にそれぞれの音程について指摘します。

p.156 2-4行目
「ピュタゴラス音律の長三度と純正律の長三度との差、21.506セントには「シントニック・コンマ」という名前が与えられました。この差は純正律における大全音と小全音の差、21.508セントとほぼ同じです」
とありますが、この2つの音程の差はいずれも81;80で示されるもので「ほぼ同じ」なのではなく「同じ」です。音程を2種類で定義してみせただけです。値としては通常21.506セントを両方で使います。

・大リンマ(27/25)
「短三度から2全音を差し引いた差に生まれる音程」
差の対象が書かれていませんし、短三度から2全音引くと変ニ音でなくロ音になりますし、この音程では算出できません。
一般的な定義は「純正律の短三度(6/5)と小全音(10/9)の差の音程」です。
6/5x10/9=60/54=27/25

・ピュタゴラスのアポトメー(2187/2048)
「完全五度7回で生まれる音程」で正しいですが、そこから4オクターブ差し引いた音程だと明示すべきと思います。
「完全五度7回(3/2の7乗=2187/128)と4オクターブ(1/2の4乗=1/16)の差の音程」です。
2187/128x1/16=2187/2048

・小リンマ(135/128)
「完全五度3回と一全音で生まれる音程」
これで計算してもピュタゴラス音律、純正律共に音階の通常の半音しか計算できません。
一般的には「完全五度3回(3/2の3乗=27/8)と純正律長三度(5/4)の和と、2オクターブ(1/2の2乗=1/4)の差の音程」です。
27/8x5/4x1/4=135/128

・ピュタゴラスのリンマ(256/243)
「下方完全五度5回で生まれる音程」で正しいですか、それと3オクターブの差であることを明示すべきと臣ます。
「下方完全五度5回(2/3の5乗=32/243)と3オクターブ(2/1の3乗=8/1)の差の音程」です。
32/243x8/1=256/243
・小クローマ(25/24)
「下方完全五度1回と2全音で生まれる音程」
この計算ではピュタゴラス音律、純正律共に半音のいずれかしか計算できません。
一般的には「純正律の小全音(10/9)と全音階的半音(15/16)の差の音程」です。
10/9x15/16=150/144=25/24

・大ディエシス(648/625)
「完全五度4回と4全音の差の音程」
全く計算できません。
一般的には「純正律短三度4回(6/5の4乗=1296/625)と1オクターブ(1/2)の差の音程」です。
1296/625x1/2=1296/1250=648/625

・小ディエシス(128/125)
「完全五度と3全音の差の音程」
これも全く計算できません。
一般的には「1オクターブ(2/1)と純正律長三度3回(4/5の3乗=64/125)の差の音程」です。
2/1x64/125=128/125

・ディアスキスマ(2048/2025)
「下方完全五度4回と2全音の差の音程」
これも全く計算できません。
一般的には「3オクターブ(2/1の3乗=8/1)と、完全五度4回(2/3の4乗=16/81)と純正律長三度2回(4/5の2乗=16/25)の和、の差の音程」です。
8/1x16/81x16/25=2048/2025

・クライスマ(15625/15552)
「下方完全五度5回と6全音と差の音程」
これも全く計算できません。
一般的には「1オクターブ(2/1)と完全五度(3/2)の和と、純正律短三度6回(5/6の6乗=15625/46656)の差の音程」です。
2/1x3/2x15625/46656=93750/93312=15625/15552

・スキスマ(32805/32768)
「完全五度8回と1全音で生まれる音程」
これも全く計算できません。
一般的には「完全五度8回(3/2の8乗=6561/256)と純正律長三度1回(5/4)の和と、5オクターブ(1/2の5乗=1/32)の差の音程」です。
6561/256x5/4x1/32=32805/32768

【誤記、誤植及び意味不明個所】
p.18 表内
滝廉太郎の没年 05 → 03

p.22 11行目
76 → 54 (文章的に健康診断による兵役免除からカウントするでしょうから76年後でなく54年後でしょう)

p.33 13行目とp.41 16行目
National → The National (theという定冠詞がついてないと、ワシントン・ナショナル交響楽団の正式名称ではありません)

p.35 1行目
「アルベルト(父)とアルフレッド(子)」
アインシュタインには「アルフレッド」という子供はいません。次ページの音楽学者「アルフレッド・
アインシュタイン」の話と混同してしまったのかもしれませんし、親子でもありません。

p.41 10行目
「不確定性理論」→「不確定性原理」(不確定性理論、という言い方はしません)

p.57 上部の対照表
X=24 → Z=24

p.71 上部の図
本文を読んでも図をみても、これのなにが「12音音列を説明した図」なのかわかる人はいないと思います。(せめて音列の1つとその逆行形の譜例が載っている方がよほどましです)

p.109 4行目
「リュカ数列は・・・これもフィボナッチ数列の一種で」
数学用語的には一般名称が「リュカ数列(または一般フィボナッチ数列)」で「フィボナッチ数(列)」がそちらに含まれる形になるので、これだと逆になります。

p.141 下部の「ピュタゴラス音律配分模擬図」
右端の2/4 → 9/4
2段目左端の2/3 → 9/8

p.148 注8
「リストがピアノ曲で多用するオクターヴ平行進行は、すべて許されないことになるが」と和声法における平行8度の禁止を破っているかのような記述がありますが、和声の平行8度の禁止は異なる声部の進行に関するもので、リストのピアノ曲にみられるようなオクターブ進行は同一声部のオクターブ進行にはあてはまらないため、この注の内容は不適切です。

p.161 10行目
ヒポリディ → ヒポリディア

p.167 12行目とp.168の譜例
「微分音的では真ん中の2音の音程はとても近接しています」と記述がありますが、ボエティウスのいう微分音的なテトラコルドでは、長3度とディエシス(1/4音)2つで構成されるので、譜例のような書き方では、第2音から第4音へがとてもせまいことが全くわかりませんし、「真ん中の2音の音程はとても近接しています」という記述を読まされても読者は理解できないと思います。可能なら1/4音程であることを譜例で示すべきです。

p.174 6行目
「ピュタゴラスは、紀元前682年頃から497年頃の」
これだと200歳近く生きてます。p.130に生年は前580年から前572年の間、没年は前500年から前490年の間、と記述してるのですから、そこと整合性をとるべきです。

p.176 6行目
「人間の音楽、については、後に図版を含めて改めて説明したいと思います」
この説明がどこにもありません。

p.188 下部の音階
火星 ファーソーラーシ♭ーラーソーファ 
→ ファーソーラーシ♭ードーシ♭ーラーソーファ
月  ドーレーミーファーミーレード 
→ ソーラーシードーシーラーソ
月の音階を読み間違っているため、後述のp.208, p.217の月の音階の楽譜も間違っています。

p.191 7行目
「(ハーシェルは)冥王星を発見しました。」 
→ 「天王星を発見しました。」

p.192 図版
これは「初版表紙」ではなく「第三版の表紙」です。初版は第1巻1819年、第2巻1821年出版で、この図版に使われているのは1855年出版の第三版です。

p.196 1行目
「画家マチィス」→「画家マティス」

p.208 譜例
上記で説明したように、月の音階はソラシドシラソです。

p.210 年表
デ・プレの生年 1400→1440
オケゲムの生没年 1400→1410 1495→1497
パレストリーナの没年 1495→1494
ラッススの没年 1495→1494

p.217 惑星音階の譜例
上記で説明したように、月の音階はソラシドシラソです。

p.229 10行目
2x2x2x2=64 
→ 2x2x2x2=16さらに2オクターブ下げて同じオクターブに納めるために2x2倍して64

p.235-237にかけて固有名詞の表記ばらつき
p.235 4行目 ヴィチェンティーノ
p.236 図版 ヴィチェンツィーノ
p.237 3行目 ヴィチェンチーノ
p.235 5行目 アルキチェンバロ
p.235 14行目 アルチチェンバロ
p.237 4行目 アルキチェンバロ

p.243 最終行
Wohltemperiertes Clavier
→ Der Wohltemperierte Clavier

p.244 1行目
temperiertes → temperierte

p.247 5行目
1.0589 → 1.0588
(直後に10.5882とあるように、四捨五入したら1.0588です)

p.277 下段の2
1839年 → 1838年 
(ベッセルによる年周視差の発見は1838年です)

p.277 下段の3
1859年 → 1828年 
(ヴェーラーによる尿素の合成は1828年です)

p.281 ヘルムホルツ関連年表内
年周視差発見 39 → 38
尿素合成成功 48 → 28
ジョプリンの没年 1945 → 1917

p.300 12行目
室内トーン → 室内音高

p.318 田中正平関連年表
田邊尚雄の生年 89 → 83
滝廉太郎の没年 05 → 03

p.326 下段5行目
26個 → 27個

p.329 注4
「現在の白米10kgを1500円とすると」
仮定自体がおかしい。そんなに安い白米は売ってないでしょうし、この倍はするでしょう。
実際、明治時代の風俗史などで当時の貨幣価値を現在と比定する場合、最低でも1円が7千円相当以上、多くは1万円前後としていますので、この注の関連費に関する主張は成り立ちません。

【構成上の問題】
・あいまいな表現で読み手がふりまわされる
例としてp.144でピュタゴラス音律の完全5度と純正律の完全五度を同時に鳴らすと0.75回のうなりでだれでも聞き分けられる、という記述。
p.158にはスキスマは半音の50分の1なので人間の耳に識別できる音程ではもはやありません、という記述。
(ちなみにこれは440hz付近では0.5hz程度の差になります)
p.247にはガリレイの上記の音程比の同名異音を同時に鳴らしても1秒間に約0.3回のうなりしか生じなく一般の人には聞き分けるのが難しい、という記述。
p.275には、実際上は0.3hzのうなりだとおそらく完全に異なる2音として聞こえる、との記述。
このように上記4カ所で微少なうなりや音程が聞き取れるのか聞き取れないのか、そのたびに反対の記述がでてくるわけで、読み手はどのように受け取ればいいのか全くわかりません。

・説明が前後しすぎて読みづらい
著者が分担しているせいか、参照箇所が前後にあちこちあってきわめて読みにくいです。
特に大きな問題に感じたのは、音程の説明がさまざま同じことの繰り返しが多く冗長性が高いことと、音程の説明に前半からセント値が何の説明もなく使われていて、後半のp.247になってから突然「セント値についてはこの章の後段で説明します」と出てくることです。そのうえ、その後のp.251でも詳細なセント値の説明はありません。音楽のことに詳しくない人にはセント値は何度もでてきてるのに全く理解するすべがこの本の中にないというのはきわめて不親切だと思います。

・参考文献一覧がない
せっかくこれほど広範囲の内容でさまざまな本からの情報をまとめた本なのに、この本で興味を持った人が、さらにアンテナを広げるためのすべがないのは大変残念です。わたしが今回、内容チェックしていても、元ネタにあたるのに大変苦労してしまいました。

【おわりに】
いろいろ書いてしまいましたが、決して難癖をつけたくてこのような長文を書いたわけではないことをご理解いただきたいと思います。わたし自身、原稿を何度も書いたことがありますし、一方、専門分野は違えど、人の文章をとりまとめたり、編集的な作業も何度もしたことがあります。
西原氏の「音楽家の社会史」は愛読してとても勉強になりましたし、だからこそ、今回この本が内容に間違いがあったり、編集の不備、誤植が多いのが残念なのです。正直なところ、えらい先生が自分でわかっていることをわかったように書いて、読み手は置いてけぼりという感も強くします。その部分を埋める、編集的作業がなされてないという感じが強くしました。勝手ないいぐさばかりでお気を悪くする点も多々あったかと思いますがご寛恕ください。愛読者としてはぜひ対処いただき、なんらかの改善がなされればと思い、不躾ながら長文を書かせていただきました。

ありがとうございます。


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