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デイヴィッド・マンロウCDライナーノーツ裏話

昨日は、デイヴィッド・マンロウの久しぶりのCD発売に伴い、デイヴィッド・マンロウとはどういう人だったか、そして発売されるCDの内容などを紹介しましたが、今日はちょっと砕けて、私の担当した部分に関してですが、裏話をしたいと思います。買っていただけた方にはより楽しめるかと。。。

お仕事がやってきた!

このCDの解説担当の話は、今回発売された他のタイトルの追加解説を執筆された方を通してワーナーの担当の方からいただいたのですが、最初、このお仕事の話をいただいたとき、なんで私?とは思いましたが、マンロウのCDに携われるだなんて、そりゃある程度の年寄り古楽好きには夢のようなところもあるわけで、ありがたいことなので引き受けました。

で、当初はGreensleeves to a GroundとThe Art of the Recorderの2つのアルバムのライナーノーツの翻訳をという形で依頼いただいたのでした。

40年前のライナーノーツは古い!

で、「グリーンスリーヴズ」と「リコーダーの芸術」のライナーノーツの原文を読んでみました。さらにLP時代の「グリーンスリーヴズ」の日本語解説も。
まず、「グリーンスリーヴズ」の曲目解説の英文は内容があまりに良くない。間違いも大量にあった。(20箇所以上)、、、これは困った、と頭を抱えてしまいました。。。LP盤の日本語解説が翻訳のようでいて微妙にそうでない理由もそこらへんにあるのかなぁと推測しつつ、どうしようかなと考えることに。

もう片方の「リコーダーの芸術」には、デイヴィッド・マンロウ自身による詳細な曲目解説に加えて、マンロウの師匠でもあり当時の古楽研究の第一人者、「リコーダーとその音楽」という現在でもリコーダーについて包括的に書いた代表的書籍の1つとされるものを著したエドガー・ハントによるリコーダーの歴史についての小文が付されているのでした。

でも、これもいくら碩学の手によるものとはいえ、40年前のものであるため、古楽や古楽器についての研究が進みつつある現在から見ればいささか古い。新たにわかっていることや見つかっていることもある。さらに、イギリスのCDであるためか、内容がすごくイギリス中心で、歴史的な事柄で出てくるのも王政復古とかクロムウェルとか、そしてリコーダーの普及や製作家についてもイギリスのことが主で、全体を描くという意味では極めてバランスが悪いし、翻訳してもきっと日本のリスナーや愛好家にはピンとこないんじゃないか、という感じ。

ってことで、一通り翻訳して、これだけの間違いや問題がある、というのをすべてコメントをつけたうえで、次のような提案をしました。

・「グリーンスリーヴズ」の曲目解説は、間違いが多いし、せっかくのリコーダーのアルバムなのに作曲家や作品に関わる部分でのリコーダーとの関わりの記述が薄いので、全面的に書き直す。

・「リコーダーの芸術」については、マンロウを記念したアルバムなので、マンロウによる曲目解説は残して翻訳するけれど、エドガー・ハントのリコーダーに関する小文は、新たなものを書きおろす。

なんだか大それた提案をしちゃったような気がしますが、本人は全く気にしてなかったり。。。
そして、あっさり認められてしまったり、、、
でも、これがすごく大変なことになるとは思わなかったのでした。。。

作業を始めて見たら確認することが多すぎる

提案したときはけっこう気楽だったけど調べはじめるとやたら大変なことに気づいたのでした。「グリーンスリーヴズ」の曲目解説は単に書いていけばよかったのかというと、それでも問題の曲が1つあった。

ペジブルの「4本のリコーダーのためのソナタ」。これはどう見てもペジブルのぢゃない。

そもそもペジブルはリコーダーのソロまたは2本のためのソナタはいくつも書いているけれど、こんな編成の曲があるなんてどこにも残ってない。でもたしかに一時期この曲はペジブルの曲として出版されているし、youtubeを検索してもそういった演奏しているアマチュアがいたりもする、、、どうすりゃいいのか。

でも違うにしても、じゃあ誰の作曲なのかどうやったらわかるのかがわからない。まぁ、逃げで「伝ペジブル」ってごまかすこともできるけど、できればそれも避けたい。
ってことで、ペジブルのソナタの校訂もしている、現代のリコーダー研究の第一人者のデヴィッド・ラソッキ博士に尋ねることにした。で、メールしたところ、なんとそれに関する論文があることを教えてくれた。さすがラソッキ博士!!

ってことで、その紹介してもらった論文と、そこで言及されている論文の2つを確認して、ほぼ、この作品はゴットフリート・フィンガー作曲らしいことがわかったのでした。
めでたしめでたし。。。

さて、「リコーダーの芸術」の方は、マンロウの解説は翻訳すればいいやと思ってたら、これまた様々な文献の引用や言及があって、その確認が一次文献や古い論文などばかりで追うのが大変。。。確認するのに時間がかかりすぎ。今はネットで多くの古い文献がオンラインで見られることがこんなにありがたいとは思わなかった。あとニューグローヴのような音楽辞典がオンラインにあることとかもね。それでも白状すると、古くてとうに廃刊になっている音楽雑誌については内容をどうしても確認できず、未確認のままそのまま翻訳して載せてしまいました、ごめんなさい。
あと、ある文献のタイトルの訳語が一般的なものと違うように訳してしまったことにもCD出てから気づいてしまった。。。これも、ごめんなさい!

エドガー・ハントの文章の代わりのリコーダーの歴史の小文は、これもどのようなバランスでどのような内容を書くかにはけっこう苦慮しましたが、実は腹案として最初からわがままを通したいと思っていたことがあった。

それは、リコーダーというとバロック時代まで、そしておまけとして20世紀以降の復興というイメージを破りたいということ。つまり、バロック時代以降の衰退期と現代、そして日本におけるリコーダーの受容に十分紙幅を割くこと、でした。

私の中では、今のリコーダーは古楽器としてだけでなく、現代音楽の楽器としての意味合いも十分あることを思えば、それをはっきり伝えたい、さらに日本でどのようにリコーダーが広まったかが論文以外ではほとんど見かけないのを、一般的な人たちが読めるところに書きたいという意欲があったからなのでした。

さて、執筆!

ってことで、こんな感じで翻訳、執筆したわけですが、実は最初は翻訳ということで仕事を受けて、途中で提案によって相当な割合が執筆になったにもかかわらず、分量について一切約束をしなかったのですww

「グリーンスリーヴズ」の曲目解説とデイヴィッド・マンロウの紹介文について、書いている時からやばい雰囲気は漂っていました。オリジナルの解説を翻訳したと想定したよりも6割増(当社比)みたいな感じになっていたから。。。

「リコーダーの芸術」の「リコーダーの小史」については、現代と日本におけるリコーダーについてちゃんと書こうと思っていたので、伸びる伸びる、文章の量も、書き終わるはずの期限も、、、、
最終的にリコーダーのバロック時代の盛期までと、衰退から現代までがほぼ半々というあまり見かけないバランスの文章になってしまったうえに、1万6千文字を超えていたのでした。多すぎるだろ!!

さらに、締め切りも最初の約束を破りに破り、担当さんの胃を痛めてしまうようなギリギリ感、スリルいっぱいなスケジュールになってしまいました。
ぶっちゃけて、CD発売延期するか、というギリギリまで引き伸ばしてしまいました。この場を借りて再度謝っておきます。

申し訳ありませんでした。

って、謝ったうえでいうのはなんなんですが、実は、こんなに締め切りをぶっちぎったうえに、初校ゲラで大量に赤入れ(ページあたり10箇所以上)した上に、さらに千文字近く原稿をあちこちに追加してしまい、DTP会社や校閲さんにもすっごい苦労をかけてしまいました。二校を見たら、その増量分を吸収するためにどれほどレイアウトを動かし、行の文字数までいじらなければならなかったかわかりましたから(そうしないと入らない)、、、(ほんとにごめんなさい)
なんか、謝ってばっかりやなww

そんなこんなで、最後には出張校正して校了してなんとか間に合ったのでした。(でも、昔、印刷会社まで行ってフィルムに校正したことがあるのに比べれば、と、自分を慰めました(って、ダメだろ!!

実は私はけっこう仕事が進むまで勝手に思い違いしてたのですよ。今回5タイトルCDが出る、そのうち2タイトルが自分が担当ってことは、他の3タイトルは他の人が解説を書くなり翻訳したりするのだろうな、、、と。。。

違ったんですね!!

他の3タイトルは基本、以前出ていた日本語版の解説を流用できて、私の担当した部分だけが、初の国内盤だから翻訳するにせよ執筆にするにせよ、ほとんどその作業してるのは私だけだったってことを気づいてなかったのよぉ!!

だから原稿を遅らせても、作業がずれてもすべて私一人だけ目立つわけよぉ!!!

他に締め切りを破ってくれる仲間はいなかったわけです(って、何を期待してたんだ、自分!!

そうして、11月9日発売でCDが無事発売され、みなさんのお手元に届いているわけです。

こんなドタバタしながらできあがったライナーノーツで拙い内容ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。もちろん、マンロウの演奏の方が幾万倍すばらしいので、そちらを聴いてくださいね!!

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