U76NER不在、プロリーグ

はじめに

東京大学で出会った彼は誰もが知る名門校の出身で
「欲のない寡黙な男」という印象だった。

それだけにBPLにエントリーしたことにも驚いたが、格上のMIKAMO選手に負けたのが「悔しくて眠れなかった」と語るほどの激情を内に秘めていたことに、私はとても驚いた───

U76NERはどこからやって来たのか

彼の生い立ち

1989年、東京都内にて誕生。
楽器は5歳からピアノを習っていたが中学受験のために辞めた。

はじめて音ゲーに触れたのは初代DDRを友人宅でプレイしたことがきっかけだった。幼いころからゲームや遊びは好きだったが音ゲー以外で友達に勝てた記憶はないという。

中高時代は主にドラムマニアをメイン機種としてプレイしていた。DistorteDでは既に十段だったがなかなか皆伝が取れず、その時期にプレイサイドを2Pに変更した。部活でスポーツもやっていたが、負けて悔しいと思うことはまるで無かったそうだ。

勉強で苦労することはなく、"十分狙えるレベルだったから"という理由で東京大学に現役で進学。大学に入った当時(DJT時代~)のU76NERは十段がぼちぼちという程度の腕前で、バンドサークルでU76NERと初めて出会った筆者にとってはむしろドラムマニア(とドラム)の腕前が印象的だった。
Resort Anthemくらいからビートマニアをメイン機種としてプレイするようになっていった。

遅咲きの天才

当時からNORIとは交友があったが、NORIとの実力差は非常に大きなものだった。
大学院進学や就職などのイベントもあったが1000クレには満たない程度の自分なりのペースでプレイを続けていた。1000クレに届いたSINOBUZの終了直前、2017年の冬に初めて穴冥AAAを達成した。

初めてNORIとの勝敗が五分五分になったのはHEROIC VERSEでのことだ。
コロナのロックダウンで外出が出来ない時期に家で猛練習をしていた。ロックダウン後、久々に1000クレを超えるプレイ回数になると、見違えるほど上達していたという。
その時はじめて自分のポテンシャルを満たすためにはそれまでの練習量では不十分だったと気づいたそうだ。

長年のビートマニアのプレイ、およびビートマニアを通じて得られた様々な経験や交友関係はいつしかU76NERにとって貴重な財産となっていた。
「音ゲー以外にここまで熱くなれたことはない。音ゲーは間違いなく自分のアイデンティティ。」と筆者に語ってくれた。

ちょうどそのタイミングで開催され、盟友NORIも出場していたBPLZEROの熱量に圧倒され、BPL出場を渇望するようになった。
同時期に地方公務員から転職をするなど、U76NERを取り巻くさまざまなピースが全て揃った上で、BPLへのエントリーを決めた。

BPLが発掘したプレイヤー

BPLへのエントリーを決めたU76NERは下記のnoteでも語っているように、BPL出場に全ての照準を合わせていった。プロになるため、U76NERがどのように自分を演出し、作り上げていったのかについてはこのnoteが詳しい。

U76NERとNORIとの違いは、何よりもその元々の知名度だろう。
NORIはBPL以前にもBPIの考案や動画などで実力に比べれば相応に知名度があったが、U76NERの名を初めて知ったのはほとんどの人がBPLを通してではないか。

U76NERはBPLがなければ世に出ることはなかった才能の1つだと言えよう。

BPLにおけるU76NERの活躍

ここではU76NERが出場した3年間のBPLにおける戦績を振り返る
BPL2021シーズン・・・10曲プレイし6勝4敗
BPLS2シーズン・・・12曲プレイし6勝6敗
BPLS3シーズン・・・8曲プレイし4勝4敗
全シーズンを通しての通算30曲16勝14敗と、五分五分以上の戦績を残している。

対戦相手の巡目ごとの対戦成績を見ても
対1巡目・・・8曲プレイし2勝6敗
対2巡目・・・2曲プレイし1勝1敗
対3巡目・・・10曲プレイし5勝5敗
対4巡目・・・10曲プレイし8勝2敗

と、4巡目相手には大きな取りこぼしなく勝ち越しており、格上相手にもしっかり計算できるプレイヤーであることが分かる。
(巡目は当該シーズンにおける指名順位)

これ以上の分析は本筋から外れるので割愛するが、彼本来の実力(自己ベスト)は全出場選手の真ん中よりもかなり下側だろうから、この戦績はすなわち彼の勝負強さを裏付けるものに他ならない。

出場ジャンルについてはもちろんソフランやスクラッチでの活躍が印象深いところだが、チャージやノーツなどでの出場歴もありつつ、引き分け以上の成果を残している。
ソフランやスクラッチに限らず、相手が嫌がる譜面(弱点)をとことんまでやり込み、実力差を覆して刺すところはまさに"勝利への執念の体現者"と言えるのではないだろうか。

U76NERの魅力

勝利への執念の体現者

冒頭にも書いたように、BPL2021で1巡目のMIKAMO選手相手に敗れたことを「悔しくて眠れなかった」と語るだけの負けん気の強さはプロとしての大きな魅力だ。この時は自選のPARANOIA MAX~DIRTY MIX~を磨き、本番では不本意なプレーだったようだがそれでも6点差に詰め寄っている。

BPLS3でもチームの進退を賭ける重要な局面で、大将戦スクラッチでのU*TAKAとの対戦となった。並の4巡目選手なら戦う前から心が折れるような局面ではないかと思うが、結果的に敗れはしたものの自選の雪上断火でBPI64(2969点)という会心のスコアを見せた。(相手のプレイがシーズンベストとなるBPI81(3014点)だったのが不運でもあった)

どれほど格上の選手でもワンチャンス通せるだけの自選を用意してくるというのは、口だけではなく本当の意味で"勝利への執念の体現者"だということが良く分かるエピソードだろう。
プレッシャーのかかった局面で、極限まで磨いた武器から繰り出される下剋上のロマンにこそ視聴者の希望が詰まっているのだ。

ビジネスパートナーとして

BPLは単にビートマニアが上手い人が活躍するだけの場ではなく、アーケードゲームひいてはゲームセンターという業界を盛り上げるためのビジネスパートナーとして相応しい人が活躍するべき場であると考える。

地方公務員やその後のエンジニアとしての精勤ぶりは彼がビジネスパートナーとして信頼に足る男だという一番の証拠だと思うが、音ゲーに関する世界でもドラムマニアのKACで実況解説を担当したことやべあー杯でも度々実況として登場していることなどもその補強材料になるだろう。U76NERは公の場に呼んでしゃべらせることに全く心配がいらないということだ。U76NERの元々の地頭の良さは会話のコントロールを見ても明らかだし、その時その場に応じた適切なトークを行うことが出来る。

何より、頭が良く慎重な性格なので、プロ選手として活動する上でくだらないトラブルで躓くことは彼の場合考えにくいように思う。

なぜU76NERは指名されなかったのか

BPLプロとしての魅力を持ちながらもS4では指名漏れとなったU76NER。なぜ指名漏れしたのかという点について触れないわけにはいかないだろう。

実力の不足

端的に言って実力面(自己ベスト)で、指名された選手に比べると見劣りするという点は事実だ。U76NERのRESIDENT時点の全一数は0で、例えば他に指名漏れとなったI6VV氏は5つの全一を保有していた。BPL出場時の勝敗では五分五分以上の戦績を残しているとはいえ、そもそも持つ実力面で必ず指名されるほどのものがあったかは残念ながら疑問が残る。
しかしここではあえて実力面以外での理由について考えてみたい。

プロ選手としての魅力の発信

ドラフト会議のパブリックビューイングが行われていた秋葉原レジャーランドではU76NERの指名漏れに多くの観客が悲しんだという。
その後レジャーランドの監督就任が決まった際にも多くのBPLファンがU76NERのレジャーランド復帰を喜んだ。U76NERといえばレジャーランドに欠かせない存在だと多くのBPLファンが認識しているし、指名漏れを多くの人々が悲しむということそのものが彼のプロ選手としての魅力の程を示しているだろう。

一方でチームRyu☆のMr.データとして、シルクハットメンバーとして、Tradzメンバーとして、チームは毎年変わりながらも”何か面白いことを見せてくれそう”というキャラ付けを確立できたNORIに比べると、U76NERは多くの視聴者に対しては仲良しレジャーランドの一員というキャラ付けしかできなかったのではないか、と私は懸念している。

チームを背負い自らのプロとしてのプライドをかけて本気でぶつかったときU76NERは人生で初めて悔しさを覚えたというと筆者の言いすぎだろうか。普段は無欲で寡黙な彼がそれほどまでに熱い気持ちをたぎらせて勝利への執念を体現する姿への期待やワクワクが私にはあるのだ。

その期待やワクワクをより多くのBPL視聴者に分かってほしいと思うし、U76NERももっと素直に自分の熱い気持ちを発信してほしいと思う。それがより多くのファンに愛されることに必ずつながるはずだ。

シーズン5に向けて

ドラフト後のある日のことだった。
U76NERに「今までお疲れ様でした」と声をかけたとき、「シーズン5に向けて俺はまだまだ諦めてないよ」と聞いて筆者は震えあがった。”遅咲きの天才”がこれ以上の本気を出したらどこまで徹底的にやるつもりなのか、と。
「まずはシーズン4の監督業が最優先だが、ドラフト漏れを機に0から自分のプレイを見直してシーズン5に臨みたい」とも話してくれた。

雪上断火についても今作(EPOLIS)では更に自己ベストを伸ばし、全一タイ(*投稿時点)までスコアを伸ばしてきたことが分かる。

U76NERはこれからも皆をワクワクさせてくれる男だと私は信じているし、BPLを通じて彼の知られざる一面をもっと知りたいと思っている。
U76NERには自らにたぎる熱い気持ちを、BPL内外を通じてもっとオープンにしてほしいと思う。その結果より多くのBPLファンが彼の魅力を発見し、もっと応援してくれることを願っている。

最後に、U76NERが捲土重来するためのBPLというステージが無事に続くことをただ祈るばかりなのだが、いちBPLファンとしてまずはBPLS4とレジャーランド監督としてのU76NERの成功を見守っていきたいと思う。

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