挿絵イラストの作業工程

ask.fmでこの件へのご質問が多かったのでまとめて記事を作ってみました。

振り返って今までで15年、100冊近く挿絵を担当させて頂いたような気がするので(冊数はこれくらい?というアバウトな数字です、自分でも把握出来てない申し訳ない)今までにかなりの経験値があるはずなのですが、改めて考えてみるとたいしたことやってないな〜と思います。あと、当然ながらあくまで私個人のやり方について書かれてることをご了承くださいませ。

1.小説のゲラが届く

出版社から依頼を受けてゲラが届くまでの期間は各自まちまちです。〆切までの期間も諸事情でまちまちだったりします。余裕がない場合は事前にプロットを頂いて気持ちの準備をしたりすることもあります。(例えばリーマン系かファンタジー系かでもわかってればそれ用に脳みそをモード切り替え出来ますね)ゲラが届く時には一緒に担当さんからの「指定書」も付属してます。イラストが入る位置の指定は編集さんの担当です。

まずはざっと読む

全体像を掴むために読者視点で読みます。見たい絵が浮かぶままの妄想モードです。ここではなるべく担当さんからのリクエストは頭に入れてないほうが望ましいです。

担当さんからの指定書を読む

これも出版社によって違いがあります。イラスト指定位置以外に、キャラ別の(小説内にある描写の)容姿まとめや表紙に関しての要望が書いてあるところもあります(だいたいはおまかせです)

それを元に詳細に読み込む

大事だなと思った箇所に線を引きながら読んでノートにまとめます(気分は受験生だね)。この作業、単に好きでやってるだけですが、いろいろ忘れっぽいので後々重要になってきます(「忘れてもいいようにノートに書くんだ」(インディ父))。

2.キャララフを出す

ここが一番の重要ポイントです。これが上手く行くと仕事の8割はすんだようなものです(シリーズ物になるとこれが省けるので、一時期ちょっと疲弊してたときシリーズ物以外をお断りしてたこともあります)。表紙イメージと連動させたいので表紙ラフとキャララフを兼ねたりすることも。

3.カラーラフを出す

表紙を先行することが多いですが、行程的には口絵も同時進行出来たほうがいいです(アナログ作業的にもラク)。口絵の入る位置については、ほとんどが担当さんから指定がありますが、私の要望があればそれでもokだったりイメージイラストの場合は完全にこちらの自由だったりするところもあります。

表紙は本の顔なので責任重大です。ここも重要ポイントですね(仕事の8割はこれでry)読者モードで妄想してたラインですんなり出ることもあれば難航することもあります。私の絵柄的にロングはほぼ却下になるので、バストアップ(て言ってもだいたい腿ラインなんだけどそれってなんていうんだろ)+攻め受けの絡み+目線、などなど縛りがあるとそもそも前描いたのと被らないようにするのにバリエーション尽きるよねぇえ〜とか唸りながら描きます。もっと冒険してもいいな〜と最近は思うようになりました。

表紙のポイントは内容とキャラクターを齟齬無くかつ魅力的に描写することかと思います。読書感想文や「この場面での筆者の意図を述べよ」系の解答に似てるなと感じることもあります。重要なのは筆者の本当の意図ではなく読者が受け取りたいと思ってるポイントを押さえることだ、というアレです。

もちろん、ここで自分がその「筆者」の立場になってしまうという罠があります。例えば「まばたきを三回」(著/凪良ゆう先生)という本の表紙で、キャラの特殊な設定を汲んで、絡んでるけどギリギリ触れ合わない(接触してるように見えるのはそれぞれの右手と左手だけ)というすごく微妙なラインを描きたかったのですが、見た方にそれが通じたかどうかはわかりません(今見たら自分でも微妙に伝わらないと思った)。また「ついの絆 -芝蘭の交わり-」(著/遠野春日先生)の表紙では二人がすれ違い様に紙片を手渡してる様子を描きましたが、見る立場だといかにも意味ありげでこの紙片に興味をひかれてしまうようです。これはあえて妄想ポイントを作って長い間目を留めて欲しいというこちらの勝手な要求でもあります。かつて三歩後ろをついて行くような内助の功キャラが成長して自立を始めた(対等になりうる)というイメージ表現みたいなもので、あまり理路整然とした説明があるわけではなかったりします。ゆえに好きに萌えシチュを妄想して欲しい(なんならこのお題で遠野先生に書いて欲しい的な)部分だったりします。「花嫁と誓いの薔薇 砂楼の花嫁2」(著/遠野春日先生)に関しては、やはりアラブものの萌えポイントであるカフィーヤと前巻の流れで二人の指輪が重要かなと思い描いた表紙です。手を取り合ってるほう、指輪交換のときっぽい手の表情をあえてしてます。あと背景にある温室、ハウステンボスにある建物です。旅行時に資料写真を撮るのってすごく重要ですね!

4.ラフの返事が来る

ちょっと横道にそれましたが、ラフを担当さんにお出しした後は向こう側でおそらく小説家さんやその他やり取りがあってその後お返事がきます。(まとめちゃいましたがキャララフや表紙ラフはそれぞれ出しては返事貰い、の別工程です)「バッチリです」のときはすごくホッとする瞬間です。もちろん「ここもう少しこういう風に」と言われて直して再提出もあります。基本的に小説家さんとの直接の接触は一切ありません。必ず担当さんを介在しますので、小説家さんが実際どう感じてらっしゃるかはブラックボックスです。これはそのほうが良いということでもあります。

5.実作業

ラフにokが出たらあとはもう描くだけです!だいぶ気が楽にはなりますが、問題はイメージ通りに仕上げることが出来るかです(カラー)。ここはいまだに自分でも試行錯誤してる部分でもあり、うまく出来ない〜とフラストレーション溜まる部分でもあります。作業的にはラフ→下絵作り→ペン入れ→水張り→下塗り→本塗り(色味決め)→仕上げです。最初にちゃんと完成イメージを持ってその通りになるよう実作業に入るのが一番いいのはわかってるんですが、そうは行かないときも多々あります。アナログの色塗りには奇跡の瞬間みたいなものがやってきて…、いやなんとなく直感でやってしまう悪いクセです。もちろん失敗してやり直しもすごくあるしそれをしたくないので今は塗れない!みたいな時間もあります。これをちゃんとコントロールするのがプロだろうな、と思いつつ、完全に手探りの自己流でやってきた弊害かなと思います。上手く行けば一日で仕上げられる時もあれば一週間かかるときもあり、別にたいして細かいモチーフや画面構成を描いたりするわけじゃないのに時間はどこへ消えるのでしょうね…。

本文イラストについては表紙や口絵と基本的には同じで、担当さんが指定をしたシーンを描くことになります。キャラが掴めていれば構図に悩むくらいで進められますが、このキャラを掴むってのが表紙から通じて一番難しいわけです。こちらも同じくラフを出してokの返事を貰ってペン入れです。ここで絵を描く作業に集中するあまり、その場面のキャラの服装や感情などがあやふやになったりしないよう(読者的には物語の進行の流れでイラストが目に入るということを忘れないこと)シーンごとに没頭するため適宜ゲラを読みに戻ったりノートのメモを見返したりが大事になります。ほんの0.数ミリの線の違いで表情ががらっと違っちゃうこともあるので結構気を使うポイントです。

そして、あとは時間との戦いが待っています。

6.提出

地方在住とアナログ原稿という二重苦で、原稿の発送も時間との戦いになると可能な限り最速の道を使用します。もう最近ではバイク便と航空便使うのが通常ルートになってしまいました…もっと余裕を見て作業したいとずーっと思ってます。担当さんやその他の方々も強くそう思っていることでしょう。デザイン出しの兼ね合いもあって、原稿を発送する前にスキャンしてデータを先にお送りすることもあります。でかいサイズが撮れるスキャナ欲しいです。あ、原稿サイズはノベルズや文庫の表紙カラーの場合、だいたいB4です。本文イラストはA4(同人用)サイズ。

まとめ

だらだら長文書いてしまう習性なので無駄に長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。質問にちゃんと答えられてるか若干不安です。書いてるうちにだいぶ赤裸々な部分が露呈してきたので思い直してはしょっている部分もあります。聞きたいのはそこじゃないという場合もあるかもしれません。また、もっと突っ込んで聞きたいと思われた箇所がありましたらコメントに書いて頂ければまた答えられる限り答えたいと思います。(アカウント作らないと書き込めないようなので面倒な方はaskかTwitterで)

基本的に挿絵仕事というのは小説家の方々が創造された作品を読者に届けるための演出のお手伝いだと思っているので、世界観なりキャラクターなりをちゃんと大事に表現出来るかどうかは毎回苦心する部分であります。力及ばずなんか違う、という場合もあるでしょう。それでも、苦労も多いけどやりがいのある楽しい仕事だと思ってます。

ちなみに挿絵のことやカラーの工程等、拙著「一滴」(イラスト集)のQ&Aにも書いてたりしますので、まだ未見の方はよろしければどうぞ!(宣伝)


おまけ

担当さんに提出するラフ例(チョイスに意味は無いです)。最近はデジタルでラフを描くこともあって、色つきのもあります。

「ついの絆 -芝蘭の交わり-」(著/遠野春日先生)表紙ラフ

「神さまには誓わない」(著/英田サキ先生)表紙ラフ

「暁に堕ちる星」(著/和泉桂先生)口絵ラフ


雑感

今までの経験上やり方めいたものが出来てるだけで、無意識やなんとなくやってることも多いです。それを理屈つけて言語化してるだけかもな〜と感じるに、こうして解説するのは非常に羞恥心わく行為ですが、自分の思考の整理になってたまにはいいかなと思いました。というか私が知りたいくらいです!>作業工程 人それぞれきっと違いがあるだろうし、スーパー絵師さんのスーパーテクとか、知りたいですね〜。

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