REM ――おやすみの宇宙―― まえがき:REMとかいう宇宙があるっぽい

 何ていうか、REMとかいう宇宙が、どうやら、たぶん、あるっぽいです。
 証拠? ないよ。
 だって、ないものはないんだもん……
 だから、REMとかいう宇宙は、あるっぽいけどないかもしんないってことで、いいよ。

 なんでこんないい加減な言い方をするかというと、REMとかいうところが、見たり触ったりできるゲンジツ世界の続きではないからです。いや、一応続きではあるんだけどね。だって、ゲンジツ世界の生き物の、脳の活動のせいで生じるのが、REM。……らしいから。

 そんな、あるんだかないんだかよくわからない宇宙ですが、たいていの人はREMへ行ったことがあるはずです。人だけでなく、脳を持ってる生き物なら、そして眠ることのある生き物なら、だいたいREMへ行ったことがあるものです。ないかもしれないけど。でも覚えてないだけってこともあるみたいだし。

 REMは果てのない広い宇宙で、無数に星が浮かんでいます。引力とか、物理の法則とかは、あるようでないです。なんとなく、あると思い込んでいるうちはあるけど、そんなものはちょっとした弾みにすぐブレます。
 翼がなくても気がついたら空を飛んでいることもあるし、水たまりに落ちたのになぜかちっとも汚れてなかったりします。
 付近に恒星もないのに、自分で光らない星が見えているのを、光源がないのに見えてるなんて物理的におかしいでしょ? と思ってしまう人もいますが、たいていの人は気にしません。気づくとか、考えるということが、普段の自分の思うとおりにならないのです。
 REMに浮かぶ星々は、魚の目玉かウミガメの卵みたいに、白っぽくて丸くてつるんとしているみたいです。 そんな星々の一つ一つを、何か物理的でない方法でぐるっと裏返しにすると、ゲンジツ世界の生き物の目玉になっている……と言い切れるものでもありませんが、そう考えると簡単なのでひとまずそうしておくのがいいでしょう。
 ただし、星をぐるっとめくって裏返しにする方法なんてものは永遠に不明です。

 一言でザックリ言ってしまうと、REMというのは夢の宇宙です。

 ピンポン玉みたいな星の群れには、その一つ一つに対応するゲンジツ世界の生き物がいるはず――そういう構造になってるんじゃないかな? とだいたい予想されます。
 REMに浮かぶ星が、何も生まれないまま化石になった恐竜の卵みたいにじっと黙り込んでいる時、その星に対応するゲンジツ世界の生き物は、目をパッチリ開いて起きているんだろうと思われます。
 そんな硬い星の表面に、卵の殻にヒビが入るように、ピシ…ピシ…と亀裂が生じたり、あるいはアイスクリームが溶けるように星の表面が潤い、ゆらぎ、波立ちはじめる時――その星の主は現実世界で眠りに落ちはじめています。
 やがて星の表面にできたひび割れから色のついた空気のようなものが吹き出し、あるいはとろけて落ちくぼんだ穴の底からこれまた様々に色のついた水のようなものが湧き出し、シューシュー、ドロドロ、どんどん出てきて、厚く星の表面を覆います。薄くしか覆わない時もあるけど。これらの空気や水のようなものは、星の主の持つゲンジツ世界での記憶やイメージを元にしながら様々に形を変えていきます。そして何やら風景みたいのになったり、物や人物が現れたりして、星の上に夢が展開されます。
 星の主の眠りが、夢も見ないほど深くなると……噴き出された夢の風景はそのまま凍りついて動かなくなります。

 だいたいこんな感じのが、REMとかいう宇宙らしいです。

 それで、このお話は、REMに棲んでいる夢魔の子が、適当に選んだ夢の星に着陸して、お絵かきして夢をいじって遊んだり、貘の放牧がてらお散歩したり、お昼寝したり……することになるっぽいです。たぶん。

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