月殿亭だより:Ⅱ

僕の敬愛する「書く人・物書き・cofumi」さんの、詩「砂浜」を読んで、以前に書いた詩を、返詩として受け取ってもらえるかもしれない、そんな思いで、公開しました。(コメントにかえて)

「精霊(せいれい)の海・鎮魂」

音のない海だった
はるかかなたの
水平線のうえで
海と空とがまじりあう
眠る海原のそのしたでは
海神(わたつみ)の鼓動さえもきこえない

あの日わたしは
航海の途上で
死者の通い路となる
海の道をわたってゆく
精霊たちをのせた
三本マストの帆船をみた

メインマストに
太陽の旗をひるがえした
幻の船はまるで
船幽霊のように突然
わたしの視界にはいってきた
音もなく気配もなく

そばにくるまで
その存在に気づかなかった
どの方角から
やってきたのかさえ
わからなかった

海面は
浮遊する精霊たちの
淡い光で明滅し
ふるえる精霊たちの
ざわめきで
うねりを増した

そのとき
わたしの目の奥に
戦いの海が
血に染まった海が
色鮮やかに浮かんだ

わたしは
海のうねりにのこされた
いくつもの足跡を
みのがさなかった
その足跡を見おろして
泣いている多くの顔とともに

やがて精霊たちが
水平線のむこうに沈むと
幻の船もまた
太陽の旗とともに
忘却の海に溶けた

と―
落日の
薔薇色の光が
あたりをつつみ
海の上に
三つの霊火があらわれた

それは静かに
ひとつずつ
天空へ昇っていった

戦慄の海から
帰還した
三つの魂が
ついに
このけがれのない
精霊の海で
安らぎをえたのだ