運用管理(Part1 生産管理) by 2019年度版 みんなが欲しかった!中小企業診断士の教科書 第3分冊

Chapter1 生産管理概論

Section1 生産管理の基礎

【1】生産管理の基本機能

生産管理とは、生産(設計・調達・作業)をQ(Quality:品質)、C(Cost:原価)、D(Delivery:数量および納期)の観点で管理することです。

①主な管理指標

(1)生産性

生産性は、投入量に対する産出量の比として表されます。

生産性=産出量(output)/投入量(input)
労働生産性=生産量(生産金額)/労働量(従業員数)
設備生産性=生産量(生産金額)/設備量(機械台数)
原材料生産性=生産量(生産金額)/原材料使用量(金額)

(2)PQCDSME

PQCDSMEは、生産管理の目標や評価の尺度に使用され、生産のテーマ(課題)を7つ取り上げ、その頭文字を並べたものです。

P⇒生産性:Productivity
Q⇒Quality:品質
C⇒Cost:原価
D⇒Delivery:数量および納期
S⇒安全性:Safety
M⇒モラル(意欲):Morale
E⇒環境性:Environment/Ecology

②設計・調達・作業

生産活動(機能)は、①設計、②調達、③作業の3つから構成されます。この生産活動を行うには、③の「生産の4M」が必要です。目標のQCDを達成するためには、4Mを効果的・効率的に(ムダなく、ムラなく、ムリなく)利用することが求められます。

なお「受注」「納品」の業務も生産に大きな影響を与えます。「受注」では、販売予測、売れ行きや店頭在庫の情報など、「納品」では、倉庫や配送などの物流システムなどが生産に影響を与えます。これらも生産活動の一部としてとらえると、①受注、②設計、③調達、④作業、⑤納品、の5つの機能としてみることができます。

受注⇒設計⇒調達⇒作業⇒納品 ・・・全体をQCD(品質、コスト、納期)で管理する
   ~~~~~~~~~~~~~~
   生産活動 ← 4M(Man,Machine,Material,Method)を効率よく使う

③生産の4M

生産の4Mとは、生産管理が対象とする4つの構成要素です。

1.Man(作業者)
2.Machine(機械設備)
3.Material(原材料・部品)
4.Method(作業方法)

④生産の合理化・改善、その他の用語

(1)3S

3Sとは、生産の合理化における基本原則の頭文字に由来します。

1.Simplification(単純化)
  製品や仕事の種類を減らして生産を簡略化すること
  ⇒生産効率を向上させられる
2.Standardization(標準化)
  単に種類を減らすだけではなく、一定の種類や方法を統一して標準的にするもの
   ・物(資材、部品、機械など)の標準化
   ・方法(作業、手続など)の標準化
  ⇒作業を簡単にしたり、原価を低減させたりできる

3.Specialization(専門化)
  機種や品種を限定したり、仕事を分担したりして専業化すること
  ⇒専門企業としての優位性を発揮できる

(2)5S

5Sは、整理、整頓、清掃、清潔、しつけ(躾)をローマ字表記した頭文字に由来する用語です。

1.整理(捨てる)
  必要なものと不必要なものを区別し、不必要なものを片付けること
2.整頓(一目でわかるようにする)
  必要なものを必要なときにすぐ使用できるように、決められた場所に準備しておくこと
3.清掃(きれいにする)
  必要なものに付いた異物を除去すること
4.清潔(整理・整頓・清掃を維持する)
  整理・整頓・清掃が繰り返され、汚れのない状態を維持していること
5.しつけ(躾:守る)
  決めたことを必ず守ること

(3)ECRSの原則(改善の原則)

ECRSとは、改善の4原則のことです。工程、作業、動作を対象とした分析に用い、改善に向け、排除(Eliminate)、結合(Conbine)、交換(Rearrange)、簡素化(Simplify)の順番で検討するのが一般的です。

1.E:Eliminate(排除)⇒なくせないか
2.C:Combine(結合)⇒一緒にできないか
3.R:Rearrange(交換)⇒順序の変更はできないか
4.S:Simplify(簡素化)⇒簡素化・単純化できないか

(4)5W1H

JISの定義では、5W1Hは「改善活動を行うときに用いられる、what(何を)、when(いつ)、who(だれが)、where(どこで)、why(なぜ)、how(どのようにして)による問いかけ JIS Z 8141-5304」となっています。

(5)自主管理活動

自主管理活動とは、職場における問題(作業方法や作業環境など)に、従業員が自主的に取り組む改善活動全般を指します。QCサークル活動やZD運動などがあります。

QC(Quality Control)サークル活動
 製品、サービス、仕事などの質の改善・管理を行うため、
 現場の従業員が継続的に取り組む小グループの活動のこと
ZD運動(Zero Defects movement)
 仕事の欠陥をなくす(ゼロ)ための活動のこと
 製品不良の撲滅、事故防止、製造原価の削減など、
 製造現場の様々な問題に対し、従業員が自発的に取り組み、
 創意工夫を発揮して解決を目指す

(6)安全衛生管理に関する指標

安全成績を示す代表的な尺度には、度数率、年千人率、強度率があります。度数率や年千人率は災害発生の頻度を表し、強度率は災害の重さを表します。

1.人/時間
 度数率=死傷者数×1,000,000/延べ実労働時間数
 ※労働時間100万時間あたりに発生する死傷者数で表す
2.人/人
 年千人率=年間死傷者数×1,000/平均労働者数
 ※労働者1,000人あたり1年間に発生する死傷者数で表す
3.日/時間
 強度率=延べ労働損失日数×1,000/延べ実労働時間数
 ※労働時間1,000時間あたりの労働損失日数で示す

(7)複数台もち作業

作業の流れの順に複数の工程(機械)を受けもつ「多工程もち作業」と、作業者が単に複数の機械を受けもつ「多台もち作業」の2つのタイプがあります。

1.多工程もち作業

多工程もち作業では、作業工程の流れの順に、作業者が複数の工程を受けもちます。工程の間に、作業を進めるスピードのバラツキを個人で調整することができるため、手待ち(作業者が仕事をできずに待つこと)や、仕掛品(作りかけの製品)を減らせます。さらに、多能工化が進むため、品種や生産量の変動に柔軟に対応できます。ただし、作業内容が幅広くなるため、習熟期間が必要になる場合もあります。

2.多台もち作業

多台もち作業では、同種の機械を複数台、受けもちます。受けもち台数を多くすると、作業者の稼働率は高くなる一方で、機械干渉が生じて機械の稼働率が低くなってしまうことがあります。そのため受けもち台数を設定する際は、作業者と機械の稼働率が最も高くなるように、台数を決めることが重要です。

(8)歩留り

投入された主原材料の量と、その主原材料から実際に算出された品物の量との比率です。収得率または収率ともいいます。

歩留り=産出された品物の量×100(%)/投入された主原材料の量

(9)直行率

出荷される製品のうち、生産工程で手直しを全くしないで完成した製品の比率のことです。「歩留り」は、最終的に出荷さえすれば、生産過程で不良が発生して手直しした製品も、手直しを必要としなかった製品も、区別しません。そのため直行率は、歩留りよりも厳格に生産過程の評価を行うことができます。

(10)その他の重要な生産管理の基礎用語

1.生産(製造)
  生産要素である素材など低い価値の経済財を投入して、
  より高い価値の財に変換する行為または活動 JIS Z 8141-1201
2.付加価値
  製品またはサービスの価値の中で、自己の企業活動の結果として、
  新たに付与された価値 JIS Z 8141-1112
3.リードタイム
  発注してから納入されるまでの時間。
  素材が準備されてから完成品になるまでの時間 JIS Z 8141-1206
4.生産リードタイム
  生産の着手時期から完了時期に至るまでの期間 JIS Z 8141-3304
5.稼働率
  人または機械における就業時間もしくは
  利用可能時間に対する有効稼働時間との比率 JIS Z 8141-1237
6.工数
  仕事量の全体を表す尺度で、
  仕事を1人の作業者で遂行するのに要する時間 JIS Z 8141-1227
7.負荷
  人または機械・設備に課せられる仕事量。
  時間、重量、工数などの単位で表される JIS Z 8141-1228

【2】生産形態

①受注生産と見込み生産

生産形態を、注文と生産開始のタイミングにより分類します。

(1)受注生産

注文を受けてから生産を開始する形態です。顧客の注文に応じて設計し、製造、出荷と進めます。ポイントは、受注時のコスト・納品の見積りの正確さと、生産リードタイムの短縮、そして受注の平準化です。注文の内容には、製品仕様(性能、品質、形状、色など)、数量、納期、納入場所などが含まれ、顧客がそのすべてまたは一部を決めることが多いです。

受注⇒設計⇒調達⇒作業⇒納品
   ~~~~

   ↑受注の都度、設計しないタイプもある(繰り返し受注生産などがある)
受注生産タイプの製造業の経営課題
 ●コスト・納期見積り精度の向上
 ●生産リードタイムの短縮
 ●受注の平準化

(2)見込生産

受注の前に生産し、在庫として保有し、顧客の注文に応じて販売する生産形態です。ポイントは、需要予測の正確さと柔軟な生産体制の確立です。顧客の需要を正確に予測し、それに対応できる製品の企画力や設計力をもって自社で仕様を決め、他社では作れない新製品開発により市場を開拓することが重要です。

需要予測⇒生産計画⇒生産⇒在庫⇒販売

見込み生産タイプの製造業の経営課題
 ●需要予測の精度の向上
 ●適正在庫量の維持
 ●柔軟な生産体制の確立(需要予測と生産計画の連動)

需要予測の精度は、以下のような場合に向上します。

1.計画対象期間(生産計画は何日分を単位とするか)が短い
  1か月分を予測するより、1日分の予測をするほうが、精度は高い
2.計画先行期間が短い
  3ヶ月先の1日分より、明日1日分の予測をするほうが、精度は高い

②個別生産・ロット生産・連続生産

どのくらいまとめて生産するかによる分類です。つまり1個ずつか、ロット(固まり)か、連続か、による分類と考えてよいでしょう。ポイントは、個別生産が最も生産効率が低く、連続生産が最も高くなるという点です。

(1)個別生産

注文に応じて、通常、1回限りの生産を行う形態です。そのため、設計・調達・作業の各機能で、正しくスムーズに進行できるかどうかで、コストが大きく影響されます。そうしたコストを正確に見積もれないと受注できなかったり、逆にコストが見積価格をオーバーしたりして、赤字になることもあります。

(2)連続生産

同じ製品を一定期間のあいだ、連続して生産する形態です。仕様が確定しており、設計変更も少ない製品を、次から次へと生産するのに適しています。個別生産の反義語ともいえます。

(3)ロット生産

ロット生産は、断続生産ともいい、個別生産と連続生産の中間的な生産形態です。このとき、何個ずつ生産するか、その単位をロットサイズといいます。また、ロットサイズを決める手続きのことを、ロットサイジングといいます。なお、生産する製品の切換えのたびに段取替えが発生します。

(4)段取替え

段取替えとは、次の作業にかかるための準備作業を指します。ロットサイズが小さくなればなるほど、段取替えの回数が増えるので、段取替え時間の短縮が重要となります。

内段取:機械(ライン)を停止して行う
外段取:機械(ライン)を停止しないで行う
シングル段取:機械の停止時間が10分未満の内段取のこと
※段取替え時間の短縮改善方法
  ●内段取そのものを短縮化する
  ●内段取を外段取化する

<ロットサイズと段取替えの関係>

●ロットサイズが大きい場合

段取替え回数が少なくてすむので、生産効率は向上します。しかし、大きなロットサイズを生産する分、生産リードタイムが長引いたり、仕掛け品や半完成品が増大しキャッシュフローが悪化したりという、デメリットもあります。

●ロットサイズが小さい場合

一度に生産する数が少ないため、生産リードタイムの短縮につながります。また、仕掛品の在庫も少なくなり、キャッシュフローが悪化しにくいというメリットがあります。しかし、段取替え回数が増えるため生産効率が低下し、同じ量の製品を作ろうとすると、ロットサイズが大きい時よりも総生産時間が長くなってしまうこともあります。

③多品種少量生産・少品種多量生産

製品種類の数と生産量により生産形態を分類します。

(1)多品種少量生産

多くの品種を少量ずつ生産する形態です。中小企業が最も多く採用している生産形態といわれており、中小企業ならではの小回り性を活かせる形態といえます。

1.製品の種類が多く、生産数量や納期、さらに加工順序が製品によってさまざまである
2.そのため、工場内でものの動きが複雑になるなど、生産に混乱が生じやすい
3.受注の変動により生産設備の能力の過不足が生じ、
  さらに受注製品の仕様・数量・納期の変更や短納期注文の発生、
  購入部品の納入遅れなどが起こりやすい
4.部品の共通化、標準化などにより、製品や加工順序の多様性を吸収する

(2)少品種多量生産

少ない種類の製品を大量に生産する形態です。ライン生産ともよばれます。需要予測をもとに大きな需要が期待できる場合などに、徹底して合理化した専用ラインで連続生産する方式です。

1.作業が単純化し、機械の専用化を進めやすいので、単能工や専門工で作業が行われる
2.品種の変化に伴う臨機応変な対応が困難である
3.作業者の間接作業が少ないので、生産性が高い
4.多品種少量生産に比べ仕掛品が少なくすみ、生産リードタイムが短い
5.作業が単調なため創意工夫を発揮しにくい
6.連続作業に伴う肉体的・精神的疲労など労務面での問題が起こりやすい

★ミニテスト

1.生産管理の目標や評価の尺度に使用されるPQCDSMEのMは、Methodのことである。

2.生産の4Mとは、Man、Machine、Material、Methodである。

3.受注生産では、正確な需要予測が求められる。

4.段取替えとは、次の作業にかかるための準備作業のことをいい、ロットサイズが小さくなるほど段取替えの回数は少なくなる。

5.多品種少量生産では、少品種多量生産と比べて生産リードタイムは短くなる。


★ミニテスト答え

1.×⇒Morale

2.〇

3.×⇒正確な需要予測が必要なのは、見込生産

4.×⇒ロットサイズが小さくなるほど段取替えの回数は増える

5.×⇒多品種少量生産と少品種多量生産が逆

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