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VPPビジネスの最前線 -調整力を事業化するための課題と可能性【エネルギーテック勉強会#3】1/3

2019年10月28日、dock-Kamiyachoにて第3回エネルギーテック勉強会が開催されました。株式会社シェアリングエネルギー株式会社エナーバンク(SEB, Sharing Energy Bank)が共同主催する「エネルギーテック勉強会」は、20兆円という巨大なエネルギー市場を、クリエイティビティとテクノロジーを駆使して、イノベーションの創出にチャレンジすることに関心の持つ人達のコミュニティです。業界の基礎知識、国内外のユースケース紹介、最新技術など、エネルギーテックの全体像の理解と最前線の情報の共有に重きを置き、お互いの知見をシェアしあう双方向的なコミュニティを志向しています。第3回は「VPPビジネスの最前線 -調整力を事業化するための課題と可能性」と題して、前半のキーノートスピーチはソーラーエッジテクノロジーのアラン・コラーさんより海外でのVPPビジネスのユースケースをご紹介いただき、後半のパネルディスカッションでは関西電力の石田さん、LO3 Energyの大串さん、MCリテールエナジーの小野寺さんをお招きして、VPPビジネスの国内でのポテンシャルについて議論します。
<スポンサー紹介>
会場提供:Creww株式会社、懇親会提供:エネルギーテックニュースアプリEnergyshift(エネルギーシフト)、後援:EnergyLab Japan

登壇者情報

石田さん

石田 文章 Fumiaki Ishida|関西電力株式会社 研究開発室 技術研究所
エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)主幹

1986年3月東京大学工学部電気工学科卒業。同年4月関西電力に入社。主に、送変電設備の計画、系統解析業務に従事。以降、2003年6月研究開発室研究企画グループマネジャー、2007年 6月秘書室マネジャー、2009年6月NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)新エネルギー部統括研究員出向、2012年6月地域エネルギー本部担当部長でのスマートグリッド、スマートコミュニティ、水素発電、VPP等の戦略策定の従事を経て、2017年6月より現職。現在は、家庭用分野でのエネルギー利用技術やブロックチェーン技術の環境・エネルギー活用に携わる。専門分野は、電力システム解析、再生可能エネルギー技術、スマートグリッド技術、ブロックチェーン技術。2016年4月~ 大阪大学招聘教授。


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大串 康彦 Yasuhiko Ogushi|LO3 Energy Inc. 事業開発ディレクター(日本担当)

プラント会社にて廃棄物処理プラントおよび燃料電池発電システムの開発、海外の電力会社にてスマートグリッドの事業企画、外資系事業会社にて燃料電池発電システム、系統用蓄電システムの事業開発などを経験。現職では京セラとパートナーを組みブロックチェーン技術を用いVPPシステムの高度化に取り組んでいる。前職は、米国PJM調整力市場や英国Enhanced Frequency Responseなどに参画した英国RES社の日本法人RESジャパン株式会社でEnergy Storage事業開発ディレクターを勤めた。


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小野寺 伸 Shin Onodera|MCリテールエナジー株式会社 新規事業部部長代行 兼 第一チームリーダー

システム開発会社にて経営戦略室長を経験後、2011年から株式会社エナリスにて、 豊田市のスマートグリッド実証実験にサービス企画・ システム開発担当として参画。また自社サービスである行動誘導型デマンドレスポンスを可能にするESQORTサービスのプロジェクト統括やHEMS/MEMSの開発を担当。その後、渉外企画課長として、経産省の制度設計等に関わる委員を歴任。2016年からはヴァーチャルパワープラント補助事業の企画責任者として、VPP事業の立ち上げやコンソーシアムの組成を経験。現在はMCリテールエナジー株式会社にて新規事業グループに在籍し、料金メニューの開発やVPP等新規事業の企画開発を担当している。


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井口 和宏 Kazuhiro Iguchi|株式会社シェアリングエネルギー 事業開発室長

慶應義塾大学SFC卒業後、非営利組織のコンサルティング業務を経て、2010年株式会社アイアンドシー・クルーズに入社。日本最大のプロパンガス比較・切替サービス「enepi」や、新電力会社の立ち上げなど、主にエネルギー領域における新規事業開発に従事。その後、出資先であるシェアリングエネルギー社の設立に携わり、現職。分散電源のプラットフォーマーを志向する同社の事業開発を推進している。


後半:パネルディスカッション

シェアリングエネルギー 井口(以下、井口):シェアリングエネルギーの井口と申します。今日はご多用の中たくさんの方にお越し頂きまして、誠にありがとうございます。それでは、早速パネリストの方々をお呼びしたいと思います。関西電力の石田さん、LO3 Energyの大串さん、MCリテールエナジーの小野寺さんです。よろしくお願いします。

本日のパネルディスカッションは、全体で1時間を想定していまして、流れとしては、パネリストのご紹介、VPPビジネスの基礎理解、パネルディスカッションと、会場の皆さんとのQ&A、という4本構成で進めていきたいと思います。

それでは、まずは関西電力の石田さん、ご自身や所属会社のVPPに関するご経験を交えながら、ご紹介をお願いします。


自己紹介 - 関西電力 石田様


関西電力 石田さん(以下、石田):関西電力の石田と申します。関西電力自体はお騒がせしていますけども、そこは飛ばしてお話しします。

関西電力はアグリゲーションコーディネーターとしてVPP実証事業をやっているし、調整力公募では、電源I’で実際のビジネスとしてTSOからお金をもらっていますので、調整力ビジネスは既に進めています。

また現在、私は関西電力の研究所で、ブロックチェーン技術を用いた電力P2P取引を追いかけているのですけども、その前は関西電力の中でVPPビジネスを立ち上げたのと、VPP実証の最初の2年ちょっとを、PJリーダーとして社外の企業とフォーメーションを組んで推進していました。

VPPビジネスに関して、当初何を考えていたのか、実際今何をやっているのか、そしてこれから何をやっていくのかということを紹介したいと思います。

(P. 1)この図はVPPを表している図なんですけれども、関西電力の中でVPPを始める時に役員に説明した資料です。いろんなところでよく使われていまして、オリジナルは私だと思っています。

要は、アグリゲーターは需要家側のリソースをアグリゲートして、小売電気事業者さん、系統運用者さん、再生可能エネルギー発電事業者さんにサービスを提供していくと。合わせて、当然のことながら、需要家・コミュニティに対してもサービスを提供していく。そういった「持っている人」と「必要としている人」を結びつけるビジネスだと。

(P. 2)それに基づいてコンソーシアムを組んで大々的にやりました。これは4年目、2019年度の概要なんですけれども、我々が考えたのが、家庭用だろうが業務・産業用だろうが、すべてのセグメントをフルラインナップでフルスイングでリソースを取りに行こう、という形で始めました。一部抜けているところもあるんですけれども、セグメントすべてに対して関与していこう、というのが主軸です。

(P. 3)色々な会社さんがありますけれども、大企業からベンチャーまで色んなところと手を組んでいこうと。進め方なんですけれども、これ実は私が考えたんですけれども、構造、アーキテクチャと言っても良いかもしれません。今はアグリゲーションコーディネーターと呼ばれていますけれども、当初は我々は親アグリゲーターと呼んでいたんですけれども、親アグリに子供に色んなリソースをぶら下げようと。これは原理的に言うと、この子供にいくらくっつけても大丈夫、という形で、色んなメーカーさんを中心にぶら下げていったという形です。

関西電力 石田様

この構造の何が良いかと言うと、まずたくさん繋がることができるということと、もう1つは1人1人のリソースアグリゲーターに、VPPの付加価値がつくということがあります。リソースアグリゲーター側は、製品を売ることができてVPP実証に参加して頂けますし、親アグリはリソースの規模が増え、VPPの規模が拡大するということで、良い関係になったと思います。

(P. 4)現状では、定格なのであまり大きくないですけれども、だいたい78,000kW(78MW)程度で集まっています。ちょっと重要なところとしては、(左端を指して)ここに「Ia」と書いてありますけれども、高速のところは別実証をやっていまして、他の全体は「Ib」中速で動くものです。もう1つありまして、K-VIPsと言うシステムで遅い成果も動かしています。これは調整力公募I’向けのシステムです。

(P. 5)なので、関西電力としては、実は3つのシステム、Ia用の高速対応のシステムとⅠb用の中速対応のシステム、I’用の低速対応のシステムが、別々に並行して動いているということになります。

特にIa、Ibについては資源エネルギー庁さんのVPP構築実証のお金を半分もらってやっていますし、Ⅰ’の方では自前のお金で実装して実際にビジネスを既に行っているという感じです。

将来的には、Ia、Ibが需給調整市場に変わりますので、速い方は一次と二次の①、中速のものは二次の②と三次の②あたりをターゲットにやっていますし、I’については容量市場にターゲットを置いていこうと。そういった形で、フルラインナップで全部取っていこうという形を考えている次第です。

(P. 6)で、冒頭で示しましたけれども、当初はこのように考えたのですが、なかなか全部のところをステークホルダーから収益を上げることは難しいということが、色々進むにつれて分かってきました。

まず小売事業者向けに携帯DRという形で、電源の代わりにDRをあげたり、インバランスが発生している時であればDRで供給したりすることは、エネルギー市場そのものの価格が低くなっているということと、インバランス価格自体がそんなに高くなっていないということもありまして、ビジネスとして成り立ちにくいということが分かってきました。

もう1つ、再エネの発電事業者向けの抑制された時に、上げDRで抑制を回避するというビジネススキームを考えていたのですが、これも調整力市場に統合される形になってしまいましたので、相対契約が難しいということです。残るは系統運用者向けの調整力か、TSO(送電事業者)ではなしにDSO(配電事業者)向けに電力品質維持を提供する、そんな形が残されています。もちろん需要家さん向けには、省エネ・省コスト・省CO2で、遠隔で制御するということは可能ですので、それは残されている。

そんな形で、将来的には、系統運用者向けの調整力を中心にビジネスを展開していくのかなと。合わせて、お客様向けに、電気コストの低減等を行っていくのかなと考えています。

(P. 7)現状はこういった形でして、我々として将来的にどうなっていくかというところでいくと、低速・中速・高速とそれぞれあるんですけれども、これらを統合していく。

先ほども言いましたが、今ターゲットにしていない配電事業者向けの過電圧とか過負荷解消と言ったことも考えていかなければならない。

それと、今はネガワットばかりやっているのですが、当然ポジワットもやっていかなければならないと思っています。

あとは、グリッド側の話ですけれども、オフグリッド・マイグログリッドでのサービスも考えていかなければならない。

最後、ブロックチェーンを使ったP2P取引は並行して関西電力はやっているのですが、これとVPPビジネスは将来的には融合していかなければならないので、ブロックチェーン技術を活用して、何らかのビジネスをやっていかないとね、と考えています。

少し長くなりましたが、以上です。


井口:石田さん、ありがとうございます。情報が盛りだくさんのお話でしたね。特に、アグリゲーターのサービスイメージ(現状)の部分は、ご経験に基づいた示唆深いお話だったのではないかと思います。

では、次はLO3 Energyの大串さん、ご紹介をお願いします。


自己紹介 - LO3 Energy 大串様

LO3 Energy 大串様

LO3 Energy 大串さん(以下、大串):皆さんこんばんは、LO3 Energyの大串と申します。LO3 Energyという名前をあまり聞かれたことがないのではと思いますが、アメリカにある会社で、2012年に創業し、2015年に法人化したスタートアップです。何をやっているかと言いますと、マーケットプレイスのソリューションを提供しています。別の言い方で言いますと、電力取引のプラットフォームですね。VPPそのものはまだやっていないのですれども、将来的にはVPPの参入を目指している、といったポジションです。

という訳で今日は、私は、ここのパネルのお二方と違ってまだVPPの参入をしていないのですが、VPPの参入を考えているベンダーの立場でお話をさせて頂きたいと思っています。

私は前職で系統用の蓄電池の事業開発をしてきまして、米国のPJM、英国のナショナルグリッド等に調整力を提供する会社にいましたので、そういった経験も元にお話できればと思っています。

LO3 Energyについて簡単に紹介させて頂きます。

(P. 1)我々がやろうとしていることについてですが、これから分散型エネルギーリソースというものが大量に増えていくと思うのですが、そういった世界の中で、情報基盤、そして取引基盤というものを提供しようとしています。

これを少し具体的に言いますと、ちょっと簡単な図を描いてみたのですが、今までの電力システムはこんな感じかなと思いまして。

(P. 2〜3)左側に電力会社がいて、右側に顧客がいます。この取引というのは単純で、電力に関しては、電力会社が顧客に供給します。また、調整力というものはありましたが、これは電力会社の内部で調達していました。

一方で、電力小売の完全自由化や、今後発送電分離、各種市場の整備が起こってくると、雑な図で申し訳ないのですけど、こうなっていくのかなと思います。

(P. 4)今までと違ったところは、発電などのプレイヤーが増える、市場ができる、顧客側の変化としては蓄電池や電気自動車などのDERが増えて、これらが電力システムの運営に関わってくるということかと思います。

(P. 5)取引的には新しい流れがいくつかできまして、1つは今日のテーマであるVPPです。これはアグリゲーターを介して顧客の中にあるDERが持つ能力を、調整力市場やその他左側の人たちに提供していくというものです。

我々はもう1つあると思っていまして、この顧客の中のやりとりですね、またはコミュニティの中ので融通し合う、これをローカル市場と呼んでいるんですけれども、こういったやりとりも発生してくるのではないかなと思っています。

(P. 6)今申し上げたことを簡単な表にまとめると、こういうことかなと思います。全部は読みませんが、非常に取引が多様化、複雑化してくるということだと思います。

我々の論点としては、こういった分散型エネルギーが普及して、かつ取引が多様化、複雑化した世界の中で、どういったエネルギー情報基盤や取引情報基盤が必要なのか?これに対応するために、我々は取り組みを行っています。

ちょっと前のスライドに戻りますが、2つ新しい取引形態と書きましたが、我々は左側のVPP(アグリゲーター)ではなく、右側のローカル市場から入りました。

(P. 7)我々最初に、2016年にブルックリン・マイクログリッドというプロジェクトを始めまして、これはニューヨークのブルックリンの一角で、そこの需要家同士をローカルに、太陽光をローカルでクリーンな電気をやりとりできたらいいな、と始めたプロジェクトです。

その後、ドイツ、オーストラリア、日本等でも実証実験をいくつか行いまして、いろんなアイディアの検証をして、今までソリューションとして商品化をしてきました。このローカル市場のソリューションで、名前はPando(パンド)と言います。その他、米国のDirect Energyという会社と「クオンタム」という法人顧客が電力調達をするときに用いるマイクロヘッジングシステムを作ったり、将来は電力だけでなく、電力データの取引基盤が必要になることを見込んで、Exergyという電力データ取引システムを開発中です。

今、VPPはやっていないと申し上げたのですが、近い将来、ローカルエネルギー市場のPandoを基盤として、VPP的なフレキシビリティの取引ですとか、系統の運用の応用に利用できる基盤を作ります。

(P. 8)ちょっとこれはVPPではないのですが、イメージだけ。プラットフォームはこういうもので、ここに需要家ですとか、太陽光とかDERを持っているプロシューマーが参加して取引できるというものです。

我々はこれを小売電気事業者さんに提供して、小売電気事業者さんにとっても価値あるものにしようとしています。

以上、LO3 Energy 大串でした。


井口:大串さん、ありがとうございます。ローカルエネルギー市場のお話、とても面白い着眼点だと思います。LO3 EnergyはP2P電力取引が有名ですけれど、今後VPPも取り組んでいかれるということで、今後の展開が非常に気になるところですね。

では、最後にMCリテールエナジーの小野寺さん、お願いします。

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