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大人になるまで「和民」は高級ご飯屋さんだと思っていた。

私は都会生まれの都会育ち。遠藤家はお金持ちでもなければ明日のご飯に困るほどの貧乏をしたこともない。

うちは珍しいシングルファザー家庭なので、当然父の両親、つまり私からすると
祖母・祖父によく面倒を見てもらっていました。

天然ボケだけど趣味が多く、80越えても目黒駅まで長く続くあの権之助坂を電動なしのチャリンコで爆走してのぼったり、いまだに社交ダンスをしているバイタリティあふれるおじいちゃん。若い人が使うようなガジェットにも興味津々で、数年前iPhoneを購入したそうですが、画面を集中して見すぎて酔ってゲロ吐いたと言ってました。
パソコンも何年もかけてずっと挑戦していて「ダンス友達から音源の編集を頼まれてさ」と、ダンスサークルに所属しているパリピ系大学生が使っていてもおかしくないセリフを、つい最近までちょいドヤ顔でぼやいていました。
アウトドア派かと思いきや古書を集めるのも好きで、おばあちゃんと共同の本棚には年季の入った本がずらっと並んでいます。
お金の使い方に関しては、典型的な「深夜番組でいいなと思った健康器具をノリでポチって数回使っただけで物置に放置する」タイプ。スマホの料金がやたら高いので内訳をチェックしたところ、全く使っていない謎のサブスクに多数入ってて、毎月えらい金額を搾取されまくっていました(流石にそれは我々の手によって解約済み)。
あまり節約志向は高くないようです。
そういえばまだガラケーだった時代に携帯でやるオセロゲームにハマったらしいのですが、オセロをひっくり返すたびにページが更新されていて通信料が嵩み、
俗に言う「パケ死」をしたことがあるそうです。おばあちゃんには内緒だそうです。
ただ人生を楽しむために、いいと思ったものにはお金を払う!男気のある(?)
大好きなおじいちゃんです。

色が白くて手に全然シワがない若々しいおばあちゃん。
おばあちゃんもおじいちゃんに負けじと多趣味で、若いころから読書・書道・着物・茶道・猫などを楽しみ、おばあちゃんになってからも英語の勉強を始めて洋書を読んだりヨーロッパ旅行に行ったりしていました。数年前からシャンソンを習い始めたようで、家でもよく歌っています。おばあちゃんは歌が上手です。
毎朝掃除機をかけ、出かける予定がなくてもお化粧をし、おじいちゃんと火の粉が散るようなケンカをした翌日でもかならず二人分の朝食を準備します。
おばあちゃんはずっと小学校の先生だったので、私が3歳くらいの頃から日本語を教えてくれました。(私の幼少期がブスすぎたためこの子には勉強を頑張らせようと思ったと言っていました。)おかげでこれくらいの長文が難なくかけるくらいの日本語力が育ちました。小学生の時に歯の矯正もさせてくれました。感謝してもしきれません。
多趣味なので散財気味かと思いきや、お金の使い方にはメリハリが効いていて、小学校教師の傍で株を運用していたそうです。またおせんべい一枚を家族4人で分け合うくらいケチな一面もあり、節約するときはとことんして、使うときはパーッと綺麗に使う。そんな素敵なおばあちゃんです。


あまりにもおじいちゃんおばあちゃんにフォーカスしてしまったため、
もしかして・・と嫌な予感をした方もいらっしゃるかもしれませんが

現在二人ともとても元気です。

特におじいちゃんは薬を85歳を過ぎても1種類も飲んでいないみたいです。すごい。

こんな風に贅沢三昧も、異常にケチケチもせず
工夫して非常に人生を楽しんでいる二人。


そんな二人に長年騙されていたことがありました。

そう。「和民」についてです。

うちは
おじいちゃん、おばあちゃん、父、私の誕生日祝いをするのが恒例でした。
おじいちゃんと私はともに7月生まれで誕生日が近く、合同という形を取られていたため、年に3回お誕生日会を開きます。
そのお誕生日会が開催されていたのが何を隠そう
あの大手居酒屋チェーン店「和民」なのです。

私が小・中学生の頃の遠藤家の晩御飯は毎日おばあちゃんの手作りご飯でした。
外食するのは、誰かの誕生日である年3回のみ。
おばあちゃんのご飯も好きだったけど、もうとにかく和民ってすごいんですよ。
サラダも、揚げ物も、焼きそばも、焼き魚も、だし巻き卵も、焼き鳥も、お刺身も、ジュースも、デザートも、もうなーーーーーんでもあるんです。
食のテーマパークなんです。
食べ物だけじゃない。お店に入ると店員さんが笑顔でお出迎えしてくれて、なんと席まで連れていってくれるんです。
座るとおしぼりなんて渡してくれちゃって、お姫様になった気分です。
テーブルに置いてあるメニューを開くと一面の料理の写真。全部が美味しそうでなかなか決められません(なぜかおじいちゃんだけ毎回、秒でホッケとイモ餅を注文していた)。みんなで、今日はこれにしようか、前に来た時にあれが美味しかったからまた頼もう。とかワイワイ言いながら和民での誕生会を楽しみました。
お腹がいっぱいになり、お会計が済むと「次はおばあちゃんの誕生日の時だね」とか言いながら仲良く4人で帰路についたのでした。

和民での時間は私にとって特別な時間でした。
そして、年に3回という希少性。みんなの「おいしいおいしい」という満足げな顔。そして誰かの誕生日という奮発タイミング。

私は完全に「和民は特別な時にしか来られない、高級レストランなんだ」と信じ込んでいました。そのうちだんだん父が体調を崩したり私のバイトが忙しくなって、和民誕生会も開かれなくなって行きました。そして和民のこともほとんど思い出さなくなり、気がつけば高校を卒業する時期になっていました。


和民が割とリーズナブルな大衆居酒屋だと知ったのは二十歳になる前あたりだったと思います。詳細は覚えていませんが、結構大人になっていた気がします。

別に勘違いしていた恥ずかしさもなく、幻想が崩れ去ったショックもなく、

「あ、そうだったんだ」

という感じで、割とあっさりとした感想でした。

上に「おじいちゃんおばあちゃんに騙されていた」なんて人聞きの悪いこと書いてしまいましたが、
和民がそんなに高くないチェーン店なのに、子供だった私をあれだけ高揚させて「ここは高級レストランなんだ」と思い込むことができたのは、
他でもなく、二人が和民を心から楽しんでいたからなんだと思いました。

お金がたくさんあるわけでもなく、かといって全然ないわけでもない。
和民に年に3回以上行こうと思えば行けたんだと思うけど、
あえて誰かの誕生日の時だけ、と制約することによって、特別感を演出し
大人も子供も楽しむ。
めちゃくちゃ高コスパ。
やっぱりうちのおじいちゃん、特におばあちゃんはお金の使い方、人生の楽しみ方上手すぎいぃぃぃぃと唸った出来事でした。

また家族で和民いきたいなぁ。




(実際祖父祖母はここまで考えて誕生日会に和民を選んでいたかは不明。)




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