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【連載小説】一途な気持ち 11話 弟の心情

#一途な気持ち

 今日はとても天気がいいので仕事もはかどった。ミニトマトのビニールハウスのなかは、暑すぎるから曇りのほうが仕事をしやすい。

 今日も午後1時から母親とじいちゃん、ばあちゃん、俺で父の面会にいく。たまには弟も一緒に連れていかないと。多分、母が弟に父が脳出血で入院していることは知っているはずだ。あいつはきっと1人では面会には行かないだろう。俺とは違って内気なやつだから。

 親父は俺達が行ってもいつも寝ているから、無理に起こすのも悪いから話しもせずに帰って来ている。俺は弟に電話をしたがでない、仕事中かな。

 親父とはいつも話せないが、普段の様子を看護師から聞いている。安定しているときもあれば、不安定なときもあるという。

 少しして弟から電話がかかってきた。
「もしもし」
『ああ、兄貴。どうした?』
 弟は1人暮らしを市内でしている。彼は親父と仲が悪い。でも、親父がこんな状態になってるんだから、面会くらい行って残り少ない親父の命を生きている間に見て欲しい、という旨の話をした。弟は、
『親父、そんなに悪いのか……。面会、行ってやるか……」』
「そうしてやってくれ。寝ていて話せないかもしれないが、看護師からお前が来ていた、と言ってもらおう」
『そうだな』
 弟は親父の状態を聞いたせいか、元気がなくなった。まあ、仕方ない。
「迎えに行くから用意して待っていてくれ」
『わかった、お迎え、悪いな』
「いいや、それはいいんだ」
 電話はそれで切った。

 母親はメイクをしていて少し時間がかかる。俺は、
「面会に行くだけだから、サッとで終わらせてくれよ。仕事も残ってるし」
 そう伝えると母親は、
「わかってるよ」
 ちょっと不快だったのか、言い方が雑だった。まあいい。本当のことだ。
 俺はハウスに行くことにした。
「準備ができたら呼んでくれ」
 そう母親に言った。
「わかったよ」
 と返事をした。

 母親のメイクや着替えは意外と早く、15分くらいで呼ばれた。じいちゃんとばあちゃんも着替えは済んでいるようだ。ばあちゃんは言った。
ただし、だいじょうぶかのう……」
 実はばあちゃんには余命3ヶ月という話しはしていない。母親の配慮で言わないことにしている。息子を亡くす話しは気の弱いばあちゃんにはあまりにも酷だろうということで。じいちゃんにも言っていない。じいちゃんは気は強いが、言ってしまったらばあちゃんにも伝わってしまうだろうということで内緒にしている。

                             つづく……

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