不公平

死と出会い 3話 不公平

親友のいない学校生活が始まった。同じく親友の愛理も悲しみに打ちひしがれている様子。

#死と出会い #生きなきゃ #不公平 #不公平 #心の炎

 雄二のいない学校生活が始まった。まるで、抜け殻のような気分だ。

 僕は、朝のホームルームが始まる前に同じクラスの愛理のところに来た。そして、
「おはよう。愛理」
「あ、秀一、おはよー」
「今日から雄二のいない学校が始まるな」
「そうね……」
 お互い少しの間黙ってしまい、寂し気な雰囲気を感じた。愛理は、
「でも、私たちは前を向いて雄二の分まで生きなきゃ」
「ああ。そうだな」

 僕は教室の一角を見た。雄二の机と椅子はすでに撤去されていて、いじめたやつらも謹慎処分を受けたのかはわからないが、登校していない。当たり前の処分だ。出来れば、二度と学校に来て欲しくない。僕は、いじめたやつらを思い出すと鬼畜のようになるのを自覚するのが嫌だ。僕は愛理に話し掛けた。
「今の僕は雄二がいなくなったことで、やつらへの憎しみもあるけど、悲しみの方が勝ってるよ」と。
「私もいじめたやつへ文句を言ってやりたい気分だけど、今はいないし秀一と同じように悲しみはなかなか癒えないね……」
「だよなー……」
僕は俯いてしまった。話している際中に予鈴が鳴った。
「席に戻るわ」
「うん。今日、絵里に秀一の気持ち、伝えとくね」
「うん、わかった」

 絵里って子は多分、中学生だろう。僕を見かけたとしたら、愛理と一緒に下校している時としか考えられない。一人で帰宅している時ではないだろう、僕はそう憶測した。ちなみに、僕は、高校一年生。この年なら中学生と交際するのはどうなんだろう。僕は高校生だから子どもだと思っていないが、中学生は微妙だ。

 時間になり、担任の先生が教室のドアを開けてやって来て、教壇に立った。仁王立ちだ。そして話し始めた。
「みんな、おはよう。今日はホームルームをする代わりにみんなに悲しいお知らせがある。気付いている生徒もいると思うが、中沼雄二君が亡くなった」
そう言った瞬間、教室の中はざわつき出した。生徒の中の一人がこう発言した。
「先生! 中沼君はどうして亡くなったんですか?」
その生徒は成績も優秀で学級委員もしている優等生だ。でも、雄二の死については知らなかったようだ。これだから頭ばかり良くて、人の痛みが想像できない奴は嫌いだ。

「先生はこのクラスの担任だ。だから、責任があるから今から話すよ」
先生は咳払いをして、話す準備をしたように見えた。クラス中に緊張が走るのがわかった。
「中沼君はどうやらいじめられていたようなんだ。それを苦に、自らの命を絶った。担任として気付いてやれなかったのが悔しくてならない。だから、この後、全校集会を急遽行う予定だからみんな参加してほしい。校長先生からも、お話がある」
さっきの生徒がまた発言した。彼はクラスメイトが亡くなっても冷静さを保っている。悲しくないのだろうかと僕は彼の人間性を疑った。

「いじめた生徒は誰で、今どこで、何をしているんですか?」
 先生は答えづらそうに、
「……いじめた生徒の名前は伏せておくが、その生徒は今、自宅謹慎中だ。深く反省してほしいのだが……」
 僕はその会話に再び怒りを覚えた。冷静沈着で悲しみの様子さえ見せないクラスメイトや、亡くなった雄二だけが名前を公表されて、いじめたやつらは公表されないことに対して。不公平だ! と心の炎が燃え盛るような感覚を覚えた。

 そんなことを痛感しながら、担任の話は終わり全校集会のため体育館にみんなで移動した。歩いているクラスメイトを眺めていると、笑顔で会話している奴もいれば、意気消沈しているように見える奴もいる。

 この学校の生徒の人数は約四百名と聞いている。なので、体育館の中はいっぱになった。もちろん、校長先生や教頭先生、それぞれのクラスの教師達もいた。

 校長先生は、生徒のショックを和らげることを意識したのか、言葉を選びながら、穏やかにステージの上で感慨深く喋っていた。この人は、本当にそう思って話しているのだろうかと、妙に疑い深くなっている自分に気付いた。

 そして、帰りまで僕は怒りと気分の沈みが交互に訪れ、精神的に不安定になっていた。まるで怪しい宗教にでも入信しそうな気分だ。

物足りない……。

 雄二がいないだけで、こんなにも物足りない気持ちになるとは思わなかった。どうして、こんな気持ちになるかは、やはり彼の人間性が影響しているのだろう。雄二は勉強こそ出来なかったが、体育の成績がとても良かった。特に、陸上に関しては群を抜いていた。彼は短距離走が得意で百メートルを十一秒代で走っていた。そういう自分よりも勝っている部分はある意味、尊敬の念に値している。

 雄二は交友関係こそ狭かったものの、僕とはお互いを信頼できる関係を築けていたと思う。愛理もまたその内の一人だ。まるで三人トリオのようだった。だから尚のこそ寂しいし、辛い。

 愛理は、あまり思ったことを口に出さないタイプで、雄二のことも僕と同様に親友だと思っていたに違いない。だから、きっと彼女も辛い気持ちは一緒なはずだ。

 愛理には悪いけど、しばらくの間は彼女の後輩の絵里という子に会う気にはなれないだろう。僕の気持ちが上向きになるまで待ってもらうしかないな。

 


               


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